ソフトバンクが“1年で実質12円”の購入プログラムを作った背景 約1年前から入念に準備も、厳密な運用は困難:石野純也のMobile Eye(1/3 ページ)
2023年12月27日に電気通信事業法のガイドラインが改正されたことに伴い、ソフトバンクが新たな端末購入プログラムを導入した。「新トクするサポート(バリュー)」は、1年で端末を下取りに出すことで実質価格を抑えることが可能になるプログラム。同社がこのプログラムの仕組みを検討し始めたのは、1年前にさかのぼるという。
2023年12月27日に電気通信事業法のガイドラインが改正され、端末割引の上限や条件が変わった。8万円以上の端末は、その割引額が税別で4万円までになったことに加え、回線契約にひも付かない端末単体への割引も、その枠内に含まれる形になっている。こうしたガイドラインの変更を、規制対象になるMNO(Mobile Network Operator)の4社は、端末の価格改定を余儀なくされた。中には、実質価格が大きく上がってしまった端末もあったほどだ。
一方で、新ガイドラインの施行初日に合わせて新たな端末購入プログラムを導入したキャリアもあった。ソフトバンクだ。同社は、12月27日に「新トクするサポート(バリュー)」を開始。従来の「新トクするサポート」を「新トクするサポート(スタンダード)」に改称しつつ、一部のモデルに対してバリューを適用している。1年で買い替えることで、実質価格を抑えているのがこの仕組みの特徴だ。いち早く新トクするサポート(バリュー)を打ち出した狙いを、ソフトバンクのモバイル事業推進本部 本部長の郷司雅通氏に聞いた。
ガイドライン改正に合わせて導入した新トクするサポート(バリュー)、その準備は1年前から
新トクするサポート(バリュー)は、1年で端末を下取りに出すことで実質価格を抑えることが可能になるプログラム。開始当初は「Pixel 8(128GB)」や「Xiaomi 13T Pro」などの端末が、この仕組みによってMNPで“実質12円”になっていた(現在は価格を改定している)。ガイドライン改正で、無料に近い実質価格は打ち出しにくくなると見られていた中、下取りまでの期間を短期化することで負担額を抑えられる仕組みを導入したことが話題を集めた。
人気のPixel 8は、新トクするサポート(バリュー)で実質価格を24円から12円に下げた。値上げ必至と思われた中、工夫でそれを回避した格好だ。ただし、現在は本体価格を下げ、2年で実質24円に戻っている
従来の新トクするサポートは、48回払いの内、24回の支払いを端末の下取りで免除する仕組み。この支払いの前半24回を安価に設定することで、最安で実質24円を実現していた。ただし、ガイドラインでは、一般的な中古の買い取り相場を超えた分がユーザーへの“利益供与”と見なされる。端末単体の割引が最大4万円の上限に含まれる新ガイドラインが適用されると、一部の割安な実質価格をつけていた端末、それをオーバーしてしまう。
そこで編み出されたのが、新トクするサポート(バリュー)だ。郷司氏は、「今回の事業法(のガイドライン)を確認すると、端末の下取り価格の価値が多く連動する形になる(ことが分かった)。今までは48回払いの2年サイクルで端末プログラムを設定していたが、このサイクルを前に倒すことでお客さまの端末の価値を上げることができる」と語る。
例えば、もともと10万円の端末があったとしよう。中古での買い取り価格は、4万円だったとする。これをソフトバンクが2年後に9万円で引き取ったとすると、ユーザーへの利益供与は5万円になってしまう。現行のガイドラインだと、これは過剰な値引きとして指導の対象になる。一方で、中古の買い取り価格は、端末の発売日から近ければ近いほど高くなるのが一般的だ。仮にこれが6万円だったとすると、同じ9万円で引き取っても、ユーザーに与えた利益は3万円ということになる。
どちらも実質価格は同じ1万円だが、その期間は異なる。これまでの仕組みが2年実質1万円だったのに対し、新たに入れた新トクするサポート(バリュー)の場合は、1年実質1万円になる。ユーザーが最安価格で利用できる期間は短くなってしまうものの、タイムリーに機種変更していけば、毎月の負担額を抑えることが可能になるという理屈。下取りまでのサイクルを短くすればするほど、実質価格を下げやすくなるというわけだ。
ソフトバンクが、新トクするサポート(バリュー)の仕組みを検討し始めたのは、およそ1年前にさかのぼるという。電気通信事業法の改正から3年後の検証を行うために、キャリア各社へのヒアリングが始まった段階だ。2022年11月に開催された「競争ルールの検証に関するWG(ワーキンググループ)」では、ソフトバンクも関係者へのヒアリングに応じ、端末単体値引きを含めて上限を設定する案などを提出している。転売防止のため、単体割引に制限がかかり、当時の仕組みをそのまま継続するのは難しいと判断していたことがうかがえる。
早めに検討を始めたのは、「割賦のシステムや仕組みに手を入れる部分が大きい」ためだという。改正の方向性が確定してからではなく、その動きが見えたときから事前に準備を進めていたことで、ガイドラインの改正に合わせてタイムリーにサービスを導入できた。実質12円などのインパクトある価格を維持できたため、法の抜け穴を突いたといわれることもあるが、郷司氏はこうした見方を否定。「事前に考えていることや、買い取り価格について(総務省に)ご相談させていただいた」と語る。
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