ワンプランで端末代1円 常識破りのMVNOサービス「一択モバイル」が誕生したワケ:MVNOに聞く(3/3 ページ)
携帯の料金プランが複数あるという常識を覆したのが、TOKAIコミュニケーションズの提供する「一択モバイル」というサービスだ。選べる端末はモトローラの「moto e7」だけ、料金プランも3GBプランだけ。2月に新料金プランを導入した事情と合わせて、同社の戦略を聞いた。
小容量ではなく20〜30GBで勝負 20GBで2000円割る金額に
―― MVNOは小容量中心の会社が多く、20GBが主力というのは珍しいと思います。なぜここに注力しているのでしょうか。
牧野氏 2020年度から、他社と一線を画した取り組みを始めることにしました。当初は小容量プランで勝負していましたが、収益環境が全然よくなりませんでした。正直厳しい。音声通話についても、キャリアから卸される基本料が非常に高く、そこに20円、30円の利潤を乗せて各社とも基本料を700円に設定していました。小容量プランでは厳しいですし、この時点では音声通話でも勝負ができない。であれば他社とは違うやり方でということで、30GBプランを主力にしようと決めました。
30GBプランは当時、7238円という定価で出していましたが、30GBは2回線でシェアできました。そこに有料のWi-Fiスポットをつけ、本来だと8736円するものを、特別セットとして6248円で提供していました。1000円前後で攻防するのではなく、1回線あたり3000円ぐらいのところで勝負してみようということで、2020年度に動き始めています。
そうしたところ、下期からキャリアの値下げ合戦が始まりました。MNO各社が毎月のように新料金プランを発表して話題になりましたが、MVNOへの卸値はなかなか下がりませんでした。当社も同様でしたが、(結果として卸値が下がり)2021年3月に20GBプランを主軸にしたなっとくプランをリリースしています。競合他社と競争の軸をずらしたかったのと、MNOのオンライン専用プランが20GBを主軸にしていたのがその理由です。もともとは30GBが主力でしたが、それを20GBにして、1991円という価格設定にしました。前年度の30GBプランはシェアだと1回線あたり15GB、3000円強ですが、なっとくプランは20GBで2000円を割ります。
同時に、収益構造の変化も見据えて、「00XY」のプレフィックス自動付与の準備も進めていました。そこから既存のお客さまに対しては値下げで還元しつつ、20GBプランを訴求していきました。総回線数では目立った増減はありませんが、収益が大きく上がり、改善基調に乗せることができています。2月にリリースした新料金プランは、その20GBの取り組みを維持しつ、他を強化したものです。3GBや、音声が主力のゴーゴープランを作り、数でも攻めていこうと考えています。
―― 実際に、20GBを選ぶユーザーは多かったのでしょうか。
牧野氏 20GBプランの方が多かったですね。2月に新料金プランを出してからは3GBプランの方が多くなっていますが、それでも20GBはまだまだ主力と言えます。2月と3月の合計で昨年と比較すると、全体で250%、そのうち小容量プランは273%になっていますが、大容量も254%と増えています。音声は430%ですね。3GBが増え、さらにその中で音声プランが増えています。
―― 新規契約者では20GBプランが多いということですが、総数ではいかがですか。
牧野氏 恐らく3GBが一番多いと思います。1年前の取り組み(なっとくプランの導入)までは、3GBが圧倒的に多かったからです。これを昨年引き上げた形ですが、全体では3GBのお客さまの方がまだ多いと思います。
―― 結果を見ると、料金改定が大成功だったと言えそうですね。
牧野氏 今のところは大成功です。
静岡よりも他の地域で伸びている
―― 販路が影響している部分はありますか。
牧野氏 静岡には12店舗のモバイルショップがあります。ソフトバンクとの併売店の他、自社のショップもあります。また、家電量販店にも主にブロードバンドを獲得するための人員を配置しています。そういったところもあるため、料金プランが戦えるものであれば競合に左右されない部分はあります。
森藤氏 静岡では知名度もあります。ただ、新プランを出したときには、Web広告もバンバン打ったので、全国のユーザーが増えています。静岡での伸びより、他の地域での伸びの方が多かったですね。
―― 一方で、20GBプランのように容量が大きくなってくると、通信品質に対する要求も厳しくなってくると思います。こちらについてはいかがでしょうか。
牧野氏 何とも申し上げにくいところですが、逐一チェックして改善はしています。ただ、昼の時間帯のピークにぶつかってしまうところはどうしても厳しいところがあります。収益が改善しているので帯域は積み増していますが、いたちごっこなところもあります。ピーク時に当たらないお客さまをどう増やしていくかが鍵になると思います。現時点でやれることとして、法人のお客さまで、昼休みに使わないような方を増やすなど、(帯域増強とユーザー層の分散の)合わせ技でやっていければと考えています。
取材を終えて:答えを一発で提示することに意義がある
あくまでLIBMOのプロモーション的な位置付けだった一択モバイルだが、大きな話題になったのは、その潔さにインパクトがあったのと同時に、潜在的にユーザーがシンプルさを求めていたからかもしれない。確かに、MVNOは数が非常に多く、料金プランや端末まで考慮すると、その組み合わせは膨大になる。そこに「答え」を一発で提示するのは、迷っていたユーザーにとってありがたいはずだ。
LIBMO自体も、20GBプランを伸ばしている取り組みは注目に値する。大手MVNOがMNOとの競合を避け、小容量プランでの勝負をしているが、収益性はやはりデータ容量が大きい方が高くなる。大手MVNOではない立ち位置を上手に生かした格好で、MVNOの生き残り策を考える上で参考になった。一択モバイルの第2弾も含め、同社ならではの特徴あるサービスに期待したい。
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