ドコモが「非通信領域」でライバルに勝つための秘策 前田副社長に聞く:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
ドコモは、7月から社内カンパニー制を採用し、コンテンツや金融・決済、データビジネスなどの「非通信領域」を担うスマートライフ領域の組織を刷新した。事業の機動性を高め、収益に対する責任を明確化するのがこの仕組みの特徴。料金値下げなどで通信事業の収益が落ち込む中、ドコモは非通信の事業を成長のドライバーにしていく方針を掲げている。
金融・決済はトータルサービスで勝負、銀行はアライアンス重視
足元では、金融・決済事業の強化も課題の1つだ。特にコード決済サービスのd払いについては、ソフトバンクの立ち上げたPayPayの後塵を拝している。これに対し、前田氏は「この分野に関しては、dカード、d払い、あとはレイヤーが違うがiDも含めてトータルでどう成長させていくのかを考えたい」と語る。以前から、ドコモはdカードを中心にしつつ、d払いやiDを提供していたが、これは、「お客さまにとって便利な使い方だったり、自分に合った使い方をしていただければいいと思っている」からだ。
コード決済市場が急拡大していたこともあり、「PayPayほどの大盤振る舞いはしていないが、d払いにインセンティブをつけながら利用の活性化をしてきた」ものの、dカードを重視する方針は変わっていない。dポイントクラブのランクを判定する際に「d払いに限らず、dカードも含めて反映させるようにした」のはそのためだという。「両方を合わせてどうシェアを取っていくか、どうご支持されるかを見ていきたい」というのが、ドコモの考えだ。
とはいえ、ドコモは「クレジットカードとコード決済を全部合わせた取扱高でも、恐らく2番手」。同社の前には、クレジットカード事業を急成長させた楽天が立ちはだかる。楽天は、「クレジットカードが圧倒的なので、(クレジットカードとコード決済の)両方でどう追い付き、追い抜いていくか」が今後の成長のカギを握る。モバイル決済という意味では、「iDの価値はあるので、これは改めて浸透させたい」という。
iDは、ドコモが立ち上げたFeliCaベースのクレジットカードブランド。「ポストペイドで脈々と続けてきたのは、われわれと(JCBの)QUICPayしかない。ご支持をいただいているので、改めて打ち出していく。検討しなければいけないことはまだまだ多いが、インセンティブの付け方も含め、iDの打ち出しは機動的に行っていきたい」。
FeliCaの決済は「リーダーライターの準備にコストがかかっていた」ところに普及のハードルがあったが、「今はスマホそのものがリーダーライターになり、そのハードルが下がってきた」。d払いも、今はコード決済だけでなく、FeliCaを通じて「d払い(iD)」を利用できる。現時点では、携帯電話料金との合算払いしかできず、やや中途半端な形になっているものの、ゆくゆくはd払い残高で決済できるようにしていく方針。FeliCa決済は「今も競争力がある機能」なだけに、ドコモの対応に期待したいところだ。
ただ、通信事業を展開する他社は、全社、金融・決済サービスの中心になる銀行を傘下に抱えている。auじぶん銀行しかり、PayPay銀行しかり、楽天銀行しかりだ。前田氏も、「決済は頑張っているが、それ以外を十分取り組んできたかというと、全然そんなことはない」としながら、「他者が先を見ていたのは事実」と認める。一方で、最後発で「スクラッチからやり、信頼感のある銀行が作れるかというと、そうではない」とも言う。信頼感とスピードを両立させるため、ドコモが選んだのは「アライアンスの中でやっていくこと」だ。三菱UFJ銀行との業務提携は、そのためのもの。年内にはdポイントを軸にした新たな金融サービスも開始する。
こうした事業をスピーディーに展開するために生まれたのが、スマートライフカンパニーだ。機動性を重視しているだけに、今後、さまざまなサービスがここから生まれる可能性は高い。通信料収入が頭打ちになる中、非通信事業の拡大は、ドコモ全体の成長に欠かせない要素だ。その成否が、カンパニー長である前田氏の手腕にかかっているといえる。新たな組織でドコモがどう変わるのか。その成り行きを見守りたい。
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