「格安スマホ」という言葉もなかった黎明期、MVNOはどんな発展を遂げたのか:ITmedia Mobile 20周年特別企画(2/3 ページ)
2001年に誕生したMVNOは、日本通信が最初にサービスを提供した。2000年代後半には、外出先で手軽にインターネットを利用できる手段として、モバイルWi-Fiルーターが支持を集め、MVNOと提携して販売を伸ばした。その後、MVNO市場の主役はスマートフォンに取って代わり、高速通信と低速通信を切り替える技術や、容量別プランが主流になる。
スマートフォンの登場でMVNO環境にも変化が
しかし、これらのイー・モバイル、UQ WiMAXを利用するMVNOは、その後徐々にMVNOの主流の地位を失っていきます。その原因となったのは、2010年代に急速に普及を始めたスマートフォンです。通信事業者から視点からの、ノートPCとスマートフォンの最大の違いは、「自前の通信手段を持っているかどうか」です。現在に至るまでSIMスロットを持たない製品の多いノートPCに対し、携帯電話の発展系としてのスマートフォンは全てがSIMスロットを持ち自力でネットにつながる機能を持っています。
これまで外出先でのネットアクセスにノートPCを使っていた利用者のうち、スマートフォンで事足りる利用者はスマートフォンに移行し、ノートPCが依然として必要な利用者も、特にライトユーザーを中心にその通信手段はスマートフォンのテザリングで足りるようになっていきます。
このように、使い放題だけれども料金が比較的高価で2年縛りといった期間拘束があったモバイルWi-Fiルーターから、スマートフォン向けの安価なSIMカードに利用者ニーズは移り変わっていきました。このビジネスで先行したのは、MVNOのパイオニアでもある日本通信です。MNOの当時のプランではテザリングに追加料金を設定することが当たり前だった中、特に流通大手のイオンと提携して展開した「イオンSIM」は、100kbpsに通信速度が制限されたSIMカードでしたが、月額980円(税別)という低料金で、スマートフォンを常時ネットにつないでおけるMVNOサービスとして人気を集めました。
高速通信と低速通信を切り替えられる技術に着目
この頃、筆者の勤めるIIJは、1つの新しい技術に着目していました。それが、当時技術標準化が終わったばかりのPCC(Policy and Charging Control)です。PCCを用いることで、データ利用量や通信料金の推移を、リアルタイムに通信速度に反映することが可能となります。
2011年当時、筆者はIIJにおいてLTEに対応可能な新たな通信機器のMVNO事業への導入を担当していたのですが、PCCにより新たなタイプのMVNOの料金プランを提供できることに気付き、それを新しいスマートフォン向けモバイルサービスに仕立てることを思いつきました。それが2012年にサービスを開始したIIJmio高速モバイル/Dサービス(現IIJmioモバイルサービス)です。
PCCを活用することで、プランのデータ量を消費する高速通信と、消費しない低速通信(当時は128kbps、現在は200kbpsで、4月スタートのギガプランからは300kbps)を切り替えられます。高速通信のデータ量はプランにバンドルされているか、Webサイトなどから購入できます。かつ購入すれば即時、高速通信が可能となるというものです。あわせて、高速通信可能なデータ量を複数枚のSIMカードでシェアできる仕組みも開発しました。
これらのサービスは、モバイルWi-Fiルーター向けの、使い放題が中心であったそれまでのMVNOサービスとは一線を画し、切り替え可能な低速通信やシェアといった、これまでにない新しいフィーチャーを取り込んだものです。サービスの企画担当としては、一般の消費者に受け入れられるか不安でもありました。しかし、サービス開始後、程なくしてIIJmioは利用者の皆さまから厚い支持をいただけることが分かり、筆者は肩をなで下ろすことになります。
今では容量別のプランの裏方として、MVNOのみならずMNOにおいても広く用いられているPCCですが、筆者が知る限り、PCCを商用サービスに使い、リアルタイムに切り替え可能な高速通信・低速通信をプランとして提供した通信事業者はIIJが世界で最初であり(世界の全ての事業者のサービスを完全に把握しているわけではないので、間違っていたらごめんなさい)、MVNOがサービス開発においてMNOにも先行することができることを証明した瞬間でもあります。
この後、MVNO各社からPCCを活用し、料金を抑えつつ高速通信を利用可能なスマートフォン向け料金プラン(格安SIM)が広く提供されるようになり、それまで主流だった使い放題のモバイルWi-Fiルーターを徐々に圧倒していくことになります。また、MVNOでの提供が先行した容量別プランは、2014年にMNO3社から提供された「新料金プラン」(NTTドコモ「カケホーダイ+パケあえる」、KDDI「カケホとデジラ」、ソフトバンク「スマ放題」)が追随することになり、MVNOの作った料金プランがMNOに波及していくという、画期的な出来事となりました。
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