「格安スマホ」という言葉もなかった黎明期、MVNOはどんな発展を遂げたのか:ITmedia Mobile 20周年特別企画(3/3 ページ)
2001年に誕生したMVNOは、日本通信が最初にサービスを提供した。2000年代後半には、外出先で手軽にインターネットを利用できる手段として、モバイルWi-Fiルーターが支持を集め、MVNOと提携して販売を伸ばした。その後、MVNO市場の主役はスマートフォンに取って代わり、高速通信と低速通信を切り替える技術や、容量別プランが主流になる。
SIMフリースマートフォンも拡充
MVNOのスマートフォン向けサービスが拡大していくにつれ、スマートフォンメーカーもMVNOに目を向けていくようになります。いまだMVNO向けのスマートフォンの販売のなかった2012年当時に、IIJmioを利用されていた初期のお客さまの多くは、ドコモショップで販売された後、「中古品」「新古品」として中古ショップに流れたドコモブランドのAndroidスマートフォンを利用されていたようです。
これらのドコモスマートフォンは比較的容易に入手できた反面、MVNOのSIMカードを挿入すると、大きな利用者ニーズのあるテザリングが封じられるといった制約も抱えていました。一方、MVNOが提供するSIMカードがマーケットでの存在感を拡大するに連れ、スマートフォンメーカーが直接、キャリアショップ以外の販路で、テザリングが可能であるなど機能面での制約の少ないSIMロックフリースマートフォンを販売するようになります。
これらのメーカーの多くはこれまでMNOとの関わり合いの薄かった海外メーカーでしたが、富士通やLGなど、MNOのブランドでスマートフォンを提供していたメーカーも含まれていました。このようなSIMロックフリースマートフォンは、当初は家電量販店での販売が主流でしたが、後にはMVNOも端末の取り扱いを増やしていきました。
2014年には、日本経済新聞が「格安スマホ」という用語でスマートフォンとMVNOのSIMのセット販売のことを記事にし、その後業界からも賛否ありつつ、「格安スマホ」は、MVNOを表す用語の1つとして認知されたように思われます。
SIMフリーモデルの販売を開始したメーカーの中にはAppleもいました。2013年、Appleは突如として直営店にてSIMロックフリーのiPhone 5s/5cを販売開始したのですが、MVNOの利用者がiPhoneを利用する道が、中古だけではなく新品にも開けたことは、MVNOの利用者の拡大に大きく寄与しました。その後、最新のiPhone 12に至るまで、Appleは各モデルで日本市場でのSIMロックフリーiPhone/iPadの販売を行っています。
MVNOの躍進を陰で支えた政策
このようなMVNOの躍進を陰で支えたのは、既にご紹介したモバイルビジネス研究会の報告書と、モバイルビジネス活性化プランに端を発した総務省による一連のMVNO振興政策です。特に2014年に発表された「「モバイル創生プラン(※PDF)」では、国民の携帯電話料金の負担軽減を掲げ、2016年までにMVNOの回線数を1500万に、という目標が示されました。
このような追い風の中、業界的な課題を広く議論して解決しながらMVNOの拡大を図っていくために、2013年、一般社団法人テレコムサービス協会において、MVNOの業界団体となる「MVNO委員会」が設立されました。筆者はその創立当初より、ワーキングレベルチームとなる委員会内の運営分科会の副主査を拝命し、2017年からは同分科会の主査を務めています。
MVNO委員会はその後、継続的に業界横断的な課題の調査や分析、消費者へのサービスの向上を目指した取り組みなどを続けており、過去に2度、業界からの政策提言を発表してMVNOが活躍しやすい環境作りを訴えました。
また、毎年3月にさまざまな業界のトピックを取り上げて議論する公開のフォーラム「モバイルフォーラム」を開催するという広報的な活動や、MVNO業界における課題を明らかにするための勉強会、海外視察といった活動を続けています。最近では、LINEの年齢認証をMVNOに拡大する取り組みにおいても、MVNO委員会の関与をITmedia Mobileでもニュースに取り上げていただきました。
このように、紆余(うよ)曲折はありながらも順調に成長を続けてきたMVNOですが、不意に転機が訪れることになります。どうぞ、中編と後編もお楽しみに。
著者プロフィール
佐々木 太志
株式会社インターネットイニシアティブ(IIJ) MVNO事業部 ビジネス開発部 担当部長
2000年IIJ入社、以来ネットワークサービスの運用、開発、企画に従事。特に2007年にIIJのMVNO事業の立ち上げに参加し、以来法人向け、個人向けMVNOサービスを主に担当する。またIIJmioの公式Twitterアカウント@iijmioの中の人でもある。
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