「通信が安いだけの国でいいのか?」「PayPayはまだ『一合目』」 ソフトバンク宮川社長が語る好調と不安(1/3 ページ)
ソフトバンクが2月10日、2024年度第3四半期決算を発表した。増収増益で好調に見える宮川潤一社長は「世界で一番強かった通信が、ただ安いだけの国になってしまった」と述べ、値下げ継続による投資抑制への強い危機感を示した。
ソフトバンクは2月10日、2025年3月期(2024年度)第3四半期の連結決算を発表した。主軸のモバイル事業が2023年度からの増収基調が続き、PayPay事業の黒字定着も鮮明になるなど、全セグメントで増収増益と好調を維持している。
好決算にもかかわらず、宮川潤一社長は「通信業界だけが常に値下げの議論をしている」と繰り返し述べ、電力コストなどの急騰や技術投資への影響に強い危機感を示した。
Y!mobileからのアップセルは「と金」 顧客育成戦略が奏功
2024年度第3四半期の連結売上高は4兆8015億円(前年同期比+7%)と堅調に推移し、純利益も4366億円(+7%)を記録。スマートフォン契約数(※1)は前年度同期比で4%増加した。特にY!mobile(ワイモバイル)ブランドからSoftBank(ソフトバンク)ブランドへの移行収支は、大幅なプラスとなったという。モバイル事業全体でも、2023年度からの売上の回復基調が続き、再び成長軌道に戻ったそうだ。
(※1)携帯電話回線の総回線数のうち、契約区分が「スマートフォン」となっている回線数
宮川社長は将棋の例えを用いて「Y!mobileは『歩』のようにお客さまを集めやすい。その中から『金(と金)』となるお客さまがいる。(社内では)『と金プロジェクト』と呼んでいるが、Y!mobileで純増を続けながら、その中からSoftBankブランドへ自然な形で移行いただくことで、お客さまと一緒に成長できる」と説明する。
通信料金がただ安いだけの国でいいのか? 通信業界の窮状を訴え
一方で宮川社長は、モバイル通信事業にかかる電力コストが毎年100億円単位で増加し続けている現状にも言及する。
「通信業界だけが常に値下げの議論をしており、他の全てのものが値上がりしている。取引先の中小企業の収益性も心配だ。5G投資を抑えたり、6Gを待ちながら『5Gはこんなものだろう』とするのは本当に悔しくて仕方ない」とした上で、「電力などのコスト上昇に耐えながら従業員の給与も上げていかなければならず、値下げ一辺倒では健全な形での投資は難しい」と窮状を訴えた。
ただし「寡占とはいえ4社体制の通信業界で、我々が最初に(値上げに)動くのは相当勇気がいる。『増収増益の中で、なぜソフトバンクだけが踏み切るのか?』という話になる」としつつ、中長期的には「世界で一番強かった通信が、ただ安いだけの国になってしまった。開発力も落ちている。どこかで声を上げたい」と語った。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
ソフトバンク宮川社長が語る“ahamo対抗”の真意 純増だけを追わず、「ペイトク」プラン改定も検討
ソフトバンクの宮川潤一社長は、11月8日の2025年3月期第2四半期決算説明会で、ドコモのahamo対抗で料金プランを決断した内幕を明かした。過度な値下げ競争への懸念を示し、ARPU向上を重視する戦略転換を明確にした。
上期決算「KDDI・ソフトバンク」と「ドコモ」で明暗が分かれたワケ 鍵を握る“メインブランドへの移行”
ドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手3社が、上期決算を発表した。3社とも、2021年からの官製値下げで通信事業の収益確保に苦しんでいたが、KDDIとソフトバンクはその状況を完全に脱したように見える。背景には、メインブランドへの移行が進んでいることがあるが、ドコモは通信サービス収入が減少した。
ソフトバンクG孫社長が語るOpenAIとの提携 1億以上のタスクを自動化して“AIの大脳”になる
ソフトバンクグループとOpenAIが新合弁会社「SB OpenAI Japan」を設立し、企業向けAIエージェント「Cristal」を共同開発。1億以上のタスク自動化を目指す大規模投資を通じ、日本からAGI(汎用人工知能)の実用化を切り開く考えだ。
「AI-RAN」でソフトバンクのネットワークは何が変わる? ユーザーのメリットとビジネス上のインパクトを解説
ソフトバンクは、11月13日にAI-RANのコンセプトを具体化した「AITRAS(アイトラス)」を発表した。AI-RANとは、仮想化の基盤上で無線信号の処理だけでなく、AIも同時に駆動させるというもの。2025年度には一部法人顧客の専用網となるプライベート5Gに展開するミニマクロ局として、サービスを開始するという。
携帯値下げの衝撃から2年、収益回復への秘策は? ソフトバンク決算で語られたこと
ソフトバンクは5月10日、2022年度通期決算と新中期経営計画を発表した。決算説明会では宮川潤一社長が登壇し、展望を紹介した。質疑応答では「副回線のワンナンバー化」にも言及した。




