Starlinkは「スマホと衛星の直接通信を最も早く実現できる」 KDDIとT-Mobileが語る展望
MWC Barcelona 2024に出展したKDDIが、StarlinkとT-Mobileとともにトークセッションを実施。KDDIは、衛星通信サービス「Starlink」の活用で3つの「初」があるという。T-MobileがSpaceXをパートナーとして選んだのは「直接通信を最も早く実現できると考えたから」だという。
KDDIは、MWC Barcelonaに今回、初出展している。MWC Barcelona 2024初日の2月26日には、KDDIブース内で、同社の取締役執行役員でパーソナル事業本部 副事業本部長 事業創造本部長の松田浩路氏と、衛星通信サービス「Starlink(スターリンク)」を提供し、2024年中にauスマホとの直接通信を予定しているSpaceX、KDDIと同様にSpaceXのStarlinkを活用しているT-Moibleの、計3者によるトークセッションが行われた。
Starlinkの活用でKDDIは3つの「初」がある
セッションでは、まず松田氏がStarlinkの活用事例を紹介した。
松田氏は、KDDIには3つの「初」があると述べた。1つは、KDDIが世界で初めてStarlinkを基地局のバックホールとして活用したこと。2022年12月、静岡県熱海市初島で、au通信網のバックホール回線としてStarlinkを利用する基地局の運用を開始した。2つ目は、KDDIが日本初の認定Starlinkインテグレーターであること。日本ではドコモやソフトバンクもStarlinkを扱っているが、いち早く始めたのはKDDIだ。そして3つ目が、アジアで初めて衛星との直接通信を行うことだ。
また松田氏は、2024年1月に能登半島地震が発生し、200以上の基地局が使用不能になったときは、Starlinkを利用することで、素早くネットワークを復旧することができたと語った。
利用できなかった基地局の大半は光ファイバー回線の障害によるもの。そこでStarlinkを持ち込み、光ファイバーの代わりにStarlinkをバックホールとして利用した。また「SpaceXのチームは合計350台ものStarlinkを避難所に提供してくれた」と謝意を示した。
この他、山や海、建設現場での通信をStarlinkの活用で確保していることや、音楽フェスのよう大規模イベントでは、特に物販のスペースでStarlinkを活用し、スムーズに決済を行えるように取り組んだ事例も紹介した。
SpaceXのFritch氏は、Starlinkが日本の能登半島地震以外にも、ハワイの火災、オーストラリアの洪水、フロリダのハリケーン救援などで活用されていることを紹介。SpaceXでは支援サービスをより迅速に行えるようにするためにチームを作り、世界中の政府や地方機関と積極的に協力し、準備を整えているという。また、災害対策以外にも、インターネットがない学校でeラーニングができるようにしたり、通信サービスが行き届いていない地域でも、高速で低遅延の通信を可能にする取り組みをしたりしている。Fritch氏は「現時点で私たちにできることに限りがなく、まだ始まったばかり」と語った。
ユーザーがどこにいても地上波ネットワークと同じ体験ができるように
T-MobileとKDDIは2024年後半に、衛星との直接通信によるメッセージサービスの提供を予定している。衛星の準備が整い次第、データ通信や音声サービスも追加していく予定だ。T-MobileのGiard氏は、「最終的には、ユーザーがどこにいても現在の地上波ネットワークと同じような体験ができるようにすること」が目標だと言う。
SpaceXのFritch氏は「衛星との直接通信の目標は、モバイルのデッドスポットをなくすこと」だという。携帯電話会社が既に使用している周波数帯を活用して、衛星との直接通信を可能にする。2024年1月には直接通信で使う衛星を6基打ち上げ、SMSの送信ができることを実証済みだ。
Fritch氏はSpaceXの強みについて、携帯機器に変更を加える必要がないこと、SpaceXのロケット打ち上げ能力などを挙げる。「昨年(2023年)1年間で100回を超える打ち上げ、宇宙空間での接続の量は他社の追随を許さない」と胸を張った。
T-MobileのGiard氏は、Starlinkの直接通信は、誰もが既に持っているデバイスで利用できることが「われわれにとって本当に重要なことだった」と語った。さらにSpaceXをパートナーとして選んだのは「直接通信を最も早く実現できると考えたから」(Giard氏)。SpaceXは非常に短期間のうちにロケットを開発し、衛星を設計、製造し、打ち上げている。「まさにクレイジー。適切なパートナーを選ぶことが正しいということが証明された」(Giard氏)と称賛した。
今ある携帯電話をそのまま使えるようにする技術について、Fritch氏によると、通信衛星は基本的にLTEの規格に基づいて設計しているという。しかし、それは「時速1万7000マイル(約2万7000km)で宇宙空間を進む基地局」。歴史上、携帯電話が接続したことのある、どの基地局よりも遠いところにあり、技術的な課題も多い。
この課題を「独自のシリコンを構築して」(Fritch氏)宇宙空間における問題のいくつかを解決。また、現在ブロードバンドネットワークで活用しているアルゴリズムやルーティング技術も活用できるという。
KDDIもSpaceXのチームとともに、スマートフォンからインターネットに至るまでエンド・ツー・エンド技術評価を行っており、「KDDIの場合は1〜2GHz帯の周波数を利用している」(松田氏)
Giard氏は、既存の周波数を利用することで、「現在販売されているLTE対応の携帯電話全てに対応できる」ことが利点だと強調した。
衛星と地上の基地局が出す電波との干渉については「自治体や規制当局と協力して、法律的な規制を決めていく必要がある」と松田氏は語った。
「最もエキサイティングなことは、私が知らないこと」
スマホと衛星の直接通信に最も期待することを聞かれたGiard氏は、「最もエキサイティングなことは、私が知らないこと」と回答。
「4Gが始まる前は、誰もアプリやUberのようなサービスを想像していなかった。どこでもネットワークに接続できるようになったとして、いくつかは思い描くことができるし、それらもエキサイティングなことだが、本当にワクワクするのは、私が想像していないようなことが生まれてくること」(Giard氏)
また、最後に松田氏は、ブース内に掲げられているテーマ「Enhancing the Power to Connect(つなぐチカラを進化させる)」を指し、「私たちは“つながる力”を強く信じている。私たちはコネクティビティーでお客さまの日常生活を変えることができると信じている。(直接通信を)前進させたい」と締めくくった。
イベント終了後は3者の囲み取材も行われた。KDDIのユースケースについてFritch氏は、「お客さまやパートナーは、私たちが想像もしてなかった方法で使っていることもあって、こういう風に使えばいいんだなっていうのを学ばせていただいている。KDDIからもたくさん学べることがあるので、ユースケースを互いに共有していきたい」と述べた。
Giard氏も、「Starlinkを基地局のバックホールに使ったり、災害時に活用したりすることは、アメリカでも応用できると思っている」と語っていた。
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