「eSIM」で乗り換えは促進されるのか? メリットと課題を整理する(2/2 ページ)
最近の「iPhone」「Pixel」シリーズに搭載されている、組み込み型のSIM「eSIM」。キャリアやMVNOのeSIMへの取り組みには大きな違いがあるが、総務省はキャリアにeSIMへの早期対応を強く求めている。eSIMを取り巻く各者の動向を振り返り、その普及に向けた課題を探ってみたい。
eSIMサービスを提供したくてもできないMVNO
一方のMVNOも、eSIM提供に向けた動きは鈍い。コンシューマー向けにeSIMのサービスを積極的に提供しているのはインターネットイニシアティブ(IIJ)の「IIJmio」くらいで、新プランの「ギガプラン」では2GBのプランで月額440円(税込み)と非常に低価格なサービスを提供するなど攻めの姿勢を見せているが、音声通話は利用できずデータ通信のみという制約もある。
だがMVNOの場合、eSIM向けサービスを提供したくてもできなというのが正直なところであろう。eSIM向けサービスを提供するには、先にも触れた通りeSIMに遠隔で情報を書き換える必要があるのだが、そのためにはRSP(Remote Sim Provisioning)という機能が必要になる。
だがRSP機能が使えるのは、MVNOの中でも自身でSIMを発行できるフルMVNOだけに限られている。だがフルMVNOとなるには多額の設備投資が必要なことから、規模が小さい企業には難しく、フルMVNOの数自体が少ないことがeSIM向けのサービスが増えない要因となっている。
またフルMVNOとなったMVNOも、その範囲はデータ通信に限られており、音声通話のサービスは提供していない。IIJmioのeSIM向けサービスがデータ通信に限られるのは、フルMVNOとしてのサービスがデータ通信のみに限られているからだ。
eSIM促進に大きくかじを切る総務省、一方で課題も
そうした状況を大きく変えようとしているのが総務省だ。携帯大手3社による寡占を長年問題視し、事業者間の乗り換え障壁を限りなく減らしたい総務省は、SIMカードの差し替え不要で、オンラインによる手続きのみで他社に乗り換えられるにeSIMのメリットに注目していた。そこで2020年10月に公表した「モバイル市場の公正な競争環境の整備に向けたアクション・プラン」でeSIMの利用促進を打ち出し、有識者会議「スイッチング円滑化タスクフォース」でも議論を進めてきた。
その結果、スイッチング円滑化タスクフォースの報告書ではキャリアに対し、「2021年夏頃をめどとして導入することが適当」と結論付け、とりわけ対応に消極的な携帯3社にeSIMの早期提供を求めるに至っている。またフルMVNOではないMVNOに対しても、eSIMサービスを提供できるようキャリアがRSP機能を開放することを求めており、その時期はキャリアがスマートフォン向けのeSIMサービスを開始するのと同じタイミングが適当としている。
一方、キャリアが懸念していたセキュリティに関しては、「GSMAによる認証を受けたサーバや暗号化された通信を利用等することにより、ベンダーと協力」することで、SIMカードと同等のセキュリティを確保できる仕組みが導入できるとしている。ちなみにセキュリティ上重要となる本人確認に関しては、音声通話サービス以外でも本人確認が望ましいとしており、その認証にはeKYC(電子本人確認)の活用が適当としている。
一連の総務省の動きを受けて、ソフトバンクは2021年7月14日にソフトバンクブランドでもeSIMのサービス提供を開始し、まだ動きを見せていないドコモとKDDIもこれに追随することになるだろう。またMVNOに向けたRSP機能の開放が進めば、今後各社からeSIM対応サービスが相次いで登場することとなる。それゆえ年内にはかなりのサービスがeSIM対応となる可能性が高いと考えられるのだが、実際の利活用を考えると課題が少なくない。
それはキャリアの懸念事項の1つでもある、ユーザー側のリテラシーに起因する問題に解決の道筋が示されたわけではないことだ。先のタスクフォースの報告省によると、利用者に向けたサポートに関しては「申し込みから開通までの一連の手続に関する利用者へのサポートの充実を図るべき」とされているのみで、リテラシー向上に向けた具体策に言及されていない。
各社の現状のeSIMによるサービスの契約・利用のスキームを見ると、正直なところ誰にでも勧められるとは言い難いと感じている。リテラシー向上が進まない中でeSIMによる乗り換え促進を推し進めるのには、やはり無理があるのではないかというのが筆者の見方だ。
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