なぜ総務省が「スマホ講座/乗り換え相談所」を推進するのか? 携帯ショップの役割も重要に:ワイヤレスジャパン 2021(2/2 ページ)
通信行政を担う総務省は、携帯電話市場の形成に積極的に関わり、携帯キャリア各社への規制を通して市場の形成を支援してきた。一方、近年の同省の取り組みは「スマホ講座」や「乗換え相談所」を実証事業として展開するなど、従来の規制行政にとどまらないものに広がっている。一見すると唐突に見える新政策にはどのような意図があるのか。
マイナンバーカードと携帯ショップの関係
コロナ禍で注目されながらも、課題を浮き彫りにしたのが「マイナンバーカード」だ。マイナンバーカードは利用者証明と電子文書の改ざん防止証明という2つの機能を持ち、行政のさまざまな手続きを円滑に進めるために導入された制度だ。コロナ対策として実施された1人10万円の特別定額給付金の給付事業でも活用された他、e-Taxでの確定申告も利用できるようになるなど、機能は徐々に拡充しつつある。
さらに、2021年10月にはマイナンバーカードを健康保険証として利用する仕組みがスタートする。病院や薬局でかざして認証するもので、カードリーダーにカメラを搭載し、顔認証で本人かどうかを確認できる。さらに、過去の診療データを医療機関側に自動で提供できる、健康保険の支払い限度額を超えた際の立て替え払いが不要になるといったメリットがあるという。
マイナンバーカードの機能が拡充されれば、行政手続きのデジタル化が進むことになり、効率的な行政サービスの提供につながる。政府にとってはコスト削減になり、住民にとっても手間の削減につながる。
一方で、マイナンバーカードは2014年の利用開始から7年たつにもかかわらず、普及率は30%を超えた程度と芳しくない。そして、システムの仕様上、2つのパスワードが必要となるなど不便な部分もある。コロナ禍では、特別定額給付金の手続きでパスワードを忘れて使えなかったという人も続出するなど、マイナンバーカードの課題が浮き彫りとなった。
こうしたマイナンバーカードの課題を解決するために総務省が現在進めているのが、スマホへのマイナンバーカード機能の搭載だ。まずはAndroid端末への2022年度中の導入を目指し、iPhoneについても同じ時期に展開できるよう調整を進めているという。
スマホのNFC機能を活用したデジタルID(本人認証)の仕組みが標準規格化されており、マイナンバーカード機能ではその標準規格「GP-SE」を活用する。アプリで操作して導入することで、2段階のパスワードの入力などの手間を減らし、より使いやすくするという。生体認証の活用も検討されている。
このスマホ向けマイナンバーカードを普及させるための舞台として、先に言及した高齢者向けのスマホ講座を活用できるというわけだ。
携帯ショップとマイナンバーカードを巡っては、携帯電話紛失時のサポートも必要となってくる。スマホ版マイナンバーカードには、スマホの紛失時に遠隔で無効化する機能が搭載されるが、その手続きにおいて携帯ショップが活用できるだろう。
総務省に翻弄されつつ期待される携帯代理店
総務省はこれまで、通信行政の競争促進を進めながら、多くの人に新しい通信技術を普及させるという2つの課題に取り組んできた。その結果、2019年に通信と端末の完全分離を断行し、従来の携帯業界の販売慣習を大きく揺るがす結果となった。
これまでの携帯販売の現場では、通信と端末のセット販売は、携帯電話業界では当たり前の商慣習だった。携帯販売代理店は端末を販売するだけではほとんど得られず、通信回線をセットで販売することで、キャリアから報奨金として収益を得る形をとっていた。2019年の規制は、このビジネスモデルを根本から覆すことになった。
そこから2021年現在に至るまで、携帯電話市場は大きく揺れている。大手キャリアはオンライン専用プランを導入したり、店頭サポートを有料化したりするなど、新たな体制に移行しつつある。ほとんどが大手キャリアの代理店である携帯ショップは、その中で窮地に立たされている。
一方で、総務省が打ち出した「スマホ講座」や「スマホ乗り換え相談所」、そして「マイナンバーカードのスマホ搭載」という3つの政策には、いずれも携帯ショップの果たす役割が大きい。飯倉氏の講演からは、地域のデジタル化の要として携帯ショップを存続させたいという総務省の強い期待が感じられた。
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