スマホの「対応バンド問題」で問われる総務省の覚悟 端末のコスト増は綿密に検証すべき:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
「対応バンド問題」が、総務省の有識者会議で議論されている。同じ名称の端末でも納入先のキャリアごとによって対応している周波数帯が異なり、消費者の不利益になっているのではないかが論点だ。一方で、キャリアはあくまで自社周波数への対応を求めているだけで、他社の周波数への対応の可否は関与していないと証言している。
コスト増の負担は誰がするのか? 求められる総務省の覚悟
キャリア、メーカーとも任意で行ってきた対応周波数の選定を義務化してしまうと、「追加になったコストを誰が負担するのか」が問題になりそうだ。例えば、上記のドコモ版Galaxy S22をKDDIやソフトバンクの周波数に対応させ、販売価格が上がってしまった場合、割を食うのはMNPせずにドコモ回線を使い続けたいユーザーだ。販売の規模を維持するため、メーカーがコストを吸収することも考えられるが、誰かが追加で負担を強いられる点に変わりはない。
端末によっては、周波数対応のコストの負担が大きくなりすぎて企画が成立しないこともありそうだ。最近ではその数が減ってはいるものの、価格を抑えたキャリア専用モデルは台数も限定されるため、どうしても1社の周波数に特化せざるを得ない。端末のサイズも制限され、コンパクトモデルが出しづらくなってしまう恐れもあるだろう。ドコモとKDDIで共通するBand 26(800MHz帯でドコモのBand 19とKDDIのBand 18を内包する)に対応していないなど、キャリアへの「忖度(そんたく)」が疑われる仕様は自主的に改善してほしいが、総務省の施策でハイエンドモデルの売れ行きが落ち込む中、追い打ちをかけるような施策には疑問符が付く。
有識者会議では、「本当にコストが上がるのか」を検証するため、Xperiaのキャリア版とメーカー版の販売価格を比較したり、Galaxyのお膝元である韓国と日本の販売価格を比較したりしているが、この議論の仕方は的外れと言わざるを得ない。キャリア版とメーカー版では同じスマートフォンでもビジネスモデルがまったく異なるからだ。B2B2CとB2Cで販売されている端末の価格を比べたところで、コストに対する答えは導き出せない。また、韓国版と日本版では、同じGalaxyでも対応バンド以外の仕様の差も大きく、比較対象として不適切だ。
付け加えるなら、グローバルで同一モデルを販売し、国ごとに端末をカスタマイズしているメーカーの端末と、特定のキャリアに特化して開発した端末でも、原価構造は変わってくる。単にバンドさえ対応していればいいのか、キャリアアグリゲーションまで含めたフルスペックを保証するのかでも、コストの違いが出る。
「本当にコストが上がるのか」ではなく、「コストが上がることは大前提」にしながら、メーカーからヒアリングを重ね、それがどの程度ユーザーの負担になるのかを綿密に検証するのが“言い出しっぺ”の役割だ。厳しい言い方をすると、このタイミングで国内外の販売価格の比較をしているのは、議論のスタート地点にすら立っていないようにも見える。
そもそも、端末が複数キャリアに対応していれば、本当に乗り換えのハードルが下がるのかも、再度検証する必要もありそうだ。AQUOS R6のように、他社のプラチナバンドに対応した端末も出ているため、そうでない端末とMNP利用率の差を出せば、それが乗り換えの障壁になっているかどうかが分かるはずだ。対応バンド問題の解決には消費者保護の側面もあるが、こちらはドコモが4月11日の「競争ルールの検証に関するWG」で提案したように、注意喚起や対応周波数の状況を一元管理するといった方法で一定程度は解決できる。
元をただせば、今のような周波数の割り当てが端末の対応状況まで考慮した際に、本当に適切だったのか。後から端末の周波数対応状況だけを問題視するのは、政策としてあまりに場当たり的すぎる。コスト負担を軽減する観点で、技適などの認証制度の在り方を見直してみることも必要だ。自らが作り上げてきた制度や政策にもメスを入れることができるのか。総務省には、その覚悟が問われている。
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