山本浩司の「アレを観るならぜひコレで!」Vol.34
“フィルムルック”を追求したビクター「DLA-HD750」でみる「ラスト、コーション」のつや(2/2 ページ)
映画の色が違って見える
実際にさまざまな映画ソースをこの「シネマ1」でみてみたが、その映像は、驚きに満ちた鮮烈なものだった。これまで見慣れていた映画の色がことごとく違って見えるのである。とくに視感上の色輪郭のキレが抜群で、例えば映画BD「ボルベール」の、これまで見えなかった赤いバッグに描かれた細かな模様がフッと浮き上がってくるのを目撃して、ぼくは本機の購入を決めたのだった。
中間調を立てた、フィルムのS字カーブを手本に最適化したガンマカーブの設定も興味深い。「シネマ1」で見ると、女優さんの肌のディティールがじつにきめ細かく描かれ、表情の変化がよく分かる。それゆえ心理劇としての映画の面白さがひときわ強調されるようになるのである。これは、HD750専用に新たに開発された、ED(低分散)レンズを含む17枚構成の2倍ズーム・オールカラーレンズの高性能も、おおいに寄与しているに違いない。映像のフォーカス感、シャープネスは明らかにソニーのVPL-VW200をしのいでいる。
なお、本機には「シネマ1」のほかに「シネマ2」「THX」「ステージ」といった映像モードが用意されている。
「シネマ2」は、前作DLA-HD100の「シネマ」のチューニングをほぼ踏襲したモード。「シネマ1」に比べると穏やかな画調で、女優さんのスキントーンもほんのりとピンクがさす美人画風だ。
「THX」は、ルーカスフィルム傘下のTHX社が定めたディスプレイ規格にそった映像モードである。目標とするのは、テレシネ(フィルム/ビデオ変換)現場のマスターモニターの画質。それゆえガンマ特性は基準の2.2乗カーブを、色温度はD65(6500ケルビン)を全輝度領域で完璧にトレースするように義務づけられている。以前見たときはまだ完成度が低く、画質が追い込みきれていなかったが、さすがに入手した最終製品はこのモードの出来もよく、確かにマスターモニターを思わせる、冷厳な辛口の画質である。
「ステージ」は、ビデオ収録作品の音楽ライブ作品などに最適な画質を提供するモードだ。ハイライトがよく伸びた、キレのよい映像で、ニューヨーク“ビーコンシアター”で収録したローリング・ストーンズのライブ映画「SHINE A LIGHT」の米国盤BDなど、目の覚めるようなフレッシュな映像を見せてくれる。
そんなわけで、本機はフィルムルックの魅力に迫った「シネマ1」だけでなく、さまざまな映像モードでその高画質が楽しめる。プロジェクターの映像をどう見せればよいかを研究し尽くした、ビクター開発陣の実力をまざまざと見せつける製品といってもいいだろう。
気づかなかった照明の妙
さて、実際に映画ソースで、驚きに満ちた色を見せるDLA-HD750だが、「シネマ1」でみる「ラスト、コーション」のBD ROMがじつに素晴らしかったので、最後に触れておきたい。
「ラスト、コーション」は、カウボーイの同性愛を描いた「ブロークバック・マウンテン」でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞、アカデミー賞監督賞を獲得した台湾出身のアン・リー監督の作品。抗日組織の中国人女子大生(タン・ウェイ)が、抗日組織を弾圧する傀儡政権の秘密警察のトップ(トニー・レオン)に近づき、誘惑し、暗殺を企てるものの、肌を重ねるうちに心が通じ合い……という内容で、トニー・レオンとタン・ウェイの、息詰まるような激しい情交シーンが大きな話題を呼んだ。征服と服従、そして抵抗という多重構造の中で繰り広げられる官能がじつに刺激的で、見応えのある作品だ。
DLA-HD750の「シネマ1」でみるその官能表現がじつに素晴らしい。計算し尽くされたライティングによって明らかにされる光線の複雑な綾が浮き彫りにされるそのスリル。「シネマ1」の色輪郭のキレのよさが、これまで気づかなかった照明の妙を明らかにしてくれるのである。
繰り返し登場する、上流婦人たちがさんざめきながら麻雀をするシーンの美しさにも息をのむ。暖色の照り返しによって形成される陰影のグラデーション、婦人たちのふくよかな顔だちを立体的に見せる絶妙な肌色描写、上流社会の象徴ともいうべき鮮やかなチャイナドレスのつややかさ。すべてに映画の魔法が閉じ込められているような美しさだ。
神は細部に宿るというが、DLA-HD750のような優れたプロジェクターで、とびきり高画質なBD ROMをみていると、時間が止まり、その映画世界にはまり込んで抜け出せなくなるような感覚を味わう。しばらくは、映画の神様が届けてくれたこのプロジェクターで、どっぷりと映画に浸りたいと思う。
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