検索
コラム

「撮り鉄」動画SNSで物議 駅員が「下がって」と制止も、スマホでの撮影に夢中

スマートフォンのカメラ性能向上に伴い、駅ホームなど公共の場における一部の鉄道ファンによる危険な撮影マナーが社会問題化している。事態を重く見たJR東日本は、2025年12月に具体的な迷惑行為を鳥のキャラクターで表現した異例のポスターを公開した。主要駅でのサイネージ掲出や公式動画の放映を通じて、安全確保への最終的な警告と厳正な対処を強く呼びかけている。

Share
Tweet
LINE
Hatena

 近年、スマートフォンのカメラ性能が飛躍的に向上し、誰もが手軽に一眼レフ並みの高画質な写真や動画を撮影できる時代となった。その恩恵を受ける一方で、公共の場における撮影マナーの欠如が度々社会問題として取り沙汰されている。中でも、鉄道車両や駅の風景を撮影するいわゆる「撮り鉄」と呼ばれる鉄道ファンの一部による危険行為は、SNS上でも頻繁に炎上し、広く懸念を集めている。

 つい最近も、都内のとある駅において、試運転中の珍しい列車を目当てに多くの鉄道ファンが押し寄せ、駅員の制止もむなしく危険な撮影が行われている様子を収めた動画がSNS上で拡散され、物議を醸した。

殺到するファンと駅員の必死の警告も……ファンは撮影に集中

 動画によれば撮影場所は都内の某駅。鉄道ファンのお目当ては、鮮やかなカナリアイエローをまとった総武線の“新顔”となる試運転列車だった。この車両を一目見ようと、ホームには数え切れないほどの鉄道ファンが密集していた。

 動画からは、現場の異常なほどの緊迫感が伝わってくる。拡声器を持った駅員が「黄色い線の内側まで下がってください!電車進入していますので、黄色い線の内側まで下がってください!」と、必死の警告を鳴り響かせている。

 しかし、ファンの多くは撮影に夢中になり、その制止の声に耳を傾ける様子はない。列車がホームに進入し、すぐ目の前を通過していく最中であっても、ファンたちは少しでもいいアングルを求めてホームに密集し、スマートフォンや一眼レフカメラのレンズを列車に向けた。ホーム柵の間近から線路や列車に向けて両腕をいっぱいに伸ばして撮影をする行為は、一歩間違えれば接触事故につながりかねない、極めて危険なものだ。

撮り鉄への風当たりの強さ、その最大の理由は危険行為

 現在、世間一般からの撮り鉄に対する風当たりは非常に強い。かつては純粋な趣味の1つとして好意的に見られていた側面もあったが、今ではネガティブなイメージが先行しがちだ。その最大の理由は、言うまでもなく一部の者たちによる危険行為と迷惑行為だ。

 とりわけ深刻なのは、自身の命や列車の安全運行に関わる危険行為だ。より良い構図を求め、ホームの端から身を乗り出したり、点字ブロック(黄色い線)の外側にとどまったりする行為は日常茶飯事となっている。中には、ホームドアが設置されていない駅で身を乗り出して列車と接触しそうになるケースや、立ち入り禁止区域である線路内や踏切内に侵入するケースまで報告されている。

JR東日本 撮影マナー
立ち入り禁止区域への侵入やホーム上での危険な撮影行為は鉄道の安全運行を脅かす深刻な問題となっており公式サイト上でもマナー順守に向けた具体的な禁止事項が細かく列挙されている

 さらに、近年はスマートフォンの普及がこの問題に拍車を掛けているとの指摘もある。スマートフォンさえあれば誰でも簡単に撮影・SNSへの投稿ができる手軽さゆえに、安全への意識が希薄なまま撮影に没頭してしまう人々が増加した。撮影に集中して周囲への注意が散漫になり、他の利用客とぶつかったり、通行の妨げになったりするトラブルが絶えない。

 SNS上には、一般の利用者からの悲痛な声や苦言が数多く寄せられている。「電車が遅れている状況で、スマートフォンを持った子どもが黄色い線の外側に出て次々と電車を撮影していて非常に危険だった」「ホームで脚立に乗って撮影している人がいて危ない」といった目撃談は枚挙にいとまがない。また、注意をした一般客に対して撮影者が逆上し、トラブルの末に非常停止ボタンが押されて列車の遅延を招いたという悪質な事例すらある。

