キヤノン、1型センサー搭載カメラ「Power Shot V10」発表 約6万円の民生機でVlog市場に切り込む理由(2/2 ページ)
キヤノンは5月11日、1型CMOSイメージセンサーを搭載したVlog(動画ブログ)カメラ「Canon Power Shot V10」を発表した。キヤノンオンラインショップ価格は5万9950円(税込み)だ。コンパクトなボディーにスタンドを内蔵、簡素化したUIなどが売りで、Vlog市場に新たなメスを入れる。
なぜ、いまVlogカメラを市場に投入するのか
Vlogなどの動画撮影を重視したデジタルカメラはソニーのフルサイズ ミラーレスカメラ「VLOGCAM ZV-E1」、APS-Cサイズミラーレスカメラ「VLOGCAM ZV-E10L」、パナソニックの「LUMIX G100」などが既に市場に出回っており、キヤノンとは違う路線の形状。絞り、シャッタースピード、ISO感度などをダイヤルやタッチパネルで操作できるスタイルだ。
一方のPower Shot V10は前述の通り、物理的なダイヤルやボタンを極力なくし、片手持ちのまま親指1本で主な機能を操作できるシンプルな操作体系としたことで、すぐに動画撮影を始めることが可能だ。
そんなPower Shot V10を打ち出したキヤノンはこれまでフルサイズミラーレスカメラ、APS-Cサイズミラーレスカメラなどを基本軸にして、デジタルカメラ市場にさまざまな製品を展開してきた経緯がある。動画/静止画を撮影できる製品で、宣材写真やWebサイトでハッキリとVlogワードを多様し、既存のデジタルカメラと明確に差別化を果たしたのは今回発表のPower Shot V10くらいだろう。
キヤノンとしては路線を完全にVlogへシフトしたわけではなく、「ユーザーの声を聞きながら映像を使った価値提案をし、新規顧客を獲得したい」(ICB事業推進部長の小林嗣尚氏)考えだ。
あらゆるカメラメーカーが昨今、Vlogユーザーをターゲットとした製品を世に出す背景に「スマホカメラの高性能化」が挙げられる。スマホはデジタルカメラと違い、AIやOS、さらにはアプリを駆使して、「すぐに高画質な静止画/動画を撮影し、すぐにSNSなどでシェアできる」点が大きな利点だ。年々、スマホメーカー同士の競争が激化し、昨今はスマホカメラの進化が著しい。
スマホ台頭でデジタルカメラ市場は縮小傾向にあり、「OM-D」「PEN」など人気カメラの老舗、オリンパスはカメラ事業で赤字が続き、2020年6月24日に映像事業を投資ファンドの日本産業パートナーズに譲渡した。かつてデジタルカメラ市場で名をはせたカシオ計算機は2018年5月にデジタルカメラ(民生機)事業からの撤退を発表した。
そうした背景から、各カメラメーカーはいわゆる一般的なデジタルカメラではなく、Vlogに特化した機能、性能を盛り込む傾向にある。キヤノンも「スマホカメラが唯一のライバルだ」とまではいわないが、コロナによる生活の変化や、SNSや動画配信サイト、技術の急成長を挙げ、今後もさらにVlog需要が増すと予想する。
島田氏も同日の発表会で「20代から30代後半がカメラ/スマホでVlogger(動画ブロガー)の中心で、動画撮影者の4分の1が撮影と投稿の両方を行う」とプレゼンした。
動画撮影と投稿をこなす人に対して、キヤノンがヒアリングを行った結果、約半数がカメラとスマホを使っており、「動画に強いカメラではなく、Vlogに特化した機材が欲しい」「スマホに近い感覚で扱え、かつ本格的なVlogが楽しめる機材がほしい」といった声が多く、Vloggerは旅行、街歩き、料理といったシーンでカメラやスマホを活用しているという。
その一方で、スマホを活用するVloggerの7割が「スマホのバッテリーを消費したくない」「スマホの容量を圧迫したくない」「画質がよくない」「明るさ/色合いの調整がよくない」「ピントがすぐに合わない」といったスマホに対する不満を持つ。既に市場に出回っているカメラに対しても「使いこなせない」「高価で手を出しづらい」「三脚やレンズがかさばる」といったネガティブな意見を持った人が多い。
キヤノンはさまざまなユーザーに対してヒアリングを行い、先の不満を払拭(ふっしょく)すべく、「ゼロベースで設計した」(島田氏)のがPower Shot V10だ。カメラやスマホでVlogを楽しむ人が高価で大型な機材に頼らず、スマホ感覚で気軽に撮影、投稿を楽しめるような製品の需要があると踏んだのだ。
さらに、キヤノンは“Vlogカメラ一発屋”で終わらず、Power Shot V10を皮切りにユニークな商品を展開していく方針を示す。加えて、Vlogと親和性の高いジャンルに向けて、他企業とのコラボレーションをアプローチしていく。パートナーにJR東日本、国内外約154万人以上の会員を持つ料理教室のABC Cooking Studio、デザイン思考を軸とした教育プログラムの開発などを手がけるCURIO SCHOOL、動画制作Tipsサイトを運営するVookを挙げている。
今後のカギは「撮影から編集までの完結」
キヤノンが開いた製品発表会には映像ディレクターでYouTuberとしても活動する大川優介氏が登壇。初めて扱った印象として、「新しい体験ができる」とのコメントを添え、コンパクトなボディーゆえにできる手持ち撮影の手軽さや、起動後すぐに構図を決め、撮影に推移できる機動性の高さなど、動画撮影時の利便性を島田氏やICB事業推進部の大辻聡史氏とともに語った。
ただ、筆者としてはPower Shot V10がスマホカメラと戦っていくには、「撮影から編集までの完結」が重要であると考える。タッチ&トライの場で実機を触ったが、正直、編集ソフトかそれに近い機能が欲しい――と感じた。日頃からスマホで撮影し、SNSへ写真や動画をアップロードする筆者だからこそわいてきた欲かもしれないが、Vloggerこそ同じ感想を抱くはずだ。
しかし、OSのないPower Shot V10にそこまでの機能を付ければ、当然、価格に反映され、単体で約6万円を維持するのは難しくなるはずだ。かといって、別途、Power Shot V10用の編集用アプリを用意するのもコスト増の一因となり得る。ターゲットを明確にし、機能を限定したPower Shot V10だからこそ、体験価値が浮き彫りになるのかもしれないが、撮影と編集の両方がシームレスになる取り組みに期待したいところだ。
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