山形豪・自然写真撮影紀
数万枚の中から写真をセレクトする、という厄介事
アフリカのフィールドに出ているときは、ひたすら動物たちを追い求め、少しでも琴線に触れた場面に対しては無我夢中でカメラを向けている。ファインダーをのぞいて構図を決め、ピントを合わせたら、大抵は高速で連写を繰り返す。動物のアクションシーンを撮ろうとすると、シャッターを一回切っただけで思い通りの結果が出ることはまずないからだ。
例えば、走りながら時折ジャンプを繰り返すインパラが、放物線の頂点に至った瞬間を撮りたいとする。光線や相手の走る向きなどの諸条件が全てそろったとして、シャッターを一回だけ切って思い通りの結果を得るのは、不可能ではないにしろ、成功率の観点から見るとあまり現実的な選択ではない。相手をファインダーに捕らえ続けながら連写を続け、あとは運を天に任せるほうが確実だ。飛び立つ鳥の、羽を目いっぱい広げた瞬間を狙う時なども同様だ。
ハイエンド一眼レフボディと高速メモリーカードの組み合わせがあれば、秒間10コマ以上の連写速度で、ピント合わせをカメラに任せたまま、十数秒間シャッターを切り続けられる。手でピントを合わせ、ワンカットごとにフィルムを巻き上げて、一撃必中の決定的瞬間を狙っていたロバート・キャパやアンリ・カルティエ・ブレッソンの時代とはいささか状況が異なり、アクションシーンの撮影成功率は格段に向上した。
しかし、撮影が手軽になった事実を手放しで喜ぶわけにもいかない。技術の進歩がもたらした撮影手法の変革は、ある程度練習すれば誰にでもそれなりの写真が撮れる可能性をくれた一方で、同じ場面の写真を大量生産するという弊害も生んでいるのだ。先述のインパラにしたところで、走り始めから一連の動作を全て撮り続けると、同一場面の連続写真が数十枚生まれる。
さらに私の場合、撮影の時点では写真を後でどう使うかについてまったく考えない。そもそも日本において野生動物写真は、報道/商業写真のように特定のマーケットを持たないため、売り込み先だとか使用目的を想定した撮影をすることは極めてまれなのだ(写真集等を作ることがあらかじめ決まっている場合はその限りではないが)。故に先のことは一切考慮せず、その時々のフィーリングに任せてシャッターを切りまくってしまう。結果として、数週間のフィールドワークから持ち帰る画像点数が万単位というのも珍しくない。
そして帰国後、残すものといらないものとをより分ける“セレクト”という、気の遠くなるような作業が待ち構えている。これが厄介だ。自宅のPCに向かってまず行うのは、ボツ写真の削除(ボツ抜き)だ。ピント位置がずれているもの、ブレてしまっているものなどを捨ててゆく。これがかなりの時間を要するし、長時間モニターとにらめっこをしながら、似たような写真の羅列を前にしていると、しまいに頭が混乱して正常な判断ができなくなってくる。
しかもボツ抜きをする際の最初の基準を、ピントが合っているかどうかという一点にのみ置いてしまって果たしてよいのかという疑問もつきまとう。これは、一体何をもって写真の良しあしを判断するべきかという、極めて重要かつ難解なテーマに絡んでくる。完全に被写体がぼけてしまっていて、ワケが分からないものは別にしても、「ちょっとピンボケ」でも力を持ったよい写真が存在することは、偉大な先人たちが散々証明しているところだ。
まして機材の持つ解像感が限界まで出ている写真をピントが合っているものとして定義した場合、ニコンD810で手持ち撮影をした写真はほとんどがボツということになってしまう。あのような超高画素機で最高解像度を引き出そうと思ったら、大型三脚に据えてシノゴ(4×5判カメラ)並みの扱いをしなければならないからだ。従って、私はセレクトの際にシフトボタンを押したまま(画像を等倍表示したまま)スクロールして画像を削除するという手法には反対の立場をとっている。ものすごく力のある写真をピントが合っていないという理由だけで削除してしまう可能性を否定できないからだ。
では、よい写真、力のある写真とは何か? 第一印象だったり、構図の美しさだったり、基準はさまざま存在すると思う。結局のところセレクトは、写真の持つ“総合力”のようなものに目を向けて判断せねばならないような気がするのだが、これがまた実に難しい。何がよくて何が悪いか、何がきれいで何がそうでないかなど、あくまで個人の主観でしかないからだ。しかも、この美的感覚や審美眼に基づいた選択の結果は、同じ人間ですらその時々の感情や体調などにも左右されてしまうリスクをはらんでいる。
客観的にセレクトを行うなら、その作業は撮影者が行うべきではないという意見もある。撮影者自身が選ぶと、どうしても撮影時の感情やこだわりが割り込んできてしまうからだ。私の経験では、撮影直後に行ったセレクトと、撮影から数カ月あるいは数年たち、ある程度中身を忘れた頃に行ったセレクトとでは、結果がまったく違うことがよくある。
最終的な写真の用途が何であるかによっても残すべきもの、必要なものの基準が変わる。例えば、フォトライブラリー向けのストック写真としてならば、画面の中に文章を入れるスペースがあるものが“よい写真”または“使いやすい写真”となるが、写真展用の作品としては、これは画面上に余分なスペースがあるよくない写真という判断につながるかもしれない。さらに、トリミングすれば使える“素材”としての有用性を持った写真も存在する。JPEG撮りっぱなしではなく、レタッチを前提としたRAW撮影を行っている場合、レタッチや調整を加えた後の完成形をイメージしながら選ぶ必要もある。
一口にセレクトと言っても、さまざまな基準が存在するため、一筋縄ではいかないし、目を通さねばならないカット数が多ければ多いほど悩みの種も増える。フィールドで写真を撮っている間は楽しくて仕方ないのだが、HDDに溜め込んだデータのサイズと枚数を見た瞬間にいつもどっと疲れが出る。まあ、撮り過ぎは単なる自業自得なのであって、やはり1枚1枚を大事に、かつ気合いを入れて、一発で決めるつもりでシャッターは切るべきなのかもしれないが、チャンスを逃したくないという意識も働くので、撮影枚数が減ることは当面なさそうだし、セレクトをする上でのよい解決策も見つかってはいない……。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
2
Anthropic、「Claude Opus 5」公開 Fable 5に迫る性能を半額で――サイバー安全策は緩和、拒否時は自動フォールバックも
-
3
「iPhone高騰」はこれからも続く? 中国CXMTに近づくApple、メモリ競合へのけん制が不発に終わりそうなワケ【後編】
-
4
「ニューロマンサー」実写ドラマ、Apple TV+で2027年1月配信開始へ
-
5
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
6
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
7
海外の新作バカゲー「電車アタック」にマンガ家が感心した理由 ブッ飛んだ内容と完成度の高さ、そして“日本”
-
8
「めっちゃカメレオン」公式Discord乗っ取り 担当者PCがマルウェア感染、管理者が全員BANに 現在は復旧
-
9
暑さ対策が熱い! 「猛暑対策展」で感じた、転んでもただでは起き上がらない日本人のエネルギー
-
10
スーパーに並んだ「ごちゃごちゃ生成AIポップ」が物議 “看板王”こと、きぬた歯科院長「これはアリ」
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR