News 2001年5月29日 09:35 PM 更新

東京めたりっく通信の経営危機,原因は“貸し渋り”?

5月29日付けの朝日新聞で「経営危機」を伝えられた東京めたりっく通信。資金繰りがうまくまわらなくなった背景には,銀行の貸し渋りとITバブルの崩壊があった?

 ADSL事業者のパイオニア,東京めたりっく通信が資金繰りに行き詰まり,窮地に陥っている(別記事を参照)。東京都内を中心に約2万5000人のユーザーを抱える同社は,「今後もサービスを継続して提供していく」(東京めたりっく通信)ことを強調しているが,その状況は決して楽観できるものではないようだ。

 東京めたりっく通信の資金繰りがうまくまわらなくなった背景には,いくつかの理由がある。もともと莫大な初期投資を必要とするアクセス回線事業では,将来性を武器に出資を募り,それを元手にサービスを拡大していくしかない。同社も昨年までは潤沢に資金を確保していたが,雲行きが怪しくなったのは2001年の資金調達計画から。

 同社の計画では,年初に日本政策投資銀行から融資を受け,4月にはIPO(株式公開)を果たして資金を調達する予定だった。しかし,毎月1億〜1億5000万の赤字を出し続ける同社に対して銀行側が融資計画を撤回,さらにITバブル崩壊の余波でIPOも先延ばしせざるを得なくなった。3月に入って既存株主に対する21億5600万円の割当増資を行い,当面の運用資金は得たものの,既に累積赤字は40億円に上っている。その結果,来月には資金が尽きるという状況になってしまった。

 「問題は資金調達だけだ。6月中に第3者割当増資を行う予定であり,大手ISPを含むメガキャリアや商社などと交渉に入っている」(東京めたりっく通信)。これに伴い,同社は既に,派遣社員を中心とした人員の削減,オフィスの統廃合を含むコスト削減,そしてSDSLなど法人向けサービスへの注力によるビジネスの高付加価値化といった経営合理化策を提示している。

自力再建か? 身売りか?

 出資者が見つかれば,自力再建の道はそれほど険しくはない。東京めたりっく通信には,5〜6月を乗り切れば損益分岐点となる“5万ユーザー”に達し,単月黒字化できるという見通しがあるためだ。「ユーザー数は,4月末の実数で2万5329件。5月中には3万件を超える。このペースで行けば,6〜7月には5万件を突破できるだろう」(同社)。

 しかし,問題は出資者が出てこなかったケースだ。その場合は,「営業権の譲渡についても,選択肢の1つとして検討中だ」(同社)という。

 ブロードバンドインフラを専門に調査しているDSEマーケティング研究所の根本昌彦ディレクターは,これを“楽観視できない状況”と指摘する。「一連の報道によって東京めたりっく通信のブランド力に傷が付き,計画通りにはユーザー数が伸びない可能性がある」(根本氏)。また,出資者についても予想することが難しい。例えば,増資の引き受け先候補として東京めたりっく通信が挙げたISPは,「常時接続にシフトしているものの,自社(関連会社含む)で回線を持つことはサービスを展開する上で不利になる可能性がある」(根本氏)からだ。

 ISPの場合,自社で回線を賄えば,他回線事業者との競合関係になる。地域カバー率を重視するISPでは,広くパートナーを募ったほうが効率よくエリアを広げることができる。「あえて候補を挙げるとすれば,ほかのアクセス回線事業者やデータセンター事業者だろうか」(根本氏)。

他社にも影響?

 「インフラは儲からない」というのは,通信業界の通説だ。とくに,ADSLのような新しいコンシューマー向けインフラ事業は,莫大な初期投資を必要とする反面,価格競争にさらされやすい。潤沢な資金と複合的なサービス展開を伴わなければ,利益を出す前に苦しくなるのが当然といわれる。東京めたりっく通信の窮状は,図らずも,これを裏付ける結果となってしまった。しかし同時に,インフラ事業で40億円程度の赤字はごく当たり前のもの。その将来性を考えると,金融機関が融資を渋った理由は理解できない。

 「ADSLは,あくまでもFTTHまでの過渡的なインフラだ。しかし,中期的には一時代を築くものであり,事業者の統廃合を伴うような動きはまだ先と考えていた。予想より早い動きは,ほかの通信ベンチャー(の資金繰り)にも影響する可能性がある」(根本氏)。

関連記事
▼ 東京めたりっく通信,経営危機報道に対して公式コメント
▼ 東京めたりっくが経営危機,営業権全面譲渡も──朝日
▼ 東京めたりっく通信,KDDI「ブロードバンドDION」にADSL回線を提供
▼ 東京めたりっく,約22億円の株主割当増資
▼ 東京めたりっく通信の新サービス「meta+」とは?
▼ 東京めたりっく通信,下り最大3MbpsのADSLメニューを3月に投入
▼ 東京めたりっく通信,バックオーダー解消に意欲
▼ 21世紀に間に合った快適なメガビット環境
▼ ADSL導入! で,雑音に悩まされる
▼ 東京めたりっく通信,横浜に進出
▼ 東京めたりっく通信が50億円を調達,サービス地域を拡大へ
▼ 東京めたりっく通信,10億円の第三者割当増資
▼ 東京めたりっく通信,NTTとの交渉継続を強調
▼ 敵はNTTとISDN!? 東京めたりっく通信など3社がxDSLによる高速インターネット通信の商用試験サービスを11月に開始
▼ 東京めたりっく通信がDSLサービスの詳細を発表,640Kbpsで5500円から

関連リンク
▼ 東京めたりっく通信

[芹澤隆徳, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.