シャープに聞く「AQUOS R8 pro」「AQUOS R8」 2モデルに分けた意義、画期的な進化点(1/3 ページ)
シャープが2023年夏に投入する「AQUOS R8 pro」「AQUOS R8」。見たままを表現できるカメラを備えるR8 proに対し、ハイエンドながら性能を抑え、気兼ねなく使えるモデルのがR8となる。そんな2モデルの違いや開発意図、カメラ、ディスプレイについて、シャープで設計に関わった方々にインタビューした。
ドコモとソフトバンクが7月中旬以降に発売を予定している、シャープ製のスマートフォン「AQUOS R8 pro」「AQUOS R8」。ハイエンドのRシリーズとして、初めて2モデルに分かれた。
AQUOS R8 proはライカ監修のズミクロンレンズや1型センサーを採用し、600種類以上の光源を判定するという14chスペクトルセンサーを搭載。肉眼で見たときに近い仕上がりになるという。カメラリングから熱を逃す放熱設計としたのも進化点だ。
AQUOS R8はハイエンドモデルながらR8 proよりも性能を抑えたのが特徴。メインメモリはR8 proが12GBに対し、R8では8GBとなっている。2022年発売の「AQUOS R7」と比べて52%軽量化を果たし、米国国防省が定めるMIL規格(MIL-STD-810G)の耐衝撃性能も確保している。
そんな2モデルの違いや開発意図、カメラ、ディスプレイについて、シャープで商品企画やソフトウェア開発、機構設計に関わった方々にインタビューした。
- 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 主任 平嶋侑也氏
- 通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部 主任 石川暁人氏
- 通信事業本部 パーソナル通信事業部 回路開発部 技師 宮原健氏
- 通信事業本部 パーソナル通信事業部 第一ソフト開発部 技師 内田夏綺氏
AQUOS R8 proとAQUOS R8で、二極化したニーズに応える
―― 「AQUOS R8 pro」と「AQUOS R8」に分けた理由を教えてください。
平嶋氏 これまで(3〜4年前)は何となくハイエンドモデルが選ばれる傾向にありましたが、最近ではニーズが二極化していると考えています。1つは最先端技術や真新しいモデルを衝動的に買うプレミアムゾーンのニーズです。もう1つは効率的に使いたいが、そこまで先進性を求めない。とはいえ高性能なモデルが必要というニーズです。
ハイエンドモデルの選択肢を増やすことで、そうしたニーズにシャープとして応えられるのではないか。そう考えた結果、AQUOS R8 proとAQUOS R8の2モデルに分けました。
―― 価格高騰の影響もあり、ハイエンド一択では不十分という結論に達したのでしょうか?
平嶋氏 そうですね。「AQUOS R6」「AQUOS R7」ではこのようなニーズに1モデルでお応えできていたと自負していましたが、R6やR7の発売後にTwitterに投稿された意見を客観的に見ていると、ドンピシャで刺さる人と、「自分が求めているモデルと少し違うなあ」と感じる人がいるようです。
もちろん価格高騰の影響もあります。20万円以上のハイエンドモデルのポジションは必要です。フォルダブルスマートフォンなどの登場で、ARやXRなどのコンテンツがリッチ化しているからこそ、そのトレンドを追いかけていきたい人もいます。一方で、そこまで求めずとも普段使いで十分な性能を備える実用的なハイエンドモデルが欲しいという人もいる。シャープとしてハイエンド1モデルでは二極化したニーズに応えきれない、というもどかしさを感じていました。それがようやくそれが形になったということです。
―― となるとsenseシリーズも継続予定でしょうか。
平嶋氏 はい。ハイエンドモデルではなく、ミッドレンジのニーズもありますので、われわれとしては継続していく意向です。
―― 購入を検討する人はそれぞれをどう見分けて選べばいいのか教えてください。
平嶋氏 カメラの性能やそれによる体験を求める人や、大画面で動画コンテンツを視聴したい人にはR8 proがお勧めです。価格を抑えたモデルを求める人、持ちやすさやサイズ感を重視する人、耐久性を求める人にはR8が向くと考えています。
せっかく買うなら高性能やコストパフォーマンスが優れたモデルを選びたい、という人にはハイエンドのR8 proとR8。もう少し価格を抑えたモデルでも十分という人ならミッドレンジのsenseシリーズをプッシュしていきたいです。迷ってもらえるとうれしい、というのが正直なところです。
―― プロセッサに「Snapdragon 8 Gen2」を採用した理由を教えてください。
平嶋氏 まず大前提として、最新だからという理由だけで、決まったものしか使わない、ということではありません。各モデルで必要な性能や用途によってもどのプロセッサにするのかを見定めます。ゲーム性能、カメラのAIに関する性能、コンピューティング処理の性能など、どのような処理に適した性能なのかを判断しなければなりません。あらゆる面を総合的に見て、ハイエンドモデルとしての使い方に適していたのがSnapdragon 8 Gen2でした。
