スカパー!携帯向けドラマ配信に秘められた「狙い」(2/2 ページ)
マルチウインドウリリース戦略の考え方に立てば、このスカパー!独自のコンテンツは、ファーストランの後に、DVD等へのパッケージ化、ブロードバンドでのオンデマンド、ペイ・パー・ビューによる放送、ペイテレビによる放送などを経て、その最後の段階でフリーテレビである民放系BSデジタルや地上波放送で流されることになる。
こうしたマルチウインドウ戦略を採るにあたって、携帯電話端末向けに放送系の映像コンテンツが流されるということは、既に視野に入ってきた話である。とすれば、携帯電話が新たなウインドウとして登場してくることは間違いない。今回のスカパー!のやり方は、そうした構図を形成していくための一つの試みとして、携帯電話での視聴をファーストランに置いたということなのである。
これまでコンテンツ制作の大半を地上波放送局系が担ってきた経緯から、どうしても伝送路の側からコンテンツを見てしまう傾向にある。だが、コンテンツの側からウインドウ展開を考え、その性格に応じて流していく伝送路を決めていく――という方向転換が図られるべき時に来ているとも言えるだろう。
例えば、「横浜エイティーズ」の携帯からの見せ方が、1回当たり約2分半にまとめられているのは、携帯キャリア側のサーバにコンテンツを送っておいて、視聴者がオンデマンドで見るという仕組みになっているため、容量的に1回当たり2分半程度が限度であるという事情がある。それに加えて、一般的に携帯で映像コンテンツを楽しむのは、ちょっと時間を持て余した時などが中心になるだろうから、2分半程度が手頃だろうとの判断もあるようだ。
確かに、携帯で2時間ドラマを見る人はいないだろうし、仮にパソコンからIPベースの映像コンテンツを見るにしても、2時間となると現状では辛いだろう。携帯の使われ方を見ている限りでは、ちょっとした合間に2分半くらいの作品を見られれば十分だろう。
電車の中で10分、20分とメールのやり取りをしている人は珍しくない。相手に何かメッセージを伝えたいとか、何かのメッセージを受け取っている時間としてなら、それくらいは平気であろう。ただ、映像コンテンツを見るということになると、それはテレビ視聴スタイルの特徴である受身型になるため、それほど長く見続けていられるものではない。ゲームなどアクティブに対応していく典型的な携帯コンテンツとはその点が違う。
それでも、結果的には「オンデマンド視聴」であることには違いない。今回のスカパー!の試みは、携帯電話によるVODの走りと言っても過言ではないのだ。それゆえ、実際にどれだけの人が見たのかや、同時期にどれだけの人がアクセスしたのかといったデータが得られれば、それだけでも大変価値のある試みと言えるだろう。いったいどれぐらいのサーバ容量が必要になるのかも明らかになるはずだ。
ウインドウ対応の新たな考え方
マルチウインドウリリース戦略は「米国型」が模範形として語られることが多いが、この“元祖”は、「早く見たい人はそれだけ多くのお金を払わなければいけない」という考え方に基づいている。言い方によっては、上手に出し惜しみをしていきながら、お金を払ってもらい、無料で見られる地上波放送は最後にくるようにして、収益性を高めようというモデルである。
今回の「横浜エイティーズ」の場合には逆の考え方が採られている。すなわち、携帯電話の保有率は非常に高いけれども、やはり携帯でドラマを見る人がそうたくさんいるとは考えられない。むしろ、そうした接触率の低さを前提としながら、もしも、そこで話題になるようなことがあれば、それこそ、ブロードバンドや、2時間版のVOD、パッケージとしてのDVD、ペイテレビとマルチユースは進めやすくなる。
今や話題の韓国ドラマも、日本でのファーストランはスカパー!の中でもわずか数千という契約者しかいないチャンネルであった。それが、多メディア展開をしていく中で、NHKが放送することによって大ブレイクしたわけである。
どこから出せば話題になるのかを予想するのは難しいが、最初は接触率の低いウインドウから出すというのも、立派な“日本版マルチウインドウリリース戦略”と言える。無料で見られる地上波放送の視聴シェアが非常に高いという、日本の放送産業の特徴を生かしたものだからだ。
ポイントは、あくまでもコンテンツの特性を踏まえた上で、ファーストランのウインドウを決めていくことが肝要になってきているということである。「伝送路」から物を見るのではなく、「コンテンツ」の側から物を見るべきだという主張は、こうした点でも重要なファクターになるだろう。
スカパー!のコンテンツ戦略の眼目もそこにある。携帯をファーストランのウインドウとし、その後は2時間ドラマとして再編集してマルチユースを図っていく。どういうコンテンツであれば、どこから出していくのが良いのかを見極めていくためにも、こうした試みがいろいろとなされることには大きな意義が見出せるのではないだろうか。
西正氏は放送・通信関係のコンサルタント。銀行系シンクタンク・日本総研メディア研究センター所長を経て、(株)オフィスNを起業独立。独自の視点から放送・通信業界を鋭く斬りとり、さまざまな媒体で情報発信を行っている。近著に、「モバイル放送の挑戦」(インターフィールド)、「放送業界大再編」(日刊工業新聞社)、「どうなる業界再編!放送vs通信vs電力」(日経BP社)、「メディアの黙示録」(角川書店)。
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