菅政権の圧力で激変したモバイル業界 各社が発表した料金施策を振り返る(2/4 ページ)
2020年末から2021年初頭にかけ、携帯各社の料金を巡る動きが短期間のうちに慌ただしく変化している。大手3キャリアはオンライン専用の安価な20GBプランを発表。楽天モバイルは1GB以下なら0円とし、小容量の市場を破壊。MVNOも対抗策を発表したが、通信品質の面で課題がある。
ahamo旋風が変えた割引と手数料
ただ菅政権の姿勢がどうあれ、ahamoが消費者から非常に大きな評判を得たことは事実だ。その影響の大きさを示したのが、2020年12月9日にKDDIが実施した新料金プラン「データMAX 5G with amazonプライム」の発表会での一幕である。
その発表会の内容は、ある意味従来の料金プラン発表と決して大きく変わるものではなかった。だがahamoから間をおかずに実施され、消費者がahamo対抗プランを求めていたタイミングであるにもかかわらず、それとは異なる従来通りの複雑な割引の仕組みが存在するプランを発表し、しかも発表会で割引前の料金を明確に示さなかったことが「不親切だ」と批判を集めた結果、SNSで炎上を招くに至ったのである。
KDDIは2020年12月9日に発表会を実施し、新料金プラン「データMAX 5G with Amazonプライム」を発表したが、複雑な割引や、割引前の料金を提示しなかったことなどから、ahamo対抗プランを期待した人達から猛批判を浴びる結果となった
この炎上騒ぎを受け、携帯各社の料金プラン、とりわけメインブランドの新料金プラン発表に際しては2つの変化が起きている。1つは、家族や固定回線などにかかわる割引自体は継続して提供するものの、割引前の料金を提示し、さらに割引の仕組みを丁寧に説明するようになったこと。そしてもう1つは、料金が複雑だとされる大きな要因の1つとなっていた、半年、1年といった期間限定の割引施策をほぼ提供しなくなったことだ。
実際、ドコモが2020年12月18日に発表した「5Gギガホ プレミア」「ギガホ プレミア」、ソフトバンクが2020年12月22日に発表した「メリハリ無制限」、そしてKDDIが2021年1月13日に発表したauの「使い放題MAX 5G/4G」などは、いずれも期間限定の割引がなく、説明時に割引前の料金を発表時に提示するようになっている。
それに加えて各社は、ブランドや料金プランを移行する際の手数料を撤廃することも発表している。これは武田大臣からも指摘されていたものだが、ahamoが料金プランとして打ち出され、従来プランからの移行時に手数料がかからない点も少なからず意識したといえる。
「povo」にかみついた武田大臣、続く政権の干渉
それだけインパクトのあったahamoに対抗するべく、ライバル他社もオンライン専用の新料金プランを相次いで打ち出してきた。ソフトバンクは2020年12月22日に、傘下のMVNOであるLINEモバイル吸収し、「SoftBank on LINE」をブランドコンセプトとしたオンライン専用の新料金プランを発表。LINE使用時のデータ通信はカウントしないなどして差異化を図っている。
そしてKDDIも、2021年1月13日にやはり、auブランドのオンライン専用料金プラン「povo」を発表。1回5分あたりの無料通話をオプションにすることで、月額2480円と他社のプランより料金を抑える一方、必要に応じてスマートフォン上の簡単な操作でオプションを追加できる“トッピング”の仕組みを用意することで、こちらも他社との差異化を図っている。
KDDIのahamo対抗プラン「povo」は、1回5分の通話定額をオプションにしたことで基本料を他社より500円引き下げているが、武田大臣はその点が「非常に紛らわしい」と批判した(写真提供:KDDI)
だがそのpovoにかみついたのが武田大臣だ。2021年1月15日の記者会見で、武田大臣は記者からpovoに対する受け止めを聞かれた際、「非常に紛らわしい発表だったと思います」と答え、再び大きな波紋を呼んだのである。
武田大臣がその根拠としていたのが、povoが他社の同種プランと比べた場合、無料通話をオプションにして他社より500円引き下げたこと。KDDIが「最安値と言いながら、他社と結局同じ値段であった」ことが、分かりにくさを招くと話していた。
だがpovoの発表時、KDDIの高橋誠社長は記者からの質問に答える形で、最安値を目指したという旨の発言をしているが、プレゼンテーション中に最安値であることのアピールはしていないし、povoのWebサイトなどでもそのようなアピールはなされていなかった。またそもそもahamoの月額2980円という料金が、オンライン専用プランの“基準”であるという定義は誰もしていない。
そうしたことから、大臣のこの発言には批判の声も少なからず挙がり、2021年1月19日の記者会見で、武田大臣は「料金プランに対して指摘したつもりはございません」と釈明するに至っている。
そもそも総務大臣が、特定の民間企業の料金施策にここまで言及することは、従来ほとんど見られなかったものだ。自由な競争が担保されているはずの携帯電話市場に、大臣が言及してその戦略を左右してしまうことは、ある意味で自由な競争を奪い事実上の官製市場を作り上げてしまいかねないだけに、このような発言が続くことは大いに懸念される。
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