KDDIの通信障害が「業績」と「業界」に与えた影響 水面下で進むキャリア間での連携:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
KDDIの上期業績は、増収は維持したものの、7月に大規模通信障害を起こしてしまったことで利益が減少。通信障害は新規契約にも影響を与え、回復までに時間を要した。通信障害対策として中期で総額500億円を投じ、仮想化基盤への早期移行やAIによるネットワーク監視の高度化を行う。
広報体制や代替手段の確保が課題、水面下で進むデュアルSIM活用
他にも、周知広報の内容・手法の改善や、代替手段の確保、訓練の実施などを行い、障害時の対応を強化している。くしくも、決算説明会の前日にあたる11月2日に、KDDIのパケット交換機(P-GW)で障害が起こり、ネットワークの瞬断が発生したが、「社内の中でも広報のオペレーションはしっかりできていた」という。高橋氏自身も、確実に連絡を受けられるよう、「スマートウォッチを2台構えて(着けて)寝ている間もアラームが来るようにしている」という。
ただし、周知広報や代替手段としての事業者間ローミングは、現在、総務省を交えて業界全体の課題として議論が続いている。特に事業者間ローミングについては、警察庁や消防庁、海上保安庁が「呼び返し」の実装を強く求めており、すぐに実現できるかどうかが不透明な状況だ。高橋氏も、「呼び返しについては必須になるんだろうと思っているが、そうするとコア側も(改修などの対応を)やっていかなければいけないので、一定の時間がかかる」と語る。
一方で、事業者間ローミングよりスムーズに事が進みそうなのが、デュアルSIMやeSIMを活用したバックアップ回線のサービスだ。高橋氏は、IoTで傘下のソラコム回線を使った予備回線ソリューションに触れつつ、「コンシューマーについてもデュアルSIM対応ができないか。(他キャリアと)合意さえできれば、早期に実現できる範囲のため、積極的に対応していきたい」と語る。
実際、既に他キャリアには、連携を呼びかけているようだ。高橋氏は「お互いにやりませんかとお声がけをしている」としながら、自身のスマートフォンも既にデュアルSIM化し、バックアップにドコモ回線を使用していることを明かした。「(高橋氏の端末のように)複雑なことはせず、今ある機能で早くできることを模索したい」というのがKDDIの考えだ。
こうしたキャリア間連携を模索する動きは、水面下で始まっているという。ソフトバンクの同社代表取締役社長兼CEOの宮川潤一氏も、11月4日に開催された決算説明会でこの事実を認め、次のように語る。
「デュアルSIMについては、高橋社長からも直接お声がけをいただき、いろいろな議論をしている。できるだけ早急に何らかの結論を出せないか、現場同士の技術的な話し合いが始まっている。どういう方法か、答えは出ていないが、できるだけ早急にとお願いをしている。(シングルSIMの端末を使うユーザーもいるため)全ユーザーに出せるサービスになるとは思っていない。保険として欲するユーザーに提供する形になると思っている」
あくまでサービスの1つとして提供される可能性は高そうだが、デュアルSIMは端末側だけで対応が可能。iPhone XS以降のiPhoneや一部のAndroidスマートフォンが同機能を搭載しているため、対象となるユーザーも少なくない。他社ユーザーが利用するネットワークのキャパシティーさえ確保できれば、後は提供体制やコスト負担など、条件面で折り合いをつけるだけだ。大掛かりなネットワークの改修が不要になる分、早期の提供開始を実現できる。
とはいえ、低料金でバックアップ回線を提供してきたMVNOとの競争環境をどう確保するのかは、今後の課題になりそうだ。過去に本連載で取り上げたように、IIJmioのeSIMサービスは、正式サービス開始当初からバックアップとして利用できる機能や料金体系を売りの1つにしてきた。実際、KDDIの通信障害時には契約者が8倍ほど伸び、IIJの狙いが的中した格好だ。こうしたビジネスの芽を摘み取ることがないよう、バックアップ回線には低額でも一定の料金は課すべきだろう。早期実現にこだわるあまり、採算度外視になってしまわないかは注視しておきたい。
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