小寺信良
神々の失墜、崩壊するコピーワンス(2/3 ページ)
全体的に昨年末から活発化したコピーワンス緩和への動きは止まっていないが、今回の情報通信審議会の答申は、コピーワンスに代わってEPN方式で検討せよ、と具体的に一歩踏み込んだ点で、画期的だと言える。このような結果を招いたのは、そもそもコピーワンス導入の経緯が不透明な放送業界に対する不信感に端を発する。
コピーワンスはARIBの運用規定であるTR-B14,15に記載されているが、このTRとはそもそも、「ただの技術資料」でしかない。ARIBの本業はARIB標準規格(STD)を策定することにあり、この策定には利用者や事業者など利害関係者からなる規格会議の総意を得なければならない。コピーワンスはこの総意を得ず、単なる資料としてねじ込まれているのである。
工業的な標準規格であれば普通の人にはほとんど関係がないが、放送の運用という多大な人間に対して利益不利益を生じることが、単なる資料で決まっていいわけはない。民間でいろんなことを自主的に決めていくことは結構だが、さすがにここまで好き勝手にやられると、総務省もキレるわけである。
EPNとは何か
ここで言われているEPNという方式について、もう一度おさらいしておこう。これは基本的にこれまで行なわれていた暗号化技術には変わりないのだが、その使い方が異なる。
まず現在のデジタル放送がどうなっているかというと、電波に乗ったコンテンツはCOG(Copy One Generation、いわゆるコピーワンス)として暗号化されている。録画機はこのCOGコンテンツを、NMC(No More Copies、コピー不可)コンテンツとして記録する。コピーすなわち複製はできないわけであるから、別のメディアへは移動、つまりムーブとなるわけである。
EPN方式では、放送局からの電波に乗ったコンテンツは、EPNによる暗号化で送信されてくる。録画機はこれをそのまま録画し、コピーする際もこのEPNによる暗号化のままでデジタルコピーできる。数には制限はない。ただEPNの暗号化を解くための鍵を、再生するデバイス側に持たせるというわけである。つまりコピー行為そのものを禁止するのではなく、違法入手したコンテンツの再生、言い換えれば出力を禁止するわけだ。
これまでのデジタル放送では、HDDに録画したコンテンツをムーブしようとして失敗すると、HDDからは消えちゃうわメディアは再生できないわで、非常に危ない橋を渡っていたわけである。またポータブルプレーヤーで再生するためのコピーができなかったり、できたとしてもSD解像度以下に変換されたら、元のHDコンテンツは消さなければならなかった。EPN方式はこれらの不満点を解消する手段として、実際に機器を作る立場であるJEITAが提案したわけである。
一方で放送局側は、事実上コピーフリーになれば権利者の理解が得られずコンテンツの調達が難しくなるとして、EPN方式に反対の意思を表明していた。またネットワークへの流出がEPNで防げるかということにも懐疑的だった。代わって放送局側が提案した案は、ハードディスク内にムーブ用のバックアップを保存することを許して、基本的には現状と同じムーブでお願い、というものであった。
ムーブに失敗した場合は、もう一度だけバックアップからムーブすることが可能だが、バックアップを使ってムーブしてしまうと、バックアップ側は消える。また同解像度であるDVD用と、低解像度であるメモリーカード用にそれぞれバックアップを用意するというプランも持ち出してきた。これをやるには、現状の運用規定であるARIB TR-B14,15を改定しなければならないが、それをやってもいい、とまで言い出した。
とは言え、元々ただの技術資料にすぎない規定など、改定することはたやすい。困るのは、それを基準に物を作っているメーカーで、それを実装するのは、エラく面倒である。1回の録画で2種類の解像度データを持たせたあげく、それぞれにバックアップを持たせるわけだ。当然データの取り扱いの手間が増えるだけで、メーカー側にメリットは何もない。一方消費者の立場から見てもこの方式は、結局ムーブ失敗を1回だけカバーするに過ぎず、今後現われるであろう様々な視聴パターンに対しての将来性が見えない。
総務省としては、デジタル放送への完全移行が大命題である。思ったよりもデジタル放送への移行が進んでいないのは、デジタル放送が知られていないから、というのが去年までの論理であった。だが告知やキャンペーンをあれだけ行なっても、一向に促進される手応えがない。ムーブに失敗するとかも含めて、コンテンツの利便性がアナログよりも劣るのであれば、デジタル放送への移行は必要ないと考える消費者が増えてきていることに気付いたわけである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
陸自が「イオンモール熊本」内部をドローン撮影 防衛省が映像公開
-
2
PayPayアプリで熊本地震への寄付が可能に 最短3ステップ・1円から
-
3
「Xが情報収集に役立たない……」熊本地震で不満の声続出 「Twitterを返して」
-
4
熊本「通れた道」マップ、トヨタが公開 ホンダも「通行実績情報マップ」
-
5
TSMC熊本工場、段階的に通常操業へ 熊本の地震で一時中断、従業員の無事確認 台湾報道
-
6
熊本で非常時Wi-Fi「00000JAPAN」発動中 KDDIが無料開放、他社ユーザーも利用可
-
7
「痺れるほどにミスを繰り返す」Gemini 3.6 Flashは変わった? 公開から1週間、当初のおバカ回答を今検証する
-
8
農水省の“クソダサ”ポスター話題 「AIよりよっぽど良い」の声も 担当者に狙いを聞いた
-
9
Anthropicのミュトス、暗号アルゴリズムの新たな攻撃法を発見――耐量子署名「HAWK」の強度を半減
-
10
“脳のゴミ”は鼻から捨てられていた? 老化で詰まる排出路、薬を鼻から投与で改善 韓国主導チーム研究
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR