レッドオーシャン時代のMVNO市場を振り返る 「接続制度」と「公正競争」の行方は?:ITmedia Mobile 20周年特別企画(2/3 ページ)
MVNOが登場した当初の市場はブルーオーシャンで、数々の事業者が参入しました。しかし、2015年ごろから市場の様相は変わり始めます。既存MVNOが対抗のために価格を下げ、市場はあっという間にレッドオーシャン化しました。
注目される接続制度とキャリア・MVNOの公正な競争
このような市場環境の変化の中、キャリアとMVNOの「公正な競争」のための環境整備に改めて注目が集まります。
日本のMVNOを制度面で支えているのは、「第二種指定電気通信設備制度」にもとづく接続制度です。
この制度のもととなった「第一種指定電気通信設備制度」は、新規参入した電気通信事業者(固定電話会社)の利用者が、既存の電気通信事業者(NTTなど)の利用者と互いに通話が可能になるよう、シェアの高い電気通信事業者に対して新規参入事業者との電気通信設備の接続を義務化する、その際に不当に高い接続料を要求することを禁止するという制度でした。
これを援用する形で既存の大手携帯電話会社とMVNOの間の「接続」を規定したのが「第二種指定電気通信設備制度」です。
MVNOは基地局などの電気通信設備を持たない携帯電話事業者であり、自社で直接サービスを提供することはできません。そのため、通信設備の構成から見ると第一種で規定されるような「相互接続」は行えず、実際には回線の「卸売り」と同じ形となります。ともかくも制度上「接続」として処理されることとなり、大手携帯電話会社には接続の義務と「原価+適正利潤」での接続料の設定が求められることになりました。
結果的に3大キャリアは制度に基づく「接続」と、自主的な料金設定である「卸」の両方について、同じ機能・料金をMVNOに提供する形となっています。これは、仮に「卸」の方が「接続」よりも低額になった場合、原価+適正利潤で提供する前提の「接続」における原価算定が疑われることとなり、反対に「接続」より「卸」の方が高額になった場合、コストメリットがない卸を選ぶMVNOが現れないためです。
【訂正:2021年6月1日12時14分 初出時に、「『卸』の方が『接続』よりも高額になった場合」としていましたが、正しくは「『卸』の方が『接続』よりも低額になった場合」です。おわびして訂正致します。】
接続制度を背景にした原価での設備提供はMVNOの登場において大きな役割を果たしましたが、MVNOの立場に立つと、制度に対してもどかしさを覚えるのも事実です。その1つに、事実上MVNOの「仕入れ額」に相当する「接続料」の設定にまつわる課題があります。
第二種指定電気通信設備制度では、接続料は「原価+適正利潤」であることが求められていますが、具体的にどのように原価を計算すべきかは定められていません。また、2019年度までは接続料の算定に「遡及(そきゅう)精算方式」が取られていたため、MVNOに提示される接続料は2年前の原価にもとづく金額となっていました。毎年数%〜十数%のコストダウンが続く携帯電話市場においては、キャリアが提示する2年前の原価ベースの接続料ではキャリア(サブブランド)に対して競争力のあるサービスが組み立てられません。
やむを得ず各MVNOはキャリアの接続料がどの程度低下するかを予測し、先行してエンドユーザー価格を決定することになります。しかし接続制度では接続料の将来予測に必要な情報の開示は定められていません。不十分な情報に基づく接続料の予測はMVNOの経営をハイリスクなものにしていました。
こうした状況はキャリアとMVNOの公正な競争を阻害するものであるとし、MVNO各社は改善を求めます。この要請を受け、総務省が設置する「接続料の算定等に関する研究会」において有識者の間で議論が行われ、2020年以降はキャリアが提示する接続料について、キャリアが合理的な予測に基づき、将来実施されるであろうコスト低減を織り込んだ額を提示する「将来原価方式」の導入が行われることとなりました。
また、低価格市場に進出してきたキャリアのサブブランドであるUQ mobileとY! mobileについて、他のMVNOがキャリアから提示されている接続料であれば到底実現できないような通信速度が出せていること、広告・販売支援などの営業面に大きなコストが費やされていることが注目されます。
MVNO各社からは何らかの形でキャリアから支援が行われているのではないか、あるいは、キャリアの企業グループ内戦略として赤字覚悟で販売されているのではないかという疑義が提示されました。本件についても、総務省が設置する「モバイル市場の公正競争促進に関する検討会」において有識者による検証・議論が行われることとなりました。
このように、キャリア(サブブランド)・MVNOが競合関係となる中、立場の異なる事業者間でどのようにして公正な競争環境を実現するかが、業界の大きな課題となりました。
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