名言で振り返る、2020年のモバイル業界 楽天モバイルから5G、料金値下げまで(4/4 ページ)
2020年のモバイル業界は「激動」と呼ぶにふさわしい1年でした。5Gの商用サービスや楽天モバイルの本格サービスが始まり、NTTによるドコモの完全子会社化や政府の強い要請による携帯料金値下げもありました。2020年を振り返る特別企画として、主要なトピックでキーパーソンが発した言葉を振り返っていきます。
料金値下げ関連:政府の強い要請で月額2980円/20GBプランが登場
「大幅な引き下げの余地がある」(菅義偉官房長官※2020年6月当時)
2020年後半は、政府とキャリアの料金値下げを巡る攻防が大きな話題を集めました。その引き金となったのが、菅義偉氏の冒頭の言葉です。菅氏は、総務省が6月25日に公開した「電気通信サービスに係る内外価格差調査」のデータを持ち出し、「東京の料金水準は、諸外国と比べて依然として高い水準にある」と指摘します。菅氏は2018年にも「携帯電話料金は4割値下げできる余地がある」と発言して、実際にキャリアは値下げに踏み切りましたが、それでも「まだまだこれから」との評価。ここから、月額2980円で20GBの料金プランが生まれることになりました。
「料金の絶対値が高い背景は何かも考えるべき」(NTTドコモ 吉澤和弘社長※2020年7月当時)
政府の値下げ要請に対して疑問を呈したのはドコモでした。先に紹介した内外価格差調査では、各国でシェア1位のキャリアの通信料金を比較しているため、ドコモの料金が紹介されているのですが、この調査では家族の回線数に応じて割り引く「みんなドコモ割」が考慮されておらず、素の価格でしか比較されていません。こうした割引を踏まえて比較してほしいとドコモは総務省に求めていましたが、受け入れられず。また料金が各国よりも高いとしても、その背景に、サポートや通信品質を担保するためのコストがあることも考慮してほしいと吉澤氏は訴えていました。
「羊頭狗肉」(武田良太総務大臣)
11月以降、武田良太総務大臣が定例の記者会見で、大手キャリアに値下げを迫るシーンが多く見られました。その幕開けとなったのが、この一言。ソフトバンクとKDDIはサブブランドで4000円前後の20GBプランを発表しましたが、武田氏はメインブランドで値下げをしないことを問題視。「羊頭狗肉という言葉が適切かは分からないが、『いろんなプランを作りました。後は利用者の方々次第ですよ』というのはあまりにも不親切ではないか。形だけが割安なプランが用意されたのではまったく意味がない」と断じましたが、「安い選択肢があること」の何が問題なのか、もう少し明確な説明が欲しいとも感じました。
「誠意を見せて」(武田良太総務大臣)
その翌週の会見で、武田氏はサブブランドでの値下げが問題である理由として、メインブランドからの乗り換えに各種手数料が発生することを挙げました。コロナ禍で家計の負担が重くのしかかっているため値下げせよという要請はいささか強引に感じますが、ブランド間の移行に手数料が掛かるのは、確かにユーザーにとってはハードルになるため、この説明には納得はできます。さらに武田氏は大手キャリアの料金プランが分かりにくいことや、多くのユーザーがデータ容量を余らせていることを指摘し、「誠意を見せて、改める努力をしてもらうことが重要だ」と強いメッセージも発しました。
「それ自体がある意味まやかし」(武田良太総務大臣)
武田氏の熱弁は止まりません。その翌週の会見では、大手キャリアが既に解約金なしのプランを提供しており、そこからサブブランドに乗り替えれば手数料は発生しないことを問われましたが、武田氏は「それ自体がある意味まやかし」と一蹴。改正法に適応させたものより前のプランを契約している人は、解約金が軽減されていないことから、「表のきれい事ばかりで国民を欺いている」とヒートアップ。結果として、3キャリアともブランド間の移行手数料を撤廃することを決定しました。
「サブブランドとは呼ばすに、20代のメインプランとして打ち出した」(NTTドコモ 井伊基之社長)
総務省が「メインブランドのみの値下げ」を問題視する中、ドコモはオンライン専用のahamoを発表して業界に衝撃を与えました。ただしドコモユーザーは当初MNPで移行する必要があったこと(後ほどMNP手続き不要で移行に可能になった)、キャリアメールが使えないこと、みんなドコモ割やドコモ光セット割が適用できないなど、明らかにサブブランドといえる中身。しかしドコモはahamoについて「サブブランド」という言葉は一切使わず、あくまで料金プランであることを強調しています。
恐らく武田大臣の「メインブランドで値下げすべし」という要請に配慮したためだと思われますが、大臣が問題視したのはメインブランドとサブブランド間の移行ハードルが高いこと。ahamoではMNPや新規契約に関する手数料は発生せず、MNPでの手続きも不要なため、サブ(別の)ブランドに分類しても何ら問題ないはず。むしろ“ドコモのプラン”とすることで、ドコモとは仕様が異なることを理解せずに申し込む人や、ショップで申し込もうとする人が出るなど、混乱を招く恐れがあります。
「LINEとのシナジーをソフトバンクグループとして出していく」(ソフトバンク 榛葉淳副社長)
ahamoの対抗策としてソフトバンクが発表したのが、「SoftBank on LINE」をコンセプトとするサブブランド。月額2980円でデータ20GBはahamoと同じですが、SoftBank on LINEではLINEがデータフリーで、LINEからも申し込めるのが違い。MVNOのLINEモバイルは今後ソフトバンクに統合する見通しで、SoftBank on LINEはソフトバンクがMNOとしてサービスを提供します。その理由が榛葉淳副社長の見出しの言葉であり、ahamoとの差別化ポイントがどこまでユーザーに響くのかに注目です。
「お客さまにお選びいただける、競争力のある料金プランをお届けしたい」(KDDI 高橋誠社長)
ahamo、SoftBank on LINEと来て、KDDIがどのような対抗策を発表するのかが注目を集めていますが、KDDIの高橋氏は1月に新たな料金プランを発表することを予告しました。ahamoとSoftbank on LINEに対抗するサービスは、KDDIが2020年10月に設立した新会社「KDDI Digital Life」が提供する可能性が高いでしょう。同社ではオンラインに特化した通信サービスを提供し、eSIMも取り扱います。さらに、ユーザーが自由に料金プランをカスタマイズできることを特徴としています。
UQ mobileはY!mobileと同程度の料金になるとして、5G向けの大容量プランはNetflixやAmazonプライムなどのセットプランが中心のため、一目で料金のお得感が出しにくい面があります。KDDIがどこに手を入れ、どのように訴求するのか注目です。
独断と偏見で選ぶ名言大賞は「誠意を見せて」
個人的に決める名言大賞は、武田総務大臣の「誠意を見せて」です。11月から12月にかけての会見で、大手キャリに対する要望がヒートアップし、「ブランド間の移行手数料撤廃」と「メインブランドでの値下げ」を実現させました。これらはもちろん、ユーザーにとってはメリットしかありませんが、こうした競争環境にまつわる政策は、有識者や事業者たちとの議論を経て決定されるものです。それが首相や総務大臣らの“鶴の一声”で決まるようなことが当然になると、長い目で見て本当にユーザーや業界のためになるのか、不安を禁じ得ません。2021年も、政府と通信キャリアの攻防からは目が離せなくなりそうです。
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