新型コロナウイルスの影響で遅れた「新型iPhone」の発売 携帯ショップへの影響は?:元ベテラン店員が教える「そこんとこ」(1/2 ページ)
2020年の新型iPhoneは、新型コロナウイルスの影響もあり発表と発売が約1カ月ずれ込みました。そのことによって、携帯電話の販売店にはどのような影響があったのでしょうか……?販売スタッフから話を聞きました。
10月23日、遂に2020年の「新型iPhone」ことiPhone 12シリーズのうち、iPhone 12とiPhone 12 Proの2機種が発売されました。その1週間前から受け付け始めた販売予約では、Appleの直販サイトや各キャリアのWebサイトがつながりづらくなりました。滑り出しは好調のようです。
iPhone 12シリーズの発売は、ユーザーだけではなく携帯電話ショップから見ても“朗報”です。「待ってました!」との声は大きく、新型コロナウイルスの影響で静まりかえることの多かった携帯電話売場には、久々の活気が戻ったようにも見えます。
しかしながら、例年なら新型iPhoneの発売は9月中旬から下旬。ショップスタッフからは1カ月の“遅れ”を嘆く声も少なからず聞こえてきます。今回の元ベテラン店員が教える「そこんとこ」は、iPhone 12シリーズの発表と発売の遅れにまつわるショップ店員の声を紹介します。
「1カ月遅れ」の影響は?
まずは、新型iPhoneの発表や発売が1カ月遅れた影響について話を聞いてみました。
ここ数年、新型iPhoneは毎年9月の発売が定番になっていたので、やはりそれを期待して(9月には)客足が増える傾向にありました。しかし、発売の遅れで今年(2020年)は9月に新しいiPhoneの話ができませんでした。
同じお客さまが「また1カ月後」に来て下さるとは限りません。そういう意味では、(販売の)機会損失になったように思います。
2年前というと、「iPhone XS」が発売されたタイミングです。かなり売れたモデルだったので、ちょうど2年というタイミングで買い替えに来るお客さまが多いことを考えると、“2年ぴったり”で出てこないと売り逃した感はありますね。
48回払いのプログラムで購入されたお客さまは、ちょうど残りの24回分の支払いが免除されるタイミングで買い換えができるはずでした。しかし、その権利を行使できるタイミングで新機種が出てこないのは、ちょっと売り時を逃した感はあるような気がします。
多く寄せられた声をまとめると、新型iPhoneが毎年“変わらず”9月に発売されることに依存した販売を行ってきた姿が見えてきます。端末の下取りを前提とする販売プログラムの行使タイミングを逃すことを危惧もあるようです。
販売店の視点に立つと、きっちり2年で新型iPhoneが出てこなかったことは、販売機会の損失につながったということになりそうです。
発売の遅れについては、こんな声もありました。
iPhoneは一定期間ごとに決められた台数を販売しないといけません。直近であれば、その締め切りは9月末にありました。
私たちとしては9月に新型iPhoneが出さえすれば、それまでに売れていなくても一気達成できると考えていました。
しかし、新型iPhoneは9月中に発売されなかったので、ノルマは未達ということに……。
iPhoneの販売数ノルマが2期連続で未達となると、iPhoneの取り扱い権が剥奪されてしまいます。iPhone 12シリーズは待望の新機種ではあるのですが、実はiPhoneの予約数は年々減少傾向なのです……。以前ほど新しいiPhoneが出るからと安心はしていられません。
キャリアショップや都心部の量販店は大丈夫そうですが、郊外ではiPhoneを取り扱えない店舗が2019年あたりから増えてきています。だからこそ、発売の遅れで9月末までのノルマが未達になってしまったことには、強い危機感を覚えています。
新型の発売時期が近づけば、既存モデルの売れ行きは当然落ちます。以前なら、割引を積み増すなどの手段で(古い機種を)安価に販売することもできたので、販売数が少ない郊外店でもノルマを達成できたのですが、今はそれもできません。
もっとも、郊外店舗では元々の価格が安いミドルレンジのAndroidスマートフォンやシニア向けの機種が売れ筋で、(割引なしでは)価格の高いiPhoneは決して売りやすい機種ではないんですよ。
2年ほど前にこの連載でも触れた通り、キャリア経由でiPhoneを取り扱う販売店には、iPhone“だけ”に絞った一定のノルマが設定されています。先述の通り、これを満たせなかった場合はiPhoneの取り扱い権が剥奪されます。
筆者がショップ店員として勤務していた頃を少し思い出してみると、新型iPhoneは発売直後から半年程度、日本でいう「春商戦」の終わりまでは“新型”として比較的よく売れていました。しかし、それを過ぎると、お客さまの興味が一気に“次の”新型に移ってしまい、販売(契約)に結び付けるのが簡単ではなくなっていったものです。
それでも、これまた先述の通り、以前であれば割引を積みますことで「売り切る」ことはできました。iPhoneの基盤となる「iOS」は長期間に渡りアップデートが行われるため、古い機種でも型落ち感は少ないですし、「安いなら」と買って行くお客さまも多かったのです。
しかし、2019年10月に施行された改正電気通信事業法によって割引が厳しく制限されたので、そのようなアプローチを取ることはできなくなりました。
店舗での予約数、入荷数は読めないものの、発売日だけでノルマを達成できる瞬発力がある――それが新型iPhoneのポテンシャルなのですが、発売が10月と11月にずれ込んだ影響で、一部の店舗では将来的にiPhoneを取り扱えなくなるリスクを抱えたようです。
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