山形豪・自然写真撮影紀
自然写真のフィールドで遭遇する危険
アフリカの野生環境をフィールドワークの場としていて、危険な目にあったりはしないのかという質問を良く受ける。確かに、アフリカのブッシュには人間に危害を加え得る野生生物達が数多く生息しており、トラブルも皆無ではない。そこで今回はフィールドで出くわす危険動物について書いてみよう。
さて、アフリカのサバンナで最も危険な動物は何かといえば、それはライオンでもヒョウでもハイエナでもなく、カバである。意外に思われるかもしれないが、あの一見おとなしそうな草食動物は、縄張り意識が非常に強くとても凶暴だ。アフリカの大型哺乳類の中で、毎年最も多くの人命を奪っているのはカバなのだ。
いかにしてカバが人を襲うかというと、巨大な牙の生えた大きな口でかみつくというからたまらない。しかも、地上では時速30キロを優に越えるスピードで走る能力を持っているので、人間の足で逃げ切るのはほぼ不可能。かく言う私も、ナミビアで一度カバに襲われた経験がある。幸いその時は相手が水の中に留まり、陸上までは追ってこなかったので事なきを得たが、陸の上で怒ったカバに遭遇していたら今頃私はこの世にいないだろう。
それにしても想像するからにカッコ悪い死に方である。新聞の見出しに「邦人男性、アフリカでカバにかまれて死亡」などと書かれるのだけは避けたいものだ……。ちなみに、バッファローやアフリカゾウも気性が荒く注意を要する場合がある。
そんな恐ろしい動物がうじゃうじゃいる場所に、何で好き好んで行くのだという声が聞こえてきそうだが、実は人間が動物に襲われるケースの大半は、人間の側に過失がある。つまり人間が相手に不用意に接近しすぎたために起こる事故なのだ。
そもそも野生動物は、ヒトのように悪意を持って他者へ危害を加えたりはしないし、何の前触れもなく攻撃してくる例もほとんどない。わたしたちが動物達を恐れる以上に動物達は我々を恐れているからだ。彼らにしたところで、余計なリスクは負いたくないわけで、「攻撃」はあくまで「防衛」のための最終手段なのである。そのためほとんどの種が直接行動に出る前に、「それ以上近づいたら攻撃するぞ」という意味の威嚇をしてくれる。
例えば、カバなら目を見開いてすさまじいうなり声を上げるし、ゾウは耳を大きくバタつかせながら首を左右に振る。コブラが鎌首をもたげてフードを広げるのもそのためだ。この時点で相手の要求に応えて後退すれば危険は回避できるわけだ。しかし警告に気付かなかったり、気付いていても写真を撮りたいという欲求が危機意識を上回ってしまうと私のような目にあうか、最悪の場合のケースも考えられる。
ただし、これはあくまでも相手の行動が自己防衛を目的としている場合であって、捕食が目的となれば話が違ってくる。ライオンやヒョウが好んで人間を食うケースはあまり無いが、注意が必要だと言われるのがワニだ。
この体長数メートルに達する巨大は虫類は、チャンスがあれば人間でもためらいを見せずに襲いかかってくる。しかも、アフリカの東部から南部にかけては、ワニがウヨウヨしている大型河川が多い。彼らは優秀なハンターであり、水中から獲物に忍び寄るのがとても上手いので、毎年多くの漁民が犠牲になっている。
とは言え、それは水辺に一年中住んでいる人たちの話であって、我々外国人がサファリツアーでアフリカを訪れる場合とは訳が違う。ましてサファリでは、動物の観察はほとんど車やボートから行われるし、ガイドも付いているのでワニに襲われることはない。ごくまれにバカな観光客が、周囲の警告を無視して水に入り、ワニに襲われるという「事故」も発生してはいるが……。
著者プロフィール
山形豪(やまがた ごう) 1974年、群馬県生まれ。少年時代を中米グアテマラ、西アフリカのブルキナファソ、トーゴで過ごす。国際基督教大学高校を卒業後、東アフリカのタンザニアに渡り自然写真を撮り始める。イギリス、イーストアングリア大学開発学部卒業。帰国後、フリーの写真家となる。以来、南部アフリカやインドで野生動物、風景、人物など多彩な被写体を追い続けながら、サファリツアーの撮影ガイドとしても活動している。オフィシャルサイトはGoYamagata.comこちら
【お知らせ】山形氏の新著として、地球の歩き方GemStoneシリーズから「南アフリカ自然紀行・野生動物とサファリの魅力」と題したガイドブックが出版されました。南アフリカの自然を紹介する、写真中心のビジュアルガイドです(ダイヤモンド社刊)
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