KDDI、5Gの新周波数「2.3GHz帯」を運用開始 放送用電波との干渉を防ぐ仕組みとは
KDDIと沖縄セルラー電話は2023年7月3日、5Gの新たな周波数である2.3GHz帯の運用を開始した。運用にはダイナミック周波数共用が必要になる。その理由と今後の展開を技術統括本部 ノード技術本部 モバイルアクセス技術部長 太田龍治氏が説明した。
KDDIと沖縄セルラー電話は2023年7月3日、5Gの新たな周波数である2.3GHz帯の運用を開始した。KDDIは2022年5月に2.3GHz帯の割り当てを受け、同日に一部の基地局が2.3GHz帯の電波を発射した。
同日のオンライン説明会で技術統括本部 ノード技術本部 モバイルアクセス技術部長 太田龍治氏が技術概要と今後のロードマップを語った。
2.3GHz帯の運用には「ダイナミック周波数共用」が必須
2.3GHz帯は広いエリアカバーに向くとされる周波数で、Sub-6やミリ波と比較して電波特性としても優れていることや、エリアカバーに適していること、700/800MHz帯と比較して、40MHz幅という広い帯域幅で通信容量の確保に適していることから、KDDIにとっては「貴重なミッドバンド」(太田氏)となる。
2.3GHz帯はグローバル(39の国と地域、61事業者)でも利用されており、多くの端末が対応している周波数帯でもあるが、国内では既に放送事業用無線局(FPU:Field Pick-up Unit)が使用しており、二次使用者であるKDDIは国内初の共用方式である「ダイナミック周波数共用」を活用した運用が必須となる。
ダイナミック周波数共用は、同じ周波数を異なる無線システムで、時間帯や用途に応じて使い分ける仕組みを指す。周波数帯ごとに管理されていた電波をデータベースで一元的に管理し、利用されていない周波数帯域を用途や需要に応じて割り当てる。
従来、同一の周波数を異なる無線システムで共用する場合、互いの電波が干渉しないようにするため、地理的に十分な離隔距離を確保する“静的な共用”が行われていたが、トラフィックの増加や周波数の逼迫(ひっぱく)が以前に比べて増していることから、ダイナミック周波数共用の検討が進められてきた。地理的かつ時間的な運用状況を踏まえた動的な共用がこのダイナミック周波数共用に当たる。
2.3GHz帯は放送事業者がスポーツイベントなどの取材現場から映像・音声を伝送する際に利用しているが、通年このようなイベントが開かれないため、2.3GHz帯を利用しない時間帯が存在していた。「我が国の電波政策の最近動向 周波数再編アクションプラン(令和4年度版)の取組み」には次のように記載されている。
放送事業者が報道番組中継やマラソン中継等において放送番組素材伝送用に利用しており、常時の電波発射は行っていない
さらに、2.3GHz帯が利用される時間や場所は常に一定ではないため、2.3GHz帯をより柔軟に共用する手法が議論されてきた。
このような背景を踏まえ、KDDIとKDDI総合研究所は2019年からダイナミック周波数共用の技術開発を行い、放送事業者と携帯電話事業者による2.3GHz帯の効率的な共用が可能なことを確認したという。
ただ、先にも触れた通り、2.3GHz帯の一次利用者がFPU、後から申請した二次利用者がKDDIとなるため、KDDIは放送事業者が持つ無線局の運用に支障をきたさないよう、電波産業会(ARIB)が運用する「ダイナミック周波数共用管理システム」活用する必要がある。運用は以下の手順で行われる。
- 放送事業者が2.3GHz帯の利用予定を登録
- 基地局からFPU受診点への干渉量を計算→計算には伝搬経路の地形など障害物も考慮
- ダイナミック周波数共用管理システムは停波が必要な基地局とFPUの運用時間を携帯電話事業者に指示
- KDDIは干渉の影響がある基地局を停波
- 放送事業者がFPU受信点を構築し、FPUの運用を開始
- KDDIはFPUの運用終了後も事前に伝えられている時間まで停波を継続
- 基地局運用開始時刻になると、基地局が電波を発射できる
従来の基地局は24時間365日電波を発射し続けているが、ダイナミック周波数共用管理システムを活用し、FPUの利用状況に応じて停止/発射を柔軟に行うため、「FPUと基地局の柔軟な周波数共用を人の手を介さずに実現」(太田氏)できる。現状は2.3GHz帯は5G SAでの運用となるが、単独で利用することはないため、4Gとの切り替えを(ハンドオーバー)シームレスに行えるという。
太田氏は国内におけるダイナミック周波数共用の実現に際し、「放送事業者や関係者を交えて、丁寧な議論を重ねてきた」と振り返る。
「FPUに混信を与えないように基地局を停波する範囲とその計算方法」「停波手順や不測の事態発生時の連絡体制とそのフローの把握」「実際の環境におけるリハーサル」などは関係者の協力があって実現できたという。
2026年度末までに合計8300を超える基地局を全都道府県に展開予定
今後も増加する見込みであるモバイルトラフィックに対応するため、KDDIは通信容量をさらに増強していくとしている。2.3GHz帯は「5G、6Gを見据えて5Gネットワークを支える基盤として重要な役割を果たす」(太田氏)ことから、引き続きフィールドでの技術検証を進めていくという。
あわせて、政府方針であるデジタル田園都市国家構想の実現に貢献すべく、都市と地方の一体的な5G展開を進める方針を示した。2.3GHz帯の基地局数を問われた太田氏は「開示できない」としつつも、「将来的には都市部などでの運用を目指す」とコメント。あわせて、2024年度中に2.3GHz帯を用いたサービスを開始する予定で、2026年度末までに324億円を投資し、8300局以上の基地局を全都道府県に展開する方針を明らかにした。
なお、KDDIは2.3GHz帯の基地局を5Gエリアをあまねく広げるため、5Gの条件不利地域の地方に建てていき、容量の足りない都市部へも必要に応じて設置していく計画だという。
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