AppleがAIで出遅れても“後追い”で十分な理由、iOS 26は新デザインでAndroidとの差別化が明確に:石野純也のMobile Eye(3/3 ページ)
WWDCで発表した「iOS 26」では、「Liquid Glass」という新たなデザインをUIに採用している。単純なデザイン変更と思われがちだが、Androidとの差別化にもつながる。AIの開発が遅れているのは事実だが、ビジネス上は問題ないと感じる。
株価や評判では分からない「Apple Intelligence」の真の狙い
こうした一連の発表を受け、AppleがAIの開発で出遅れているという指摘も出ている。少なくとも、株式市場では基調講演開幕直後に株価が大きく下落。本稿を執筆している6月12日時点でも、株価の下落が続いており、WWDC開幕前の1株206ドル(約2万9600円)から、約199ドル(約2万8600円)まで低下してしまった。時価総額にすると、1000億ドル(約14兆円)を超える。
実際、iOS 26に搭載されるAIは他社の後追いが多く、Siriの改善も計画が大きく遅れている。AIモデル自体の大幅なアップデートもなかったことから、日進月歩以上の速さで性能を向上させているOpen AIのChatGPTやGoogleのGeminiなどと比べ、サプライズは少なかった印象だ。この点では、開発者向けイベントをほぼGeminiに集約させ、Androidのアップデートは別イベントに譲ったGoogleの方が一枚上手だった。
とはいえ、こうした批判や株価の動きは、やや過剰反応にも感じられる。Open AIやGoogleと比べると確かにAIモデルの開発は進んでいないが、Appleは、それを直接的な売り物にしているわけではない。また、Apple IntelligenceはクラウドAIも活用している一方で、その比重はオンデバイスAIに置かれているため、端末の性能向上とも歩調を合わせる必要もある。
Apple Intelligenceは、あくまでiPhoneをはじめとした同社製品に採用されるAI。AIモデルを開発して、それを幅広い企業や個人に使ってもらい、収益を得るというビジネスモデルはない。あくまでハードウェアが売れてナンボということだ。他社にキャッチアップしていれば十分という見方もできる。
Siriも改善が遅れているのは事実だが、端末内に蓄積したパーソナルデータを学習して、アプリをまたがって連携するという機能を完璧に実現しているスマホはまだ存在しない。Geminiのアプリ連携はそれに近いものの、対応しているアプリは限定的。ユーザーの情報をしっかり把握しているわけでもないため、毎日使う機能になっているかと聞かれれば答えはノー。事実としてSiriの開発は遅れているが、どこかが突出して進んでいるわけでもない。
WWDCでは、Apple IntelligenceのFoundation Models frameworkでApple Intelligenceを開放し、開発者がアクセスできるようになったことも発表されたが、むしろこちらの方がiPhoneやiOSの将来にとって重要な印象を受けた。App Storeのエコシステムを広げることができるからだ。しかも、クラウドAIと違って処理がiPhone内で完結することもあり、料金は無料だ。
iOS 26が登場した際には、これを組み込んだ多数のアプリが登場することも期待できる。Apple Intelligence対応のiPhoneはまだまだ少ないが、今後の端末では標準搭載になっていくことが予想されるため、数は膨大になる。OSの新機能とは異なり、一般のユーザーには地味な発表に見えるが、次のiPhoneに向けての“仕込み”は着実に進んでいるようだ。株価の動きとは裏腹に、iPhone自体がAIアプリの巨大なプラットフォームになることを予感させる。
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