 現場で対応にあたる鉄道会社の社員にとっても、事態は深刻を極めている。駅員の指示に従わないばかりか、平然とマイクをスピーカーに近づける「密着録音」を続け、注意されると駅員をにらみつける者もいる。列車の安全運行とダイヤを守らなければならない駅員が、悪質なファンへの対応に追われて疲弊しているのが現状だ。

JR東日本が発出したニュースリリースと本気の注意喚起

 こうした看過できない状況を受け、JR東日本は動いた。2025年12月15日、JR東日本は「危険な録音・撮影行為防止の取り組みについて」と題するニュースリリースを発出した。これは、駅ホーム上での極めて危険な行為に対する強力な注意喚起を目的としたものだ。

 リリースの中でJR東日本は、昨今の駅ホームにおいて録音や撮影に伴う危険な行為が周囲の乗客への迷惑となっているだけでなく、線路や設備への接近による感電や列車との接触の恐れがある非常に危険な行為だと明言している。また、これらの行為が列車の安全な運行にも大きな影響を及ぼすと強調し、全てのお客さまが安全かつ安心して駅をご利用いただけるよう、危険行為の絶無を強く求めた。

JR東日本 ニュースリリース
駅ホーム上での迷惑行為や列車との接触の恐れがある危険行為を防止するためJR東日本はニュースリリースを出し全てに人が安全に利用できるように強いメッセージで注意喚起を行っている

 この取り組みの最大の特徴は、単に「危険行為はやめましょう」と文字で訴えるだけでなく、具体的な迷惑行為を視覚的に、かつ目を引くデザインで表現した点にある。JR東日本は、録音や撮影をする行為を「鳥(撮り、録り)」というキャラクターに置き換えたオリジナルポスターを制作したのだ。

JR東日本 注意喚起ポスター
言葉での注意にとどまらず具体的な迷惑行為をユーモラスかつ鋭い視点でキャラクター化したオリジナルポスターを制作し視覚的なアプローチでホーム上の危険行為絶無を呼びかけている

 ポスターには、「絶対にやめよう、ホーム上での危険な行為(No "Fowl Play" on the Platform)」というキャッチコピーとともに、具体的な迷惑行為を行う鳥たちが描かれている。

 三脚や脚立を使ってホーム上で撮影する「胸立撮り(キャタツドリ)」、長い棒の先にマイクをつけて録音する「長尺録り(チョウジャクドリ)」、ホームから大きく身を乗り出してカメラを構える「乗り出し撮り(ノリダシドリ)」、 点字ブロック上に陣取って一般客の通行を妨げる「妨害撮り(ボウガイドリ)」など、まさに現在駅のホームで問題視されている行為そのものがユーモアを交えつつも鋭い視点でキャラクター化されている。さらに、中央には「危険撮り(キケンドリ)、迷惑録り(メイワクドリ)が増えています!!」と大きく記され、下部には「駅係員への暴力・暴言は絶対におやめください。悪質と判断される行為は、警察と連携し厳正に対処いたします」という強い警告文が添えられている。

 このポスター等を通じた注意喚起は、綿密なスケジュールのもとで展開されている。まず、2025年12月16日からJR東日本管内の主要駅において、デジタルサイネージでの画像掲出および駅構内でのポスター掲出を順次開始。さらに、年が明けた2026年1月19日からは同社公式サイトおよび公式YouTubeチャンネルにて注意喚起の動画を公開し、翌1月20日からはデジタルサイネージや電車内のトレインチャンネルでも期間限定で放映するという、大規模な周知活動となっている。

JR東日本 キャンペーンスケジュール
主要駅でのポスター掲出やデジタルサイネージでの放映だけでなく公式サイトや動画チャンネルも活用し綿密なスケジュールに沿って多角的なメディア展開での周知活動が行われている

JR東日本がここまで大規模なキャンペーンに踏み切った背景

 JR東日本がここまで大規模なキャンペーンに踏み切った背景には、言葉だけの注意ではもはや是正が見込めない層に対する、企業としての最終的な警告という意味合いが含まれているといえるだろう。鉄度を写真や動画に収める行為が他者の安全を脅かし、公共交通機関という社会インフラの正常な運行を妨げるものであっては絶対にならない。

 一部のルールを守らない人々の行動によって、自浄作用が働かなかった結果、自分たちの趣味が制限されることになったと嘆く良識ある鉄道ファンの声もネット上には多く見られる。JR東日本による強いメッセージが、果たして危険な撮影行為を抑止するきっかけとなるのだろうか。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る