新生「らくらくスマートフォン」で戦略転換、ドコモだけでなくY!mobileやSIMフリーで出す狙いは? FCNTに聞く(3/3 ページ)
FCNTの看板商品といえる「らくらくスマートフォン」に新たなモデルが登場した。ドコモ向けだけではなく、Y!mobileやオープン市場向けにも新モデルを投入する。同シリーズはキャリアとタッグを組んだ手厚いサポートがあってこそ成り立ってきたが、なぜ戦略を変更したのか。
サイズ感を維持しながら画面の大型化に挑戦 文字サイズにもこだわり
―― ぱっと見は同じように見えますし、今のスマホとしては十分小さいのですが、ディスプレイサイズが0.4型上がっているのは結構な大型化ですね。このサイズにした理由はどこにあったのでしょうか。
高橋氏 意見を聞くと、今のサイズ感がいい、でも画面は大きい方がいいと言われます。それが本音だと思います。画面が大きすぎるとちょっと持ちづらくなりますが、持ちやすさと大きさをバランスさせた際にどこが一番いいのかを調査した上でこのサイズにしています。画面は大きくなりましたが、手に持ったときの感じは以前のモデルと比べても違和感はないと思います。今まで通りと思っていただける造形になっているからです。
―― 0.4型大型化して握りやすくするのは難しかったのではないでしょうか。
高橋氏 相当難しかったですね。リアのアール(丸み)をしっかり取って、握りやすさを実現していますが、こういう形のものはあまりありません。実装効率がものすごく悪いからです。部材は四角でできているので、アールの部分はデッドスペースになりがちです。タッチパネルのサイズ拡大の課題も含め、難しいパズルの中で今回の形になりました。
四隅のアールもそうで、ここも基本的には直角に近い方が実装効率は上がります。ただ、らくらくスマートフォンとしての優しさやフレンドリーさを造形から感じていただきたい。その王道を提供するのが筋だと思っています。
―― その部分はY!mobile版も共通ですね。
高橋氏 らくらくスマートフォン aでも、アールは取るように心掛けました。こちらは画面サイズがより大きいのですが、単純に大きくしただけでなく、ホーム画面の「電話」や「電話帳」などの文字サイズの絶対値は極力変えないようにしました。少しだけサイズは違いますが、通常だと、画面サイズに合わせてリニアに大きくなります。ここも、らくらくスマートフォンとして読みやすい文字を大事にしようということで、極力これまでのらくらくスマートフォンと同じになるように近づけていきました。
正能氏 文字サイズは結構重要なんです。大きければいいと思われがちですが、大きくするとその分一覧性が悪くなります。それだけでなく、心理的にもここまで大きくされると恥ずかしいという領域があり、単に大きいだけでなく調整が重要になります。
高橋氏 共通という点だと、今回はシンプルホームを変え、arrowsとほぼ同じものを採用しています。使い勝手を変え、アプリ一覧を呼び出す際のボタンをやめ、下からフリックすると出るようにしています。教えられないというご家族がいらっしゃったのと、もしらくらくスマートフォンを卒業されるときでも、他のスマホと同じものが入っていれば安心して乗りかえることができます。
また、以前のシンプルホームは視認性重視で、アイコンの下に座布団のような四角があって壁紙が見えなくなっていましたが、この部分も透過にしました。アプリの並べ替えもarrowsのシンプルホームでやっているようにメニューに出るようにしています。
―― そうやって、徐々に普通のスマホに変えていく動きが増えてくるのでしょうか。
高橋氏 現状は基本的に操作体験を変えたくないという方が多いので、そこに対する影響はあまりないと思っています。
外谷氏 らくらくスマートフォンのユーザーには、ずっと使い続けている“ラバーズ”のような方もいれば、最近デビューした方もいます。最近デビューした方は、使い方を教えてもらえないので、arrowsと同じようなシンプルホームを入れて、周囲の方がお勧めしやすいようにしています。シンプルホームはあまり訴求してきませんでしたが、今回は初期設定の中で選べるようにしています。
自律神経の測定機能は、まずarrowsから考えた
―― 今回、ドコモ版のF-53Eには、「arrows We2 Plus」と同じ自律神経の測定機能が入っています。実にらくらくスマートフォン向けの機能だと思いますが、この機能はらくらくありきでarrows We2 Plusに入れたということなのでしょうか。
外谷氏 商品として先に考えていたのは、arrowsです。健康に対するニーズが高いのはシニアというイメージがまだまだありますが、オールエージで関心が高い分野だとみています。その中で、日々耳にする自律神経へのアプローチはまだほとんどありません。arrows We2 Plusはより幅広いお客さまに使っていただける商品ですが、らくらくスマートフォンに関しては、よりシニアの方に絞った提供法を考えていきたい。計測という行為自体は同じですが、コミュニケーションの取り方を年代によって変えていければ面白いですよね。今はまだ、その入口だと思っています。
―― ちなみに、あの機能はどのぐらい正確なのでしょうか。
外谷氏 日本の薬機法は厳しく、その基準を満たした医療機器ではありません。自律神経は心電図を4〜5分取らないと測れませんが、それと同じ精度を目指して作っています。森谷敏夫さん(京都大学名誉教授/おせっかい倶楽部代表取締役)とあの機能を作る上で、「測れます」と言える精度にはなっています。医療機器ではないので、そのような訴求はできませんが、気軽にスマホで測っていただくことはできます。
―― AppleはApple Watchの心電図などで医療機器として認可を得ていますが、今後、そういった機能をらくらくスマートフォンに搭載していくことはお考えでしょうか。