―― プロセッサの安定した供給も理由の1つですか。
平嶋氏 安定供給も理由の1つではありますが、われわれとして歴代モデルでQualcommとの付き合いがあり、その中でもどのモデルに適したプロセッサにするかを決めています。もう少し具体的に説明すると、Qualcommなどが発表した定量的な指標を参考にしながら、CPU、GPU、ベンチマークスコアなどを含め、試算するなどして決めていくということです。パフォーマンス面を見ているというのが本筋となります。
石川氏 補足すると、他のメーカーのプロセッサをハイエンドを使わない、という意図ではありません。
適切な色味にするのは難しい――見たままを表現するための工夫
―― R8 proのメモリがR8より多い12GBとなった理由を教えてください。
平嶋氏 理由は2つあります。1つはR8 proがR7の後継的な役割を果たすことから、12GBと据え置いています。もう1つはR8 proのカメラとしての用途です。1型イメージセンサーで取り込んだ光量や、HDRの合成などを処理する過程で、メモリに退避させるためには、ある程度の容量を確保しておく必要があります。
それに比べて、1/1.55型のイメージセンサーを搭載するR8では、R8 proよりも軽い処理を行うため、8GBでも実用的であると判断しました。とはいえ、読み込み/書き込み速度は2モデルともに同一ですから、実際の利用シーンで差を感じることはほぼないと考えています。
―― HDR時に秒間20コマでの撮影は難しいのでしょうか。
内田氏 結論からいうと、技術的にはできます。数十枚撮った中から使えるものをアルゴリズムを用いて処理を行っています。いわば内部で取捨選択を行っているということです。
―― R8 proで14chスペクトルセンサーを採用した理由を教えてください。
内田氏 写真を撮影した場合にそれぞれの仕上がりの色味に大差が表れないようにするためです。RGBの色情報だけで見ると、どのような環境か分からない場合があります。RGBの情報と14chスペクトルセンサーから得た情報を組み合わせることで、実際の環境(肉眼で見た色味)に近い色味になるようにしています。
―― 色味の調整は難しいということですか?
内田氏 例えば、茶色の木の机がある屋内で、光源が暖色系なのか白色系なのかによって、色温度を変える必要があります。茶色の机がある屋内の光源が白色系ですと、カメラが暖色系の光源と勘違いをしてしまい、結果として青が強い仕上がりとなってしまいます。青の強い仕上がりですと、特に料理はまずそうに見えてしまいますから、適切な色味とは言いがたいです。
ライティングやディスプレイの光、窓から取り入れられた光、ガラスに反射した光というのも、色味に反映されてしまう要素となっています。SNSにアップしたいカフェや、おしゃれな居酒屋に限って、ユーザーが意図する色味とは異なってしまいます。不適切な色味にならないように、光の強さや色味を測定し補正する14chスペクトルセンサーを採用しました。動画においても原理的には静止画と同じ処理を行っています。
―― AFや追従性の速度は改善されましたか?
内田氏 R7ではソフトウェア側でどこにフォーカスを合わせるかを計算していましたが、R8ではソフトウェアに加えてセンサー側も用いるため、フォーカスが合うまでの速度は向上しています。R8は2つのカメラでズームをスムーズに行いますので、処理にかかる負荷はR8の方が高いですが、R8 proとR8とで体感差はほぼないと思います。
―― 他にもカメラで進化した点があれば教えてください。
内田氏 「料理ぼかし調整」という項目を設けました。デフォルトではオフになっていますが、オンにして料理を撮影すると、オフにして撮影した画像と比べて、ぼかしを少し軽減します。手前にフォーカスが合った画像と、奥にフォーカスが合った画像を合成することで、どちらにもフォーカスが合った画像となります。
もう少し分かりやすく説明しますと、これまでは1つのお盆の上に置かれたすしにはフォーカスが合っているのに、同じお盆の筑前煮にはフォーカスが合っていない……ということがありました。これを料理ぼかし調整で解決し、すしと筑前煮の両方にフォーカスが合うようにしました。
ただ、注意点もあります。この料理ぼかし調整はAIがオンになっていないと機能しませんので、AIがオフの場合はAIマークをタップしてオンに切り替えてから利用してください。
また、撮影時にウオーターマークを付加できるようにしました。SNSでも「欲しい」という声が多かったので、どの画像をどの機種でいつ撮ったかが分かるようにしました。こちらもデフォルトではオフになっていますので、必要に応じてオンにしてお使いください。ウオーターマークを付加できるのは画像のみで、動画には付加できません。
他にもインカメラで撮影する時にプレビューで見たままの状態、つまり反転せずに保存できるようになりました。反転できる設定項目も用意しています。文字が反転してしまうことを防ぎたい人と、プレビューと同じ状態で保存したい人に向くと思います。
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