麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」
放送を殺す「4K放送コピー禁止」の危険性(5/5 ページ)
麻倉氏:複数の関係者の話を総合すると、今回の話に至ったのは 1)私的録音録画補償金制度が裁判で敗訴となり、録画機や録画メティアからの収入源が完全に断たれ、補償金が入らなくなった(今回の録画禁止の提案は、民放連、日本映画製作者連盟、日本音楽事業者協会の3者連名である)。 2)これまで電機メーカーとの間で、CMスキップなどの問題でもめていたが、「ユーザーの利便性」のもとにいつも押し切られていて悔しいという思いがある。 3)今回、とにかく「録画禁止」の運用をメニューだけに入れたい。使う権利をとっておきたい……という意識が強いことが分かりました。
――そうだったのですか。やはりここに至るまでの長い因縁というか、そういったものが背後にあるんですね。ですがそうなるとますます「放送局は一体誰のために放送をしているのか」という思いが強くなります。私的録画補償金に関して「Culture First」という理念を提唱した団体がありましたが、あれにも一言付けさせてもらいますと「コンテンツを創るのが文化であるならば、コンテンツを消費するのも立派な文化だ」ということを考え直すべきでしょう。創造の文化と消費の文化は車の両輪で、一方が欠けてしまえば必竟もう一方も滅んでしまうものですよ。保証金の問題はそのあたりを完全に忘却していて、だからこのような現状になっているのではないでしょうか。
そういった観点で放送と視聴者の関係を見てみると、やはり“歪”(ひずみ)であると言わざるを得ませんね。先程から度々確認していますが、今の放送はタイムシフトをしているからこそ見ている人が居るわけで、リアルタイムで見ている人+タイムシフトで見ている人が実際の視聴者になります。そして現状はタイムシフトが非常に多くなっているので、タイムシフトできないとなると、広い意味で放送を聴取する人が激減するでしょう。
麻倉氏:誰も見ない4K、8K放送こそ、資源の無駄の極みですね。話を4K放送に戻すと、新しい放送というものは全員がすぐに飛び付くわけではなく、(映像技術や映像文化に対しての)意識が高いアーリーアダプター層が主な視聴者です。そういう人ほどタイムシフトを使うでしょう。
――その一方でリアルタイム放送の価値というのがあるのは間違いないと思うんです。例えば日テレの「金曜ロードショー」で「天空の城ラピュタ」を放送した時に、物語の後半で滅びの呪文「バルス」を唱えるタイミングで一斉にバルスをツイートする、いわゆる「バルス祭り」がネット上で非常に盛り上がったりします。この動きは米Twitterも注視しており、2013年の放送時は瞬間ツイート数の世界記録を更新したりもしました。これなどはリアルタイムの価値を如実に表すものですね。しかし普通の放送の多くには、残念ながらリアルタイムの価値があまりないんです。
麻倉氏:リアルタイムの話は確かにあって、例えば事故や台風等をはじめとしたニュースの実況や、サッカーや野球等のスポーツ系をはじめとしたイベントを生中継するとか、そういった際にはリアルタイムの価値は確かに出てきます。でもこれらは「ある特殊な番組」であって、殆どの番組は「絶対にその時間に見なければ価値がない」ものではありません。スポーツだって別にリアルタイムで見なくても結果を知ることはできる訳ですから。
「バルス祭り」のような事例は非常に例外的で、逆にいうとTwitterで皆が視聴体験を共有できるのはリアルタイム放送の瞬間だけですね。ですがこれはTwitterにとって重用なことであって、テレビ側としてはそういう問題ではないのではないでしょうか。
――僕としては、放送局がどうしても視聴者にリアルタイムで観てもらいたいと言うならば、そういうコンテンツをテレビ局自身が作るべきだ、と思う訳です。例えそれがもし放送以外の部分だとしても、そのサービスやコンテンツの結果として放送を見る人が増えたのならば、そういった部分も放送局がちゃんと開発するべきでしょう。
スポーツにしても、結果だけを後から確認することは簡単です。ですがスポーツを観戦する人は、リアルタイムで生まれる筋書きのないドラマを目撃することに楽しみを感じるわけですよ。連ドラにだって悶々としながらも次の展開の想像を1週間巡らせるという楽しみがリアルタイム視聴にはあります。この場合は「リアルタイム」の期間が幾分長いですが、それにしても後から情報を追いかけたりVODでイッキ見をしたりしていては絶対に味わえないもので、それこそがリアルタイムの価値だと思うんですよね。
加えて言うならCMだって工夫の余地は充分にあります。例えば4コママンガを主力とする一迅社という出版社のCMは非常に工夫されていて、自社作品がアニメ化された時のCMは何とアニメキャストが週替りで毎週新しいCMを放映するんですよ。正確に言うと映像は同じでナレーション音声のみが毎週変わるのですが、同じナレーションのCMは2度と放映されません。このお陰で一迅社のCMは「例え録画で飛ばせるとしても」毎週必ず観たいと思わせるものになっています。
一般に知られているCMでも、例えば缶コーヒーBOSSの「宇宙人ジョーンズ」シリーズや、昔話をモチーフにしたシュールでコミカルなauの「桃ちゃん」シリーズなどは、単発ではなくCMをドラマのようにシリーズ化することで、視聴者に積極的かつ継続的に観てもらえるような展開の工夫をしています。番組であろうとCMであろうと、視聴者が面白いと思ったものはちゃんと観てもらえるんですよ。どんなものを放送しようと、評価をするのはあくまで視聴者なんだから、やっぱり放送は視聴者に観てもらえるものをまず作るべきですよ。
テレビ局がテレビ放送の事だけを考えていれば良い時代はもうとっくの昔に終わっちゃっているんです。放送は放送でするべき努力がまだまだ山とあるのに、そういった努力をせず安易に放送を録画禁止にして、リアルタイム視聴を強制するようなやり方はどう考えても間違っています。卑怯だとさえ思いますね。
麻倉氏:随分と長くしゃべったね。でも君は鋭い。次回から私の代わりをやりなさい(笑)
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