外谷氏 そういうふうにできればいいと思っています。実際、心拍を測る機能はファーウェイさんやAppleさんが認証を取っていますが、そこにはいろいろな可能性があります。今はスマホですが、スマートウォッチのようなものもやりたいと考えています。
レノボ側とは「なぜこれを作るのか」を丁寧に議論
―― arrows We2シリーズとの比較でいうと、あちらはレノボのスケールメリットが生きている部分がありました。らくらくスマートフォンは、専用部品も多いとのお話でしたが、規模が生きてきたところはありますか。
外谷氏 プラットフォーム(チップセット)やカメラのセンサー、メモリといった一般的な部品については、コスト効率化が図れています。逆に、社内でもめたのは、「なぜこれを作るのか」というところですね(笑)。
―― そこからですか(笑)。
外谷氏 ワールドワイドでステークホルダーの承認を得る必要がありますが、ディスプレイサイズやらくらくタッチパネルはもちろん、カメラのレイアウトやボタンの配置など、いろいろなところが普通のスマホと違います。そこはコスト効率化が図れないので、相当な話がありました。
―― どうやって説得したのでしょうか。
外谷氏 「なぜ」というのは否定ではなく、疑問だったので、そのクエスチョンに対して丁寧に答えていきました。FCNTのビジネスはグループの中でも注目されているので、副社長クラスがよく来日しているときにらくらくスマートフォンを触ってもらっています。やはり机上の空論とは違う体験があり、触ってもらえば必要性は理解してもらえます。その上で、これをどうすれば作れるのかという議論に速やかに移れたのはよかったと思います。そのHOWの部分の議論は集中的にやりましたが、お客さまに対しても、FCNTとしても捨ててはいけない価値であるという合意ができています。
もちろん、数をどうするかという議論はあるので、最終的には私と桑山(泰明・執行役員副社長)とレノボで、「これをグローバルに広げていこう」という話で終わりました。ワールドワイドに広げる話も期待されていることなので、日本できちんとやった後、マーケットを見極めながら考えていきたいと思います。
取材を終えて:家族契約が多いMVNOとの提携にも期待
ドコモ向けのらくらくスマートフォンでは既存ユーザーのニーズにしっかりこたえつつ、Y!mobile向けでは新たなユーザーの獲得に軸足を置いていることがうかがえた。オープンマーケット版は、どちらかといえば後者に近いが、FCNTにとってよりチャレンジの要素が強いようだ。
一方で、MVNOの中にはシェアプランに特徴があり、家族契約が多い事業者も存在する。こうしたMVNOとタッグを組むことができれば、オープンマーケット版も成功できる可能性がある。具体的な計画はまだないというものの、日本市場で培ったノウハウを武器にらくらくスマートフォンをグローバル展開していくことにも期待したい。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
SIMフリー市場にも“復活”のFCNT arrows We2/We2 Plusの反響、ハイエンド機やらくらくスマートフォンの今後を聞く
FCNTがレノボ傘下の新体制の元で送り出す第1弾のスマホが、「arrows We2」「arrows We2 Plus」の2機種だ。同時に、オープンマーケット(SIMフリーマーケット)にも再参入を果たした。復活したばかりの同社が、なぜこの市場の開拓に取り組んでいくのかを聞いた。
「AQUOS R9 pro」と「らくらくスマートフォン」 真逆の新機種から見える、日本メーカーの“生き残り戦略”
シャープとFCNTが、相次いで秋冬商戦向けの新たなスマートフォンを発表した。ハイエンドモデルでカメラ性能を突き詰めたAQUOS R9 proと、シニア世代でも簡単に使えるらくらくスマートフォンは、ターゲット層が真逆のようにも思える。一方で、特定の機能や市場にきちんと照準を合わせ、パーツレベルからスクラッチで作り込むモノ作りの姿勢は両社で共通している。
FCNTが「らくらくスマートフォン」の新モデルを一挙3モデル発表 ドコモ向け/Y!mobile向け/MVNO向けを順次発売
FCNTが「らくらくスマートフォン」の新モデルを一挙に発表した。従来からあるNTTドコモ向けモデルの他、Y!mobileやMVNO向けにも初めて製品を投入する。【更新】
約3年ぶり「らくらくスマートフォン」は“変えない”ことにこだわり SIMフリー戦略で販路も積極開拓
FCNTは、これまでドコモ専用だった「らくらくシリーズ」を初めて他社にも展開。ドコモ向け最上位機「F-53E」、ワイモバイル向け「らくらくスマートフォンa」、SIMフリーモデル「Lite MR01」の3機種を発表し、マルチキャリア戦略に転換した。
新しいarrowsやらくらくスマートフォンは出る? Lenovoグループに入って何が変わった? キーマンに聞く「新生FCNT」
富士通の携帯電話端末事業に源流を持つメーカー「FCNT」が、Lenovo出資のもと再出発した。「arrows」や「らくらくスマートフォン」は一体どうなるのか。Motorola(モトローラ)とどうすみ分けるのか。そしてハイエンド端末は出るのか――新生FCNTのキーマンに話を聞いた。
「らくらくスマートフォン4 F-04J」を30代男性が使ってみた
ドコモの「らくらくスマートフォン」といえば、どちらかというと「中高年」「初心者」向けという印象が強い。しかし、2月に発売された「らくらくスマートフォン4 F-04J」は、比較的幅広いユーザーを受け入れる素地のあるスマホに進化している。実際に、30代である筆者が使って検証してみた。




