実現が見えてきた“スマホと衛星の直接通信” 国内最速はKDDIか楽天モバイルか?:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
KDDIがSpaceXのStarlinkを活用し、2024年内に衛星とスマートフォンの「直接通信」を開始することを宣言した。当初はSMSなどのメッセージングサービスに対応し、その後、時期は未定だが音声通話やデータ通信も利用可能になる。国内外のキャリア各社は衛星通信の採用に積極的だが、真価を発揮するには1年以上は時間がかかる。
KDDIは、8月30日に米Space Exploration Technologies(以下、SpaceX)との新たな提携を発表。SpaceXのStarlinkを活用し、2024年内に衛星とスマートフォンの「直接通信」を開始することを宣言した。StarlinkからKDDIが持つ周波数を地上に向けて吹くため、ユーザーは、今利用しているスマホをそのまま利用できるようになる見込みだ。特別な周波数に対応した端末が不要なため、普及が一気に進む可能性がある。
サービス開始は2024年。当初はSMSなどのメッセージングサービスに対応し、その後、時期は未定だが音声通話やデータ通信も利用可能になる。KDDIは、auだけでなく、UQ mobileやpovoもStarlinkとの直接通信に対応させる方針だ。
基地局を1つ1つ設置していく必要がなく、国土全体を短時間で広くカバーできることから、国内外のキャリア各社は、衛星通信の採用に積極的だ。日本では、楽天モバイルも同社が出資したAST SpaceMobile(以下、AST)の衛星を活用し、国土全体をカバーする計画を打ち出している。にわかに本格化し始めた衛星の活用。その最新動向をまとめた。
SpaceXとの提携関係を生かし、スマホと衛星の直接通信に踏み込むKDDI
認定Starlinkインテグレーターとして、いち早く同社の衛星通信を活用してきたKDDIが、新たなサービスを打ち出した。それが、衛星との直接通信だ。これにより、KDDIは国土カバー率を100%近くまで引き上げていく。大手キャリアは3社とも、4Gの人口カバー率が99.9%に達しているが、実際にカバーできている面積は60%程度にすぎない。日本は人が定住していない山や島が多く、こうしたエリアは人口カバー率に含まれていない。各社のエリアマップを見ると分かるが、歯抜けのように圏外になる場所が残されている。
ただ、人が住んでいないからといって、エリア化がまったく不要というわけではない。登山をしたり、無人島に上陸したりといったことはあるからだ。レジャーだけでなく、調査や開発などを目的に訪れることもありうる。「ここを何とかしたい」(KDDI 代表取締役社長 高橋誠氏)というのが、KDDIがSpaceXとの提携に踏み切った背景だ。Starlinkの衛星とユーザーのスマホの直接通信を実現させ、「空が見えれば、どこでもつながる」(同)ことを目指す。
KDDIは、2021年9月にSpaceXとの業務提携を発表。2022年12月には、静岡県熱海市の初島で、Starlinkをバックホールに活用した基地局を開局した。ほぼ同時期に、KDDIのソリューションをセットにした法人や行政、自治体向けの「Starlink Business」をスタートしており、さまざまな活用事例を生み出している。山小屋や音楽フェスなどで、Starlinkを使ってWi-Fiのサービスを提供するなど、B2B2Cの形でコンシューマーがその回線に触れる機会も増やしている。
Starlinkをバックホールに活用すれば、エリア化までの時間を大幅に短縮できる。初島のように光ケーブルを引き込みづらい場所に、容易に基地局を設置できるのもメリットだ。一方で、基地局を介する形になると、エリアの広がりには限界もある。ケーブルを引くのに比べればスピード感は上がるものの、設置のための時間や人的リソースはどうしてもかかるからだ。Starlinkの衛星とスマホが直接通信できれば、その時間をさらに短縮できる。
サービスの詳細はまだ決まっていないが、Starlinkから地上に発射するのは、「KDDIが保有するいわゆるミッドバンドの周波数帯」(KDDI 取締役執行役員 パーソナル事業本部 副事業本部長兼事業創造本部長 松田浩路氏)。2GHz帯や1.7GHz帯、1.5GHz帯などが、その候補だ。提供形態は未定で、「プランに包含するのか、オプションにするのかはこれから」(同)決めていくという。端末側からはKDDIのいちネットワークとして見えるようになるため、「au、UQ mobile、povoでお使いいただけるような形になる」(同)。既存の周波数帯を活用するため、「今お使いのスマホもそのまま使える」(同)のが、この方式のメリットだ。
ただし、当初はSMSからの対応になる。音声通話やデータ通信といった、その他のサービスが利用可能になるのは、2025年まで待たなければならない。これは、「衛星のアベイラビリティ(能力)」によるからだ。現在、SpaceXが運営しているStarlinkは、第1世代のもの。低軌道といっても地上からは500キロ程度離れているため、携帯電話用の周波数をそのまま吹くのは難しい。SpaceXのコマーシャルビジネス担当 上級副社長のトム・オシネロ氏も、「直接通信を提供するには、新しい世代のペイロードを追加する必要がある」と認める。
実際、SpaceXでは、アンテナを大型のフェーズドアレイアンテナを搭載した第2世代の「Starlink V2」を開発しており、その小型版の「Starlink V2 Mini」を打ち上げたばかり。KDDIとの直接通信でも、このStarlink V2を利用するとみられる。米T-Mobileを始め、世界各国のキャリアがStarlinkの採用計画を打ち出しているのは、こうした計画に基づいている。米T-Mobileも、2023年末ごろからまずはメッセージに限った試験サービスを開始するとしており、時期こそ異なるが、ロードマップはKDDIに近い。
メッセージサービスから開始するのは、「SMSの場合、ある程度間欠で、連続的な通信ではない」(松田氏)からだ。地上の基地局と通信するのとは異なり、上空500キロらだと、やはり電波は届きにくくなる。セッションを張り続けて、一定量のパケットを連続的に流す音声通話やデータ通信の場合、十分な品質を保てないおそれがある。音声通話やデータ通信を導入するには、Starlink側の機能向上を待たなければならない。SpaceXが、いつStarlink V2の本格運用を開始できるか次第といった側面があるというわけだ。
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