麻倉怜士の「デジタル閻魔帳」
麻倉節全開! ミュージックラバーへ提案する新生ティアックの「NEW VINTAGE」コンセプト(3/3 ページ)
麻倉氏:このように“オーディオ愛好家”と“ミュージックラバー”が違うというのは重要な発見な訳ですが、ではヨーロッパでは具体的にどのような製品がミュージックラバーに支持されているのかというと、イギリスの例ではARCAMの「Solo Music」という製品がCDプレーヤー一体型のプリメインアンプで、なおかつネットワーク機能が充実しているということでヒットしています。そのほかCYRUS「LYRIC09」もプレーヤーを内蔵してハイレゾ対応のネット機能を付けて、ソース機能も付けて……というものです。
NAYM「UNITI2」も同じで、こちらはBluetoothやWi-Fiといった無線機能が充実しています。いずれも1500ポンド(日本円でおよそ20万円弱)を上回る高級機で、あとは好みのスピーカーを用意してやれば上質な音楽が楽しめるというものです。
手軽に良い音が楽しめるオールインワンコンポーネントですが、多数のオーディオ製品がひしめき合っているはずの日本でこのようなものをあえて探すと、驚くことにユキムが取り扱っているAuraの「note」くらいしか見当たりません。でもnoteはハイレゾ未対応です。ですが考えてみると、本来音楽を良い音で楽しみたいという時に、機械に対してはあまり重点が置かれてはいません。あくまで音楽を気軽に楽しむ、しかもそれが良い音というものがあれば、それはもうミュージックラバーとってはウェルカムな訳です。もちろんオーディオ業界にとっても新しい市場を拓けるという事で歓迎すべきことでしょう。
こういったメディア一体型コンポーネントがなぜヨーロッパで大評判かというと、新しいメディアと古いメディアに完全対応しているからです。つまりCDプレーヤーだけではなく、ネットワークプレーヤーだけでもない。ここでは「CDがかかる」ということが非常に重要で、今はハイレゾの時代なのでハイレゾがかかるというのはもちろん、ユーザーはハイレゾとは別にCDという“資産”を持っている訳です。その資産を、リッピングしてデータ化して使うのではなく、パッケージのまま使うというところがエモーショナルであり、ミュージックラバー的な点なのです。
こういうところがあるので、先程紹介したイギリスの一体型アンプはCDとネットワーク、それからFMや「DAV」のデジタル放送に、USB、Bluetooth。これらのプレーヤーに“+アンプ”という構成です。ないのはスピーカーだけ。これで音が悪ければ何にもならないですが、もちろん音にはしっかりこだわっています。
――後方互換が効くものが支持されるという現象は、ビジュアルやゲームなどの業界ですでに実証済みです。日本のオーディオファンに馴染みのある一体型製品というと、LINNがかつて作っていた「CLASSIK Music」が挙げられるでしょうか。そのLINNは創設者のアイバー・ティーフェンブルン氏から息子のギラード氏へ代替わりした際に「DSシリーズ」で世界に先駆けてハイレゾとネットワークの扉を開き、同時にディスクメディアを過去のものとして切り捨てた訳ですが……
麻倉氏:「CLASSIK Music」はあの時代の一般的な音楽メディアを全て網羅したよい製品でした。このように「音にこだわってあらゆるメディアに対応したプリメインアンプというものが、実は今すごく求められているのではないか」ということが、市場を見渡すと論理的に分かるわけです。単体オーディオの世界はコンポーネント単体で1つ1つ頑張って音を作るため、オーディオとして究極の領域へ挑むことが可能です。ただそれはある種の趣味的領域であり、市場規模としてはあまり大きくはありません。先ほど来から述べているように、これとは明確に異なるミュージックラバー、つまり音楽愛好家の世界というものが確かに存在するのです。この人たちの使用機材はヘッドフォンでも構わないのですが、この両者が重なったクロスオーバー領域の市場というのが、実はこれからとても重要になるのではないかというのが私の見立てです。
――この両者は似ている様で実は感動のツボがかなり異なると僕は考えています。オーディオ愛好家はもちろん音楽を聴いているのですが、それ以上に音の響きそのものに感動や芸術性を見出す人達でしょう。対してミュージックラバーはその名の通り音楽という芸術に喜びを感じる人達です。麻倉先生や僕はそのどちらもを追い求める人種ですが、このうちどちらかしか求めていない人というのは案外と多いのではないでしょうか
麻倉氏:素晴らしい音にのみ宿る音楽性があることを私は知っています。ミュージックラバーに単体オーディオ的な素晴らしい音を提供し、単体オーディオの方からも、オーディオだけではなく音楽愛好家の方に提案をしていく。こういった価値を提供する製品が、今までは全くありませんでした。それをうまく埋めていくのがプレーヤー兼プリメインアンプのワンボックスという製品なのです。ティアックにおいてこういうものができたというか、従来にあるものの延長ではなく全く新しいものを作っていく、しかももともと持っている技術やプロパティーを活用することで新たな価値を付けていくという行為は実に温故知新であり、正に「NEW VINTAGE」そのものです。これによってティアックという、今はちょっとイマイチなブランドをグッと引き上げる、素晴らしい提案になるのではないかと確信しています。冒頭では「イマイチ」とか「イマニ」とかいろいろ言いましたが、これからの音楽・オーディオの価値を作ろうとしている挑戦にはしっかりと期待したいです。
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