「FCNT経営破綻」の衝撃 arrows/らくスマ販売好調でも苦戦のワケ、穴を埋めるメーカーは?:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
arrowsシリーズやらくらくスマートフォンを手掛けるFCNTが、民事再生法の適用を申請した。メーカーの経営破綻というと、販売がふるわなかったようにも見えるが、FCNTの端末の売れ行きは好調だった。経営破綻の背景には、市場環境の変化があった。
FCNT不在の端末市場はどうなる? メーカーの入れ替わりはあるか
FCNTは現在、民事再生法に基づき、経営を支援するスポンサーを募っている。もし引き受け先が見つかれば、arrowsやらくらくスマートフォンなどの開発は継続できる可能性がある。逆に、このままスマートフォン市場から姿を消してしまう恐れも残されている。気になるのは、今後、arrowsやらくらくスマートフォンに変わる端末が登場するのかということだ。
エントリーモデルやミッドレンジのarrowsが抜けた穴は、複数のメーカーで補うことができるだろう。特にエントリーモデルは、フラグシップモデルほどの機能差がないからだ。一方のらくらくスマートフォンやらくらくホンは、簡単には代替が効かないモデルといえる。ブランド自体はドコモが所有しているが、FCNTのノウハウが詰まっているからだ。こうしたシニア向け端末のユーザーに向けたサポート体制も、FCNTが構築していた。
例えば、らくらくスマートフォンには、使い方を学べるアプリだけでなく、ガイド本も付属している。有償にはなるが、ユーザーの自宅を訪問し、使い方をレクチャーする「らくらくコンシェルジュ」もFCNTのサービスとして展開されている。端末を見ても、物理キーのようにカチッと押し込める「らくらくタッチ」や、撮影した花の名前が分かる機能など、シニアユーザーの必要とする機能が多数搭載されていた。次に同シリーズを手掛けるメーカーによっては、このようなノウハウを承継できない可能性がある。
シニア世代の多様化を受け、ドコモはよりアクティブな層に向けた「あんしんスマホ」も2022年に投入している。このモデルは、FCNTではなく京セラが製造を担当している。そのノウハウで、らくらくスマートフォンの製造先を切り替えられそうだが、当の京セラも、2025年までにコンシューマー向けのスマートフォンから撤退する意向を表明済み。ドコモは、シニア向け端末のメーカーを一挙に失ってしまった形になる。ドコモにはシニア世代が多く、先に挙げた端末別の内訳を見ても、その割合はハイエンドモデルより大きいだけに、対応を急ぐ必要がある。
キャリアの要望をくみ取ったカスタムモデルを作れるメーカーは、意外と少ない。特に昨今の地政学的な事情から、キャリアはこうした端末を日本のメーカーに発注する傾向が強まっている。残る日本メーカーはシャープとソニーの2社。ただ、Xperiaでハイエンドモデルに注力するソニーが、らくらくスマートフォンを手掛けるとは考えづらい。こうした状況を踏まえると、シャープに発注が集中する可能性もある。
また、6月1日には、米国に拠点を構えるOrbic(オルビック)が日本市場への参入を表明した。上陸第1弾となる「Fun+ 4G」はオープンマーケットモデルだが、同社もまた、キャリアから発注を受けた端末を黒子として開発している。米国では、最大手キャリアのVerizonと協業。「通信事業者と一緒にやっていくことの経験は、かなり積んでいる」(Orbic Japan ダニー・アダモポウロス社長)と、対応への自信をのぞかせた。日本メーカーの選択肢が減る中、キャリア側も端末戦略の見直しを迫られそうだ。
関連記事
- 「arrows」「らくらくスマートフォン」のFCNTが民事再生を申請 販売やサポートに影響が出る可能性
「arrows」「らくらくスマートフォン」で知られるFCNT(旧富士通コネクテッドテクノロジーズ)が、親会社のREINOWAホールディングスと、兄弟会社のジャパン・イーエム・ソリューションズと共に東京地方裁判所に民事再生手続きを申し立てた。コア事業の1つである端末事業については現時点で支援企業が見つかっていない。 - arrowsの携帯事業停止 ドコモ、au、ソフトバンクは「アフターサポート体制を整え、販売を継続」と告知
arrowsやらくらくスマートフォンを開発するFCNTが民事再生手続きを開始した。同社は携帯電話事業を停止することになった。FCNTの端末を扱う大手3キャリアは、アフターサポート体制を整え、販売を継続することを告知している。 - スマホの端末割引規制、2万円から4万円への緩和を検討 総務省の有識者会議にて
現在の電気通信事業法では、通信サービスとセットで販売する端末の割引は上限を「2万円(税込み2万2000円)」に制限している。この2万円の割引規制を見直す案が出た。4万円を新たな上限額とすることが適当だとしている。 - 京セラが個人向け携帯電話事業から撤退へ ただし高耐久スマホ「TORQUE」は継続予定
京セラが、個人向け携帯電話事業から撤退することが明らかになった。携帯電話事業を含むコミュニケーション事業が苦戦していた。高耐久スマートフォン「TORQUE」や、法人向け携帯電話は引き続き開発していく。 - 米Orbicが日本上陸、2万円台からのスマホやタブレットを展開 参入のきっかけは“コロナ禍”
Orbicが日本市場への上陸を果たした。日本法人のJapan Orbicがスマートフォン「Fun+ 4G」の他、タブレット「TAB8 4G」「TAB10R 4G」、ワイヤレスイヤフォン「Orbic Ear Buds」、アクセサリーを展開する。なぜOrbicが日本市場への上陸を果たしたのか、Japan Orbic社長で米Orbicエグゼクティブ・バイスプレジデントセールス&オペレーションズを担当するダニー・アダモポウロス氏がその理由について日本市場を取り巻く環境を交えて語った。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.