携帯4キャリア8社、災害時の協力体制を強化 首都直下地震や南海トラフ地震への備えも視野に(1/2 ページ)
NTTドコモやNTT東西を含むNTTグループ5社と、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの国内通信事業者8社は12月18日、大規模災害時におけるネットワークの早期復旧に向けた新たな協力体制を発表した。
NTTドコモやNTT東西を含むNTTグループ5社と、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルの国内通信事業者8社は12月18日、大規模災害時におけるネットワークの早期復旧に向けた新たな協力体制を発表した。
各社が保有するアセット(設備・施設)の共同利用や、船舶を活用した基地局展開など、能登半島地震での経験を踏まえた具体的な連携強化策を実施する。事務局は12月1日から運営している。
協定に至った経緯は能登半島地震 事業者間連携の重要性が浮き彫りに
2024年1月1日に発生した能登半島地震では、土砂崩れや道路崩壊、津波による被害で多数の通信設備が被災。各社はそれぞれ工夫を重ねながら対応に当たったが、復旧作業の過程で事業者間連携の重要性が浮き彫りとなった。
総務省の情報通信審議会においても能登半島地震での事業者間連携の取り組みが評価され、さらなる推進が期待されていた。このような背景のもと、従来NTTグループとKDDIの間で行っていた「つなぐ×かえる」プロジェクトを基盤に、ソフトバンクと楽天モバイルも参画する形で、より包括的な協力体制の構築へと発展した。
NTT 技術企画部門 災害対策室長の森田公剛氏は協定締結の原動力について「各社、災害復旧に取り組む中で思いは同じだった。被災地で通信が使えなくて不安に思っている方々がいる。その不安を早く取り除いて、日常生活を取り戻していただくために、各社がそれぞれの持てる力を出し合おうという思いで今回の協定に至った」と説明する。
3つの柱で連携を強化 アセットや船舶を共用、モバイルと固定の連携も
今回発表された協力体制は、(1)アセットの共同利用、(2)船舶の共同活用、(3)モバイル・固定の連携強化の3つを柱としている。
アセットの共同利用の一例としては、NTTグループが保有する約7000カ所の通信ビルの空きスペースを他社にも開放する。また、復旧作業用の資材置き場や仮設給油所も共同利用する。さらに、Starlinkなどの衛星通信設備や特殊車両についても共有を進めていく。
船舶の共同活用については、従来NTTグループとKDDIの間で協定を結んでいた船舶の共同利用に、ソフトバンクと楽天モバイルも参画することになった。NTTの「きずな」やKDDIの「オーシャンリンク」「ケーブルインフィニティ」といった海底ケーブル敷設船を活用し、通信設備や物資の輸送、船上基地局の展開を行う。
さらに、モバイル・固定の連携強化として、復旧時にモバイル通信事業者と固定通信事業者の間で、被害状況の把握やネットワークの復旧に必要な設備情報などを共有する。特に、携帯電話基地局から固定回線につながる区間での障害箇所の特定を効率化し、自治体や病院などの重要拠点をカバーするネットワークの復旧を迅速化する。
限られた作業時間をいかに短縮するかに尽力 通信環境でも提携
今回の協力体制強化は、能登半島地震での経験が大きな契機となっている。地震発生直後、土砂崩れや道路崩壊、津波により多数の通信設備が被災。基地局アンテナの倒壊、通信ビルの傾斜、地中の管路破損など、さまざまな形態の被害が発生した。
各社は独自の復旧作業を進めながらも、状況に応じて柔軟な連携を実現してきた。NTTとKDDIは海底ケーブル敷設船「きずな」を活用し、陸路での到達が困難だった輪島市町野町沿岸と大沢地区沿岸で船上基地局を共同運用。このとき「きずな」の最上部に衛星通信アンテナを設置し、船上から陸上への通信エリア確保を実現した。
特に半島という地理的特性から、金沢からの復旧作業には長時間を要した。朝に出発しても渋滞で現地到着は夕方になることも多く、実質的な作業時間は限られていた。この課題に対し、各社は知恵を絞って対応。KDDIとソフトバンクは給油拠点を共同利用し、限られた資源を効率的に活用。また通信ビルの空きスペースを活用し、作業員の宿泊場所や資材置き場として運用するなど、前線基地としての活用も進めた。
衛星通信の活用も復旧の重要な要素となった。各社はStarlinkなどの衛星通信を積極的に導入し、地上回線が途絶した地域での通信確保を図った。さらにドローンを活用した中継局の設置や、移動基地局車の展開など、あらゆる手段を組み合わせて復旧にあたった。
避難所への通信提供でも連携が進んだ。4キャリアは避難所ごとに支援を分担し、効率的な通信確保を実現している。例えばソフトバンクは、Starlinkと小型無線機を組み合わせた避難所向けシステムを開発・展開。Wi-Fiルーターを設置することで、全キャリアのスマートフォンをWi-Fiで利用できる環境を整備した。楽天モバイルも同様に、避難所でWi-Fiルーターを活用し、「00000 JAPAN」という無料Wi-Fiサービスを提供。各社が手分けして対応することで、より多くの避難所での通信確保を実現した。
これらの経験を通じて、各社は独自の対策強化を進める一方で、事業者間の連携の重要性を再認識。特に、情報共有の迅速化や、リソースの効率的な活用において、連携が大きな効果を発揮することが明らかになった。今回の包括的な協力体制は、これらの実践的な経験に基づいて構築されている。
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