シスコが最新の5G戦略を紹介 「5Gショーケース」ではパナソニックやNECとの連携も
シスコシステムズが5Gの開発戦略や、5Gを活用した実証実験ができる「5Gショーケース」の最新状況などについて説明した。5Gショーケースで用意しているデモを拡充し、現在は監視系やセキュリティなど15のソリューションを用意している。既に50社以上の企業が5Gショーケースを利用し、100回以上のデモも実施しているそうだ。
シスコシステムズは2021年12月15日に記者向け説明会を開催。5Gの開発戦略や、5Gを活用した実証実験ができる「5Gショーケース」の最新状況などについて説明した。
5Gプライベートネットワークで重要な「企業ネットワークとの統合」
同社の専務執行役員 情報産業事業統括の濱田義之氏はまず、日本における同社の5G導入に向けた取り組みについて説明。同社は通信事業者向けのルーター市場で77%のシェアを持つなどコアネットワークを主体に大きな影響力を持つが、通信各社は今後5Gを一般ユーザーだけでなく、企業向けの利活用を伸ばすフェーズに移そうとしていると濱田氏は話している。
現状、通信会社のモバイル通信収入はコンシューマー向けのビジネスが8割に上るというが、2025年にはその50%がエンタープライズやIoTでの利用に移ると同社はみている。そこで携帯各社が展開するコンソーシアムに参画したり、ローカル5Gの実証実験を共同で進めたりするなどして法人向けの5G活用に向けた取り組みを進めている。そこで重要なのは、「コア技術の継続的なイノベーション」だと濱田氏は話す。
執行役員 サービスプロバイダー アーキテクチャ事業担当の高橋敦氏は、シスコシステムズの5G開発戦略について説明。高橋氏によると、同社の5Gにおける重点開発領域の1つは従来取り組んでいるコアネットワークであるというが、他にもIoTサービスや、「ローカル5G」に代表される5Gプライベートネットワークなど、企業での5G活用を見据えた取り組みにも力を入れているとのことだ。
中でも5Gプライベートネットワークに関しては、ローカル5Gに対する注目の高まりからそれを活用したソリューションの開発を積極的に進めているというが、その際に重要になるのは「企業ネットワークとの統合」だと高橋氏は話す。企業が利用するネットワークはローカル5Gだけでなく、他にもWi-Fiや有線LANなども活用することが想定されることから、それら全てに共通のポリシーとアイデンティティーを適用できる、マルチアクセス環境の実現を重視していくとの方針を示している。
省スペースや省電力を実現する工夫
その一方で「Beyond 5G」、つまり5Gの高度化や6Gを見据えると、注目されているのはサステナビリティだと高橋氏は話す。シスコシステムズも2040年には温室効果ガス0の実現を掲げており、その実現に向けた製品開発を進めているそうで、今回はその中で3つの取り組みについて説明した。
1つ目は設計を1から見直して開発したというルーター向けチップのアーキテクチャ「Cisco Silicon One」、2つ目はAcaciaという企業の買収により、これまでネットワーク伝送装置とルーターの間にあった「トランスポンダ」という装置を小型化してルーター側に取り込み、省スペース・省電力化を実現したこと。そして3つ目は、光やIPなど複数のネットワークレイヤーを統合してフラットかつシンプルな構成にすることで、消費電力やスペース、オペレーションの効率化を実現したことだという。
サステナビリティに向けた取り組みの1つとして紹介された「Cisco Silicon One」。これを搭載したルーターは、従来のルーターと比べ速度は77倍ながら消費電力は38分の1、サイズも48分の1になるという
ソリューション創出の動きも加速
情報通信産業事業統括 SEマネジャーの山田欣樹氏は、5Gショーケースの最新状況について説明した。5Gショーケースはシスコシステムズ内に設置された、ローカル5Gのネットワークを用いた実証実験ができる施設であり、2020年11月12日の開設からおよそ1年が経過している。
山田氏によると、開設当初はローカル5Gの免許を取得できていなかったというが、その後、同社はミリ波とSub-6の商用免許を取得。パートナーとなっている米JMA Wirelessと米Airspan Networksの基地局を用い、同社の5Gコアネットワークと接続することでローカル5Gのネットワーク環境を構築するに至ったとのことだ。
5Gショーケースではミリ波(28GHz帯)とSub-6(4.7GHz帯)の免許を取得しており、ミリ波にはJMA Wireless製、Sub-6にはAirspan Networks製の基地局を用いてネットワークを構築しているとのこと
同社ではミリ波とSub-6、双方の免許を持つことから、アプリケーションによってそれぞれの帯域をつなぎ替えての比較などができる他、Sub-6の帯域は100MHz幅の2つの免許を獲得しており、2つのチャネルをまたいだハンドオーバーの性能検証も可能だという。さらに将来的には、2つのチャネルを束ねたキャリアアグリゲーションの実装も予定しているそうだ。
5Gショーケースで用意しているデモも拡充し、現在は監視系やセキュリティなど15のソリューションを用意している。コロナ禍ということもあってリモートでの利用が多かったというが、既に50社以上の企業が5Gショーケースを利用し、100回以上のデモも実施しているという。
5Gショーケースで同社と価値創出を進めるパートナー企業も12社にまで拡大しており、パートナー企業との具体的な取り組みに至るケースも増えているようだ。実際、NTT東日本とは、新潟県でローカル5Gを活用した地域活性化や働き方改革を推進するソリューションの実証実験を実施している。
パナソニックとNECとも協業
また説明会の同日には、パナソニックのライブ映像制作プラットフォーム「KAIROS」を5Gショーケースに導入し、放送事業者向けの実証実験を開始したことを発表している。4K・8K放送の普及に伴い放送システムのIP化が求められていることから、システムのIP化に加え5Gも活用することによって、遠隔からのデータ伝送をしやすくし、機材や設備の柔軟性を高められると山田氏は期待を寄せる。
そしてもう1つ、NECとの取り組みについても説明している。5Gショーケースでは現在、NECのローカル5G対応基地局と、シスコシステムズのコアネットワークとの相互接続を実施し、なおかつNECが持つアプリケーションを活用して製造業や建設、交通業などに向けた技術トライアルの検証を進めているとのこと。今後は5Gショーケースに、NECの基地局を加えることも検討しているようだ。
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