IIJが法人向け5Gサービスを開始した狙いは? IIJmioでの5Gはどうなる?:MVNOに聞く(3/3 ページ)
MVNOの老舗といえるIIJが、法人向けのIIJモバイルに5Gのサービスを加えた。au回線を使う「タイプK」のみだが、料金も変わらず、5Gを利用できるようになる。11月2日には、SA(スタンドアロン)方式の5Gに対応したeSIMを開発。試験用の基地局やコアネットワークでの動作を確認している。
5G SA対応のeSIMを開発する狙いは?
―― 商用サービスとは別に、5G SAでのeSIMを開発したというニュースもありました。こちらの狙いを教えていただけないでしょうか。
大内氏 5G SAの特徴として、低遅延が実現可能なシステムということがありますが、もう1つ、セキュリティが強化される機能があります。これがどういうことかというと、初回接続時に15桁で書かれている加入者識別番号のIMSIがネットワークに渡されるのですが、これまでは、ケースによっては暗号化されず、電波を見て盗み見ることができていました。加入者トラッキングや、サービス拒否攻撃が可能になるということで、4Gを含めた脆弱(ぜいじゃく)性の1つです(ただし、実際に攻撃するには、偽の基地局を設置するなどハードルが非常に高く、日本では実現の可能性が非常に低いといわれている)
5G SAでは、ここを改善しましょうということで、IMSIに暗号化可能なSUCIが導入されています。SUCIの場合、先頭の5桁と後半部分が暗号化され、仮に無線部分を盗聴されても、元の識別子は分かりません。加入者を識別して攻撃できないように、セキュリティが強化されています。ただし、これを実現するにはSIM側にも対応が必要になります。
専用対応のSIMを開発する過程において、物理的なSIMカードだとSIMベンダーに「これこれこういう仕様のSIMを作って納品してください」とお願いすることになりますが、試作を繰り返していると、出した仕様が正しくないときにその都度手戻りが発生して、時間がかかります。IIJは、既にフルMVNOでeSIMを提供しているため、ノウハウがあります。かつ、今後はM2MやIoT向けで、いわゆるeSIMが普及する可能性は高い。そこも見越して、先行開発を進めました。5G SAでセキュリティを強化したものを提供可能ということを世間一般に認識していただき、われわれと協力してサービスの開発や提供を進められる関係を築ける方に声をかけるという意味で、技術的な発表をしました。
―― とはいえ、キャリアが提供している限り、あまりSIM側のセキュリティの心配はしなくてもいいと思います。これは、ローカル5Gを見すえてのことでしょうか。
大内氏 ローカル5Gだと、端末を利用するエリアが制限されます。端末が特定される4Gまでの技術を使ってしまうと、ずっと無線網を監視するだけで、ユーザーに対するサービス拒否攻撃などが可能になってしまいます。暗号化の手法を使えば、それができなくなります。M2MやIoT向けがメインで考えられるローカル5Gには、このような技術を積極的に採用していった方がいいと考えています。
―― まずは技術的な発表ということですが、実際に提供されるのはもう少し先になると考えてよろしいでしょうか。
大内氏 SAに対しては、まだまだ検討を重ねる余地があります。どのように使っていくのか、どのようなケースで有効な活用方法があるのかは、引き続き検討しなければなりません。そういう背景もあり、SAを試験できるエンドツーエンドのラボ環境を構築しました。一部電波を実際に吹くところは、シールドボックスを使った環境にはなっていますが、SA対応の製品をそろえ、オープンソースを利用したコアネットワークをラボ内に構築しています。
ローカル5Gは個別のソリューションに近い
―― ローカル5Gについては、IIJとしてどう取り組んでいくのでしょうか。
安東氏 5G SAはローカル5Gで展開するのが早そうですが、実際にローカル5GでSAとなると、お客さまの事案1つ1つに対応していかなければなりません。広くあまねく出すサービスというよりも、ソリューションに近い形になります。その中に、例えば、(ローカル5Gのプラットフォーム事業を展開する)グレープ・ワンとの取り組みがあります。
小路氏 5Gへの取り組みの1つとして、キャリアの5Gをやったり、SIとしてローカル5Gをやったり、パートナーを組んだりといったビジネスがあります。免許人も必要になるため、これはローカル5Gをやりたい人に取ってもらわなければなりませんが、SIMカードやコアネットワークを準備したり、5Gを利用するにはバックボーンも太くする必要があったり、トータルでのビジネスが考えられます。
取材を終えて:4G時代のルールでは限界がある
IIJモバイルのタイプKに5Gを導入したIIJだが、あくまで最初のステップにすぎない。インタビュー中の発言にもあったように、現状の方式では、ユーザーのメリットも少ない。今後の展開を見すえて、テスト的に導入したことがうかがえた。
接続の仕組みや単価が変わるのが先か、SAの導入が先かは未知数だが、4GまでのMbps単位での接続には限界がある。一方で、端末を見ると、5G対応のデバイスが急速に増えている。2021年にはエリアも急拡大するため、制度的な課題は早急に解決されることを期待したいところだ。
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