トーンモバイルは“自社スマホ”をやめるのか? 石田社長に聞く「TONE IN」と「エコノミーMVNOの成果」:MVNOに聞く(1/3 ページ)
トーンモバイルは、これまでの戦略を大きく転換する「TONE IN」を導入する。ドコモで販売しているスマートフォンに、トーンモバイルのサービスを対応させる。端末からサービスまでを一気通貫で手掛けていたトーンモバイルだが、このタイミングでなぜ回線やサービス単独での提供に踏み切ったのか。
フリービットは、ドリーム・トレイン・インターネット(DTI)が運営するトーンモバイルに「TONE IN」を導入する。同社は、専用端末の開発まで手掛け、ネットワークと端末の機能を連携させる垂直統合的なサービスを売りにしていた。その代表例に、「TONEファミリー」などの見守りサービスがある。この戦略を大きく転換するのが、TONE INだ。
第1弾として、トーンモバイルは専用端末で動作していた同社のサービスをソフトウェア化することでドコモの販売するAndroidスマートフォンに対応。エコノミーMVNOとして店頭で販売する際に、ドコモの端末をお勧めしていく。ユーザーにとっては端末の選択肢が広がることや、ドコモショップを訪れた際にそのまま端末まで持ち帰れることがメリットになる。
TONE INを実現するため、フリービットはトーンモバイルの専用端末に搭載されていたハードウェア依存の機能をバーチャル化し、他社端末にSIMカードを挿すだけで自動的にインストールできる仕組みを開発した。ドコモ端末94機種で検証を行い、いずれも動作確認できているという。このTONE INに合わせ、LLM(大規模言語モデル)を活用したSNSの見守りサービスのテクニカルプレビューも発表している。
端末からサービスまでを一気通貫で手掛けていたトーンモバイルだが、このタイミングでなぜ回線やサービス単独での提供に踏み切ったのか。フリービットの代表取締役社長CEO兼CTOを務める石田宏樹氏に話を聞いた。
バーチャルハードウェアが動くようになるまで2年かかった
―― まずはTONE INの狙いを教えてください。なぜ独自端末の開発ではなく、ドコモのスマホにサービスを対応させることになったのでしょうか。
石田氏 フリービットの中期経営計画の中で、トーンの技術をオープン化する仕組みがありました。Android全般に対応するということは、今の時代だとIoTに対応することも意味しています。以前から、その形でいいと考えていました。
その流れがあった一方で独自端末の開発は常にやっているのですが、端末を開発する場合、1年前ぐらいに発注が必要でロットも確定させなければなりません。当時は半導体価格も含めていろいろ見えない時期がありました。いくらかけていくらのものを作ればいいのかが、まったく分からなくなっていました。22年に発売された「TONE e22」は、2年間売るつもりで在庫を確保していましたが、それもギリギリでした。あともう少し対応が遅かったら、売るものが何もなくなってしまったかもしれません(笑)。
―― 約2年前の端末ですが、追加生産などは難しいのでしょうか。
石田氏 TONE e22の再生産というシナリオはありました。そこは両にらみで考えていましたが、今回の件に関してはTONE INが間に合いそうということが見えてきていました。バーチャルハードウェアがある程度の抽象度で動くようになるまで、2年かかりました。最初はほとんどが機種依存の吸収でしたが、結果としてもう少し洗練された形になっています。既存のトーンモバイル端末も、アップデートをかけてその形にする予定です。
―― 開発にあたって苦労した点はありましたか。対応モデルが多いので、検証はなかなか大変そうですが。
石田氏 Androidも機種依存の部分が少なくなってきてはいますが、機種依存のコードを書かないで済むようにするところはやはり難しかったですね。それとは別に、トーンモバイルの端末であればユーザーのパーミッションなしでアプリが動かせるという特徴がありました。この部分はドコモとも話し合い、店頭でできるのではないかという流れになりました。フォーカスグループを組み、きちんとセットアップができるのかというところまで見ています。
端末を開発していたときから、自分の環境の中にトーンモバイルを入れないとダメだと思い、ドコモ端末にTONE INの仕組みを入れたものも2年ぐらい使っています。最初のうちは、位置情報が取れなくなったというクレームが妻から来たりことがありました(笑)。結局、それは機種の問題ではありませんでしたが、そういったテストはスタッフ一丸となってやっています。テスト販売した際にも、苦情がゼロだったのは自信につながりました。
専用端末でなくなることで、経営リスクは圧倒的に低くなる
―― 先ほどロットの話がありましたが、専用端末ではなくなることで経営的にはリスクが低くなるといえるのでしょうか。
石田氏 それは圧倒的に低くなります。資本効率がものすごくよくなりますからね。例えばCMを打ってユーザーを一気に増やそうとなったときに、専用端末だとリスクが高すぎます。2000店舗のドコモショップにいきなりユーザーが行ってしまうと、すぐに在庫が蒸発してしまう。エコノミーMVNOでCMを打ったときにはTONE e22だけでなく、「TONE e21」も販売していましたが、その在庫はすぐに蒸発してしまいました。
―― 一方で、単価がそれなりにあるので売り上げは立ちやすいのがハードウェアだと思います。利益率はそうでもないとは思いますが……。
石田氏 確かにあまり利益は取っていませんでしたが、売り上げは立ちます。その問題は悩みの中で大きなボリュームとしてありました。ただ、グループ企業やフリービットのMVNE事業が頑張ってくれたおかげで、3年間の売り上げ目標は到達できました。それがあったので踏み切れた部分はありますね。
端末開発は本当に怖いビジネスで、最終発注の1週間ぐらい前は眠れないほどです(笑)。それでも、端末を作っていなければ分からなかったことはいっぱいありましたし、これがなければ採用できていなかった人材もいます。そういった人材のおかげで、今回、バーチャルハードウェアを作り込んでいくことができました。
―― iPhone用のサービスは専用ハードなしでやっていますが、あちらに寄せていく手はなかったのでしょうか。
石田氏 iPhone向けのバーチャルソフトウェアが完璧ではなかったからです。あちらはかなり機能をネットワーク側に寄せています。
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