アニメに潜むサイバー攻撃
「笑い男」事件は実現可能か 「攻殻機動隊 S.A.C.」好きの官僚が解説(5/12 ページ)
F: 失敬。思考と発声以外のデバイスを切り離してダイレクトにしゃべっているもので。具体的には証拠やアリバイに関して、例えば「ここにクルマが停まっていたはず」とか、「そのクルマのナンバーを覚えている」とか、あるいは、何かのものに対して「それは昨日、机の上にあった」と誤認識させることなど、静止物にまつわる記憶への攻撃は割と早く登場する気がします。
人間の脳の中の記憶の直接操作ではなく、先ほどのテレビの例と同様にデバイスを通して類似のものを人間の脳に誤認させるのは、今でも可能ですし複雑ではありませんから。「そこに存在していて違和感がない場合」や「初めて見る場合」だと、それがするりと記憶されるでしょう。脳における初期記憶の優位性は絶大です。第一印象と同じように。
それに最近はAIが創造した架空の人間の顔写真が本物と見分けがつかなかったり、ディープフェイクという本人だとしか思えないフェイク動画が登場したりして、音声、静止画、動画のいずれも証拠能力を失いかねない未来が見えてきています。初めて見るものがフェイクだとしても、その瞬間に疑うことができなければ、それは脳の中で真実として記録・定着し、人は後にそれを否定することが難しくなるのです。そのような特性を逆手にとって攻撃され、記憶まで信頼できなくなったら世の中どうなるんでしょうね。考えるだけで背筋が寒くなります。
印象などを排して証拠を慎重に吟味する裁判でも思考の操作、人間の脳の脆弱性に関する各種の情報攻撃により、物的証拠ではない人的証拠、証言や自白などはカオスになるでしょう。物的証拠でも、映像や音声などデジタル化可能なものは改ざんされる。ひいては社会の秩序を担う、法と証拠という両輪の片方がほぼ吹き飛ぶわけですから。
F: ただ相当な大事件でも起こらない限り、人々はその危険性を認識しないでしょう。それこそ「笑い男」事件の第1幕のように世間を揺るがし、かつ目で見て衝撃的な事件が起こるまでは、私たちは何度も鮮やかに、うその情報で記憶を攻撃されるシーンを、個人、あるいは互いにスタンドアロンの集合体であるネット上のバーチャルな小クラスタ単位で味わうことになるんじゃないかと思います。そして、それが少数の人に対して行われた場合「そんなことあるわけないない」と信じてもらえないでしょうし、それゆえに「自分が間違っているかも」と考えるでしょう。攻撃する側は、まさにそこを狙って攻撃してくるでしょうし。
K: 頭がこんがらがってきました。
F: 「攻殻機動隊」を貫く哲学的なせりふの数々の、足元にも及びませんよ(笑)。
第2幕・笑い男、再び舞台へ?
F: 視覚といえばストーリーの序盤で、トグサの本庁時代の同期・山口が、警察内部の謀略に気付いて彼にクルマで会いに行く途中、視覚を奪われて交通事故を起こし死亡する話がありました。これは視覚信号の経路上に「インターセプター」という盗撮用の中間素子を知らない間に設置・操作されたため、視覚信号が遮断、目を見えなくされて起こった事件でした。
現実なら、自動運転車を、雨天、カーブ、高架道路上で、システムダウンさせれば、同様なことができるんじゃないですかね。インテリジェントな車をハックする以前に、私、昔ハイブリッド車に乗っていたとき、下り坂で全システムダウン、エンジンストールを食らいましたから、ハックでなくても、高度なシステムのダウンは起こりうると思っています。
K: このインターセプター、「笑い男事件」の特捜部での不正設置がばれたのに、このあともハックされ続けて、他の警察関係者人たちは「自分も危ないかも」とか思わないんでしょうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
アニメに潜むサイバー攻撃
サイバー攻撃は、時代に合わせ、攻撃の対象や手口が変化してきました。しかし近未来の世界、最新技術へのセキュリティ対策はイメージしにくい部分もあります。そこで、そう遠くない未来、現実化しそうなアニメのワンシーンをヒントに、セキュリティにもアニメにも詳しい内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)の文月涼さん(上席サイバーセキュリティ分析官)が対策を解説します。
この記事の著者
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
2
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
3
GMO、不正アクセス実行犯の手がかりに懸賞金 1億5000万円規模
-
4
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
5
GMO、攻撃者の公開情報に「アクセスは絶対に控えて」 悪質な拡散者には法的措置を準備
-
6
Google、プライバシーポリシーに「Gmail」「Googleフォト」のデータを広告に使う例外を追加 回避方法は
-
7
IPO目論見書に「AIは人類の存亡リスク」「コードの9割はClaude製」 Anthropicが示した規格外の見立て
-
8
メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験
-
9
So-net、会員情報約259万件が漏えい 一部メールサービスではパスワードも流出
-
10
GMO不正アクセス、犯人側は「27日に顧客のPC攻撃」予告 GMOが端末回収、ホワイトハッカーが解析中
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR