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時速500kmのリニア車内で「スマホがつながる」 ドコモやJR東海らが挑む、ミリ波バックホールの車内基地局

時速500kmで走るリニア中央新幹線では、スマートフォンを線路脇の基地局に直接つなぐ方式が成り立たない。JR東海やNTTドコモなど5者は、車内に基地局を置き、先頭車両と地上局を専用の無線回線で結ぶ方式を研究している。

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 10月13日から16日まで幕張メッセで開催中の「CEATEC 2026」。情報通信研究機構(NICT)のブースでは、時速500kmで走るリニア中央新幹線の車内でスマートフォンをつなぐための通信方式が展示されていた。

 車内に携帯電話の基地局を置き、先頭車両と線路脇の地上局を専用の無線回線で結ぶ2段構えの方式で、JR東海やNTTドコモなど5者が2027年度までの3年計画で研究開発を進めている。

中央新幹線の路線図を表示したシミュレーター
ブースのシミュレーターに表示した中央新幹線の路線図。オレンジ色の区間が山梨リニア実験線

 研究開発はNICTの委託研究として2025年度に始まり、現在は2年目に当たる。JR東海が代表を務め、鉄道総合技術研究所、国際電気、NTTドコモ、移動通信基盤整備協会(JMCIA)が参加する。

端末から線路脇に直接つなぐ方式は成り立たない

 現在の新幹線の車内にある通信設備は車内Wi-Fiだけで、乗客のスマートフォンは線路沿いの基地局と直接つながっている。時速500kmのリニアで同じ方式を取ると、トンネル内の線路脇に基地局を置いても数秒から十数秒ごとにハンドオーバーが発生し、切り替えている時間の方が長くなる。

 車両とすれ違う際のドップラー効果による周波数のずれも速度に比例して大きくなり、スループットが大きく落ちる。このため、端末を線路脇の基地局に直接つなぐ方式は不可能と判断し、車内の基地局と地上を結ぶバックホール回線を別に設ける構成を選んだ。

 新しい方式では、先頭車両に車上局のアンテナを置き、線路脇の地上局との間を独自方式の無線バックホールで結ぶ。周波数は帯域幅を確保しやすい20GHz帯のミリ波を使う。車内の約1000ユーザーがそれぞれ約5Mbpsで同時に通信できるよう、地上局と車上局の間で計5Gbpsを確保するのが目標だ。

研究で目指す車内通信のイメージ図
研究で目指す姿。車内に基地局を置き、地上局と車両を時速500km対応の無線バックホールで結ぶ

 車内に置く基地局は携帯電話事業者4社で共用し、どの事業者のスマートフォンでもつながるようにする。車内のエリア化には、28GHz帯の誘電体導波路を使う方式を検討している。車内に通した導波路の任意の位置に放射部を設けて座席の列ごとに電波を届けるもので、座席や乗客で電波が遮られてもエリアを作れる。ブースでは、開発中のシミュレーターで車内の受信レベルを可視化して見せていた。

隣の車両の座席でのスループット
基地局のない隣の車両の座席では、十分な電力が得られずスループットがほとんど出ない(シミュレーション)
誘電体導波路がある場合の隣の車両のスループット
誘電体導波路を通すと、隣の車両でもスループットが得られる(シミュレーション)

トンネル内の反射波でアンテナを増やしても容量が伸びない

 バックホールの開発では、専用の無線機の他、周波数のずれをリアルタイムに補正する技術、複数のアンテナで容量を増やす技術、地上局間を途切れずにハンドオーバーする技術に取り組んでいる。トンネル内では電波が何度も反射して受信電力が激しく変動するため、1年目はこの伝搬特性の調査から始めた。

研究で解決する課題のイメージ図
研究で解決する課題。次の地上局への瞬時の切り替えや、周波数のずれのリアルタイム補正、トンネル内の反射波の影響の低減などを示す
トンネル内で地上局を切り替える様子
トンネル内で切り替え先の地上局が見通せなくなると、スループットが落ちる(シミュレーション)

 トンネル内では、アンテナの数を増やしても通信容量が伸びにくい。さまざまな方向から異なる電波が届く環境ではアンテナを増やすほど容量が伸びるが、似た電波が大量に反射して届く環境では、増やした分の効果がすぐに頭打ちになる。地上局のアンテナを置ける場所も、線路脇の限られた位置しかない。

品川駅付近の地上局の配置
品川駅付近の拡大表示。線路沿いに並ぶ点が地上局で、走行に合わせて次の地上局に切り替える

車内の基地局はGPSで時刻を合わせられない

 車内に基地局を置く方式は、世界的にもまだ実装例が少ない。通常の基地局は鉄塔に固定され、GPSの信号で時刻を合わせてネットワークと同期している。車内の基地局はトンネルの中を一定ではない速度で移動するため、GPSに頼れず、車両の位置に合わせてネットワーク側で同期を取る仕組みが要る。

 車両には装置を置くスペースが限られている点も課題だ。欧米の高速鉄道は平原を走るため、中間車両の屋上に装置を置けるが、リニアはトンネル区間が多く、車両とトンネルの壁の距離も近いため、車外に大型の装置を置けない。運転手が乗らずに遠隔で制御するので、使えるのは運転席に相当するわずかなスペースだ。

トンネル内を走る車両の先頭から見たシミュレーター画面
トンネル内を走る車両の先頭から見たシミュレーター画面

 コアネットワーク側の装置までラックごと車両に載せられれば、地上のネットワークとの同期をそれほど意識せずに済む。ただ、リニアの車両は軽量化を進めて車内の空間を確保しており、そこを通信装置で埋めるわけにはいかない。

山梨リニア実験線でJR東海の実験車両を使って検証

 3年計画のうち、2年目の2026年度は通信方式の策定と検証機の開発を進め、3年目に実環境で検証する。実証試験は山梨リニア実験線でJR東海の実験車両を使う。現在は実験線に停車させた車両で模擬した環境の実験を進めており、時速500kmで走行中の実験は2027年を目指している。

3年間の研究計画のイメージ図
3年間の研究計画。1年目に伝搬調査、2年目に通信方式の策定と検証機の開発、3年目に実環境で検証する

 研究の成果がそのままリニアの車内に入るわけではなく、実用化の方法はJR東海などが改めて検討する。NTTドコモは、移動する基地局の同期などの課題が解決できれば、既存の新幹線にも技術を転用できる可能性があるとみている。検討した方式は、同社が取り組む6Gの標準化にも反映させたい考えだ。

 社会実装に向けて、NICTの社会実装支援チームは、この技術を使った車内サービスを一緒に検討する企業を募っている。対象は動画やライブ配信のコンテンツ配信事業者、オンライン会議などビジネス向けサービスのIT・クラウド事業者、キャラクターやスポーツなどのIPホルダー、時速500kmの環境で次世代デバイスを評価したいハードウェアメーカーなどを想定しており、サービス実現が期待される。

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