「スマホカメラと生成AI」に潜む“深刻なリスク” 写真の信頼性を保つために必要なこと(1/2 ページ)
スマホカメラにおける生成AIの現状と、起こりうる問題を考察する。AIを用いることでズームの劣化を抑え、不要な写り込みを消せるが、不自然な補正になるケースもある。報道、裁判、学術研究など“真実性”が求められる分野では深刻なリスクをはらむ。
Google Pixel 10 Proシリーズで採用された30倍以上にズームした場面の「生成AIによる補正」は、特定の場面ではうまく補正できない。今後スマートフォンのカメラに「生成AI」が密接に関わると、新たな問題が発生する。ここではスマホカメラにおける生成AIの現状と、起こりうる問題を考察していきたい。
AIでズームの劣化を抑え、不要な写り込みを消せるが、文字の補正は不完全に
近年のスマホカメラは、もはや「光を記録する装置」ではなく、「AIによって絵を作り上げる装置」へと進化しつつある。その代表例で話題となっているものがGoogle Pixelシリーズの「超解像ズーム」だ。
Pixel 10 Proはシリーズ初の100倍ズーム撮影が可能で、写したい被写体をくっきりと描き出す。しかし、その実態は単なる光学技術ではない。複数の低解像度画像や過去の学習データを元にAIが補完し、“存在しなかった画素”を推測してディティールを描き足したり、補完したりする仕組みが使われている。
このため、30倍以上の高倍率でも劣化を抑えて撮影できるが、細かいディティールは生成AIが元情報から書き加えている。
一見するとユーザーにとっては「すごくきれいに撮れた」と感じられるが、記録された情報以上のものが人工的に生成されている。ここに「写真とは何か」という疑問が生まれる。
AIによる補完も万能ではない。元の情報があまりに欠落している場合、補正は困難になる。そんな苦手分野に「テキストの表現」がある。実際に30倍以上の倍率で看板等のテキストを撮影すると、生成がうまくできず、見慣れない異国の文字のような、不自然な形状の羅列となってしまう。
実はこの手のAIアシストはPixelだけでない。例えばサムスンもGalaxy Sシリーズの「月撮影モード」で撮影された月はかなり補正が入っている。
中国メーカーは生成AIとスマホカメラの共存を狙ってか、さまざまなアプローチで写真と生成AIを組み合わせた機能を展開している。例えば、Xiaomi、OPPO、HONORなどいくつかのメーカーがPixelと同じく「高倍率ズーム」時に生成AIを用いている。
vivoやHuaweiでは生成AIを用いて影や反射だけでなく、不要な写り込みを消したり、ライトバランスを調整したりする機能を備えている。ポートレートモードでは人物を切り取って背景を青塗りにした証明書用の写真を作ることもできる。
例えば、日本でも販売されているカメラ性能の高いXiaomi 15 Ultraも、30倍を超える倍率で生成AIを用いたズーム処理を行うとしている。Pixelほどハッキリと塗りつぶす感じではないが、多少なりとも補正はかけている。
vivoの「スマートAIビジュアルモード」内の機能にある証明写真撮影機能。ゲームセンターで撮った元写真が履歴書にも使えそうな証明写真に早変わり。顔周りの切り抜きやゆがみ補正だけでなく、服装もスーツが生成されている
これらの機能は高いNPU性能を求める関係から、基本的にフラグシップスマホに搭載されることが多い。Pixelの「動画ブースト」機能のように一度クラウドにアップロードしてサーバ上で処理するものもあるが、多くは端末内でAI処理を行っている。
一方でPixelの編集マジックのようなカメラではなく、ギャラリーアプリから編集する機能はミッドレンジスマホにも備わっている。ただ、ミッドレンジスマホではNPUの性能が低い関係からか、処理速度でフラグシップに劣る印象を感じた。
今後は撮影時にリアルタイムでAIが画像を編集することも?
現時点では、生成AIは主にPixelでいう「編集マジック」といった撮影後の画像処理や、高倍率のデジタルズームで失われたディティールを補完する用途で使われるケースが多い。しかし、vivoのスマートAIビジュアルモードのように写真そのものに介入する例もある。
将来的には、シャッターを押した瞬間、または押す前からAIが介入し、リアルタイムで描画を再構築する方向へシフトしていくだろう。具体的には以下のような例が考えられる。
- 夜景で欠けた光を自動的に“描き足す”
- 構図的に不必要な物体や人物を消去する
- 曇り空を青空に置き換える
- 人物の髪の毛や瞳をAIが補強して美化する(美顔モードの強化版)
こうした機能はスマートフォンにおけるユーザー体験を確実に向上させる一方で、「撮ったもの」と「AIが描いたもの」がどこまで区別できるのか、という新たな課題を突きつける。
写真は本来、光学的に記録された“事実”をベースとする。だからこそ報道や科学分野で信頼され、個人の思い出としても価値を持つ。だが生成AIが積極的に介入すると、写っているものが必ずしも現実と一致しない可能性が高まる。
例えば、欠けたディティールをAIが補完した夜景写真を「この場所の光景です」と示したとき、それは事実を伝えているのか、それとも“AIが想像した景色”を見せているにすぎないのか。境界は曖昧になり、写真が本物かどうか分からなくなる恐れがある。
SNSで拡散される日常写真なら「きれいに撮れた」で済むかもしれない。しかし報道、裁判、学術研究など“真実性”が求められる分野では深刻なリスクをはらむ。スマートフォンのカメラで日常的に生成AIが介入するようになってくれば、それこそスマホの写真に証拠能力はなくなってしまう。
そのような時代の写真は後世では信ぴょう性に欠けるどころか、「AIによる補正が強く、証拠能力のない画像」と捉えられてしまうかもしれない。
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