銀行間の個人送金を手軽かつ安価に メガバンク5社が立ち上げた「ことら」の狙い(2/2 ページ)
銀行間の個人送金を安価に、利便性高く送金できるような仕組みを、メガバンク5行が構築しようとしている。その実務を担う「株式会社ことら」が7月20日に設立された。現時点では決まっていることは少ないが、ことらが目指す新たな送金の仕組みや今後の展開について、ことらの代表取締役社長である川越洋氏に話を聞いた。
決済サービスの垣根を越えた送金も可能に
銀行口座直結以外の、例えばPayPayのような決済サービスだと、基本的には銀行口座やクレジットカードから残高をチャージして決済を行う。送金する場合も、残高内のバリューを送り合う形だ。そのため、例えばPayPayからd払いに残高を送る、というような相互運用性は成り立ちにくかった。
ことらは、こうした相互運用性の実現にも取り組んでいく考え。実現方法は検討段階だが、例えばPayPayに「ことらで送金」ボタンが加わり、送金相手の電話番号を入力すると相手の決済サービスを問わずに登録された口座にPayPayの残高が送金される、という方法などがあり得る。この場合、これまでのように「一度残高から自分の銀行口座に出金し、それを改めて相手の銀行口座に送金する」という二度手間が発生しない。ことらの手数料はかかるが、銀行での送金よりも有料だが安価に送れる。これまで通りPayPay同士の送金なら無料で済む、といったすみ分けになるだろう。
pringを買収したGoogleも、ことらを使えばpringの資産を使わずに金融機関と接続できる。ことらと接続するためのAPIの開発を、国内の開発者を抱えるpringが担う、という可能性もありそうだ。
ことらの手数料は、銀行間の送金手数料よりは安価なので、決済事業者によっては優良顧客には月数回無料にする、といったサービスもあり得る。ことらの手数料にはJ-Debitのネットワーク利用料も含まれるというが、それでも従来よりも安価になるため、手軽に送金が可能になることが期待できる。
銀行間の送金でも、基本的には個人同士をターゲットにしているため、例えば法人口座ではことらを利用できないようだ。今後は法人利用も検討するとはしつつ、まずは個人間の利用で全銀システムとのすみ分けを図る狙いだ。
資金決済インフラをブレークスルー
さらに、税金の支払いにことらを利用する計画もある。現在、税金の支払いなどでは、自動引き落としや役所の窓口に加え、請求書記載の番号を入力して振り込むPay-easyや、コンビニエンスストアで支払うという方法はある。昨今ではコード決済アプリの中で請求書のバーコードを読み込んで支払う方法も出てきている。
総務省は請求書にQRコードを付与して振り込みを容易にする計画を示しており、ことらではこのコードを読み取って送金できるようにしたい考えだ。これもJ-Debit基盤を使うことらならではで、新たに自治体などと交渉しなくても、コード決済事業者がことらのAPIに接続すれば、請求書払いに対応したほとんどの自治体で、QRコードを使った支払いが可能になるとみられる。
こうした機能は、一部の地方銀行から要望があったとのことで、窓口に行かなくても容易に税金の支払いができるという点がメリットだ。
今後、次期全銀システムの議論も始まるが、そうした議論にはことらとしても参画し、全銀ネットとの役割分担も議論して、決済システムとしてのあるべき姿を議論していきたい、と川越社長。
川越社長は「全銀ネットにはない機能をことらで提供する。全銀ネットには流れない、(個人間送金という)キャッシュの部分を拾い、ことらに接続する事業者がエンドユーザーに対して新しいサービスを提供できるようにしていく」と意気込む。ことらによって、「日本の資金決済インフラをブレークスルーするために取り組んでいる」と川越社長はアピールしている。
関連記事
- キャッシュレス決済の売り上げを毎日入金 JCBとpringの実証実験で見えたこと
キャッシュレス事業者から店舗への入金は即日であることは少なく、場合によっては「翌日の仕入れ」に影響しかねない。そうした課題を解決するために、pringアプリを通じてJCBから店舗へ売上金を毎日入金するという実証実験を行っている。店舗側の潜在的なニーズを探ることも目的の1つだ。 - Google、スマホ送金サービスの「pring」を買収
7月13日、Googleがpringの株式取得に向けた契約を締結した。pringの親会社であるメタップスが、pringの全株主をGoogleに譲渡する。pringによると、現時点でpringのサービスに変更はないとのこと。 - ドコモと三菱UFJ銀行が業務提携 2022年中にdポイントがたまる「デジタル口座サービス」を開始へ 合弁会社の設立も検討
NTTドコモと三菱UFJ銀行が、デジタル金融サービスの提供を目的とする業務提携契約を締結した。2022年中に新しいデジタル口座サービスの提供を開始する他、金融サービスの企画や開発、データの利活用を目的とする合弁会社の設立などを検討する。 - PayPayの送金に新機能、ホーム画面でQRコード表示も可能に
PayPay残高の送金に新機能を追加。送る・受け取るのタイミング以外でもメッセージを送受信できるチャット機能や、背景のデザインを選んで送るテーマ機能などを利用できる。 - “ドコモ口座×ゆうちょ銀行問題”が残した教訓 決済サービスの向かう先を考える
8月後半から9月初旬にかけて明るみに出たドコモ口座の不正利用。この問題はドコモのキャリアフリーと銀行側の確認不備に由来するものだった。今回の事件はまだ進行中ではあるが、これまでにさまざまな教訓を残した。 - ドコモ口座、決済や入出金の機能を「d払い」アプリへ統合
NTTドコモは「ドコモ口座」の決済、入出金の機能などを「d払い」アプリに統合。機能統合に伴い、ドコモ口座の名称を「d払い残高」へ変更する。 - 銀行口座を介さずに企業から個人へ送金 「LINE Pay かんたん送金サービス」開始
LINE Payが、金融機関の口座を登録せずに企業が直接ユーザーに送金できるサービスを開始。ユーザーが登録した「LINE Payナンバー」をもとに、企業は口座を介さずに直接LINE Payでインセンティブなどを支払える。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.