「Open RAN」で火花を散らすドコモと楽天 成り立ちは違うが“共演”もあり得る?:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
無線アクセスネットワーク(RAN)の機器をオープン化する取り組み「Open RAN」でドコモと楽天が激しい火花を散らしている。楽天シンフォニーを展開する楽天は、海外拠点も拡充している。これを追いかける立場にいるドコモは、O-RANを推進するためのブランド「OREX」を発足させた。
芸風が異なるドコモと楽天、2社の共演もあるか?
これに対し、ドコモの井伊氏は「金額は決めていない」としながらも、早期の売上高100億円達成を目標に掲げる。「100億円を超えないものは事業ではないと思っている」というのが井伊氏の考え。裏を返せば、OREXは成長の余地が大きい事業と見なしているといえる。井伊氏は「楽天シンフォニーは600億円から700億円なので、できない数字ではない」と語る。現状では国内が中心だが、実績ができ次第、オペレーションやサポートを担う海外拠点も設立していく方針だ。
ドコモの強みになりそうなのは、同社と近い境遇の大手キャリアがいることだ。井伊氏によると、「相手のキャリアは、全部が全部O-RANというわけではなく、もともとのネットワークベンダーの基地局があって通信されている中で、そのうちの何%かをO-RANにしたいというアプローチ」を取っているという。いわば、「ブラウンフィールド(既存の事業がある中で新たな設備投資などを行う事業のこと)的な事業になる」(同)ため、後からO-RAN準拠のネットワーク機器を導入したドコモは、ノウハウを生かしやすい。
一方で、井伊氏は「楽天(シンフォニー)とは芸風が違う」と語る。どちらかと言えば、ドコモは導入やオペレーション支援といったサポートに徹しており、無線ユニットやサーバなどのハードウェアや、仮想化したCU/DU(Centralized Unit/Distributed Unit)などのソフトウェアは通信機器ベンダーの製品を活用する。OREXもそのためにできた座組みで、誤解を恐れずいえば、ドコモはコンサルティングに徹している印象がある。
同様の事業は楽天シンフォニーも行っているが、仮想化プラットフォームやクラウドサービスなどを自ら手掛けている点は、ドコモとの大きな違いといえる。楽天シンフォニーの方が、よりベンダー的な動きをしているというわけだ。ネットワーク運用管理ツールの「Symware」やプラットフォームの「Symworld」を外販しているため、売り上げはドコモより立てやすい。受注残高も「4500億円積み上がっている」といい、三木谷氏は「2年でそんなになる会社は他にない」と自信をのぞかせる。
2社の事業領域にはずれもあるため、同じ会社がドコモと楽天シンフォニーの双方と取引しているケースもある。米DISH Wirelessだ。同社は、2021年に楽天シンフォニーをO-RANとクラウドネイティブ技術のベンダーとして選定。楽天シンフォニーのネットワーク運用システムを採用した。一方で、DISHはMWCでドコモが発表した5社の支援先の1社で、同社はドコモが横須賀リサーチパーク(YRP)の用意したO-RANネットワークの検証環境を利用する。
自社のソリューションを中心に据えてO-RANを推進する楽天シンフォニーに対し、ベンダー13社と共同体を作り、導入や運用支援に特化するのがドコモといえる。O-RANを導入する側のキャリアの希望によっては、2社が手を取り合うことも不可能ではない。
三木谷氏も「どっちかと言うと見下されているので(笑)」とちゃかしつつも、「そういうの(パートナーシップ)もありだと思う」と語っていた。“芸風”だけでなく、その成り立ちもまったく異なる2社だが、O-RANを国ぐるみで後押しする動きもある。今後、“共演”の機会はさらに増えていきそうだ。
関連記事
- ドコモ井伊社長インタビュー:楽天とは「芸風が違う」O-RAN戦略/d払いがPayPayに追い付くには
基地局を構成する各装置の仕様をオープン化した「O-RAN」の標準仕様を策定するため、ドコモは海外事業者とアライアンスを組んでいる。海外キャリアへのO-RAN導入支援ビジネスを本格化させ、当初の目標は「100億円規模」を目指す。国内通信事業はARPUの反転を目指し、d払いは使い勝手を改善していく。 - 5Gで急激な盛り上がりを見せる「オープンRAN」とは一体何なのか
ネットワーク仮想化などと同様、5Gで急速に注目が高まっている「オープンRAN」。基地局などの無線アクセスネットワーク(RAN)の仕様をオープンなものにして、異なるベンダーの機器を接続してネットワークを構築できる。中でもドコモが力を入れて取り組んでいるのが「O-RAN ALLIANCE」での活動だ。 - ドコモがオープンRANや5Gソリューションを海外展開 柔軟で拡張性の高いネットワークを
NTTドコモは、オープンRANの海外展開を目的とした「5GオープンRANエコシステム」の構築を発表。NVIDIA、Qualcomm、NEC、富士通などと協業する。海外拠点を持つ法人に5Gソリューションを提供することを目的とした「海外法人5Gソリューションコンソーシアム」も設立する。 - 三木谷氏、楽天の通信プラットフォーム事業は「2022年には利益が出る」と自信
楽天グループが8月5日、Open RANインフラに関わるプロダクトやサービスを集約した事業組織「Rakuten Symphony」を発表。通信事業者や企業とともに、コスト効率の高い通信プラットフォームの提供を目指す。三木谷氏は「楽天モバイル」の事業で仮想化ネットワークのノウハウがたまったことを強調する。 - 楽天グループが新組織「Rakuten Symphony」を立ち上げ 通信プラットフォーム事業を集約
楽天グループが、楽天モバイルなどグループ企業に分散している通信プラットフォームに関する事業を統合する組織「Rakuten Symphony(楽天シンフォニー)」を立ち上げた。世界各地で、完全仮想化モバイルネットワークを始めとするOpen RANインフラストラクチャの開発/提供態勢を整える。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.