Innovative Tech
脳の血管にロボット注入、音で操作し自在に移動 マウス実験に成功 スイスの研究チームが発表
Innovative Tech:
このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。Twitter: @shiropen2
スイスのETH ZurichとUniversity of Zurichに所属する研究者らが発表した論文「Acoustic trapping and navigation of microrobots in the mouse brain vasculature」は、脳内血管に音響で操作できるマイクロロボットを挿入する手法を提案した研究報告である。
バブル(気泡)から作られた生物学的マイクロロボットが、生きたマウスの脳内でリアルタイムに追跡しながら音響放射によって操られ移動することに成功したという。
人間の脳は、860億個の神経細胞、850億個の非神経細胞、650km以上の血管からなる、自然が作り出した最も複雑な臓器の1つである。そのため脳の研究は、脳の複雑さとそのアクセスの難しさもあり、困難な分野である。
もし、脳の血管内を自在に移動できるマイクロロボットが登場すれば、脳の研究に新たな可能性をもたらすだろう。
しかし脳の血管は他部位の血管と比べ、困難な物理的条件(例えば、逆流、入り組んだ血管網、密集した不均質な流体環境)に直面し、標的領域に向かって移動することを阻んでいる。
脳内では、現在までに磁気マイクロロボットだけが研究されており、マウスモデルのin situでの限定的な操作が実証されている。磁気駆動は正確なナビゲーションを提供するが、磁性粒子に依存するため、マイクロロボットの生分解性が制限される。一方、音響的なアプローチは、脳の生理学的な環境においてマイクロロボットの捕捉とナビゲーションを成功させることはまだ実証されていない。
この研究では、脳血管内におけるマイクロスケールのロボット操作をマウスの頭蓋骨を通過する音響波で行う手法を提案する。マイクロロボットは、ガスで満たされた脂質でコーティングされた蛍光マイクロバブル(マイクロスウォーム)の集合体で構成される。サイズは、幅1マイクロメートル以下となる。
音響放射の影響により、生きたマウスに注入されたマイクロロボットは自己集合すると同時に、血流からの抗力が小さい血管壁に付着する。マイクロロボットの位置は、2光子顕微鏡でリアルタイムに追跡される。その後、マイクロロボットは最大10mm/sの流速の下で、血管壁に沿って制御された移動が可能となる。
今のところ、マイクロロボットを大脳皮質と呼ばれる脳の上部領域までしか移動させることはできていない。もっと深いところに行くには、より複雑に入り組んだ血管を経由しなければならず、現段階では困難だという。
今回の手法は、低侵襲で、複雑な脳毛細血管網に対応し、生体内環境で再現可能な外部操作アプローチである。これらの結果は、生体脳内での超音波によるマイクロマニピュレーションの理解と実用性をさらに高め、ドラッグデリバリーの新たな標的戦略をサポートするものである。
Source and Image Credits: Alexia Del Campo Fonseca, Chaim Gluck, Jeanne Droux, Yann Ferry, Carole Frei, Susanne Wegener, Bruno Weber, Mohamad El Amki, and Daniel Ahmed. Acoustic trapping and navigation of microrobots in the mouse brain vasculature
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
メルカリ、梨の転売疑惑に「盗品の出品は確認されず」 誹謗中傷には利用制限も
-
2
Anthropic、「Claude Opus 5」公開 Fable 5に迫る性能を半額で――サイバー安全策は緩和、拒否時は自動フォールバックも
-
3
検索結果に「詐欺ではありません」と表示させる詐欺手口、警視庁が注意喚起 AI要約も餌食に
-
4
「iPhone高騰」はこれからも続く? 中国CXMTに近づくApple、メモリ競合へのけん制が不発に終わりそうなワケ【後編】
-
5
「ニューロマンサー」実写ドラマ、Apple TV+で2027年1月配信開始へ
-
6
「こんなのに追われたら……」急斜面もやすやす爆走、中国製の車輪付き四足ロボのデモ動画が話題 最高時速20km超
-
7
海外の新作バカゲー「電車アタック」にマンガ家が感心した理由 ブッ飛んだ内容と完成度の高さ、そして“日本”
-
8
「めっちゃカメレオン」公式Discord乗っ取り 担当者PCがマルウェア感染、管理者が全員BANに 現在は復旧
-
9
暑さ対策が熱い! 「猛暑対策展」で感じた、転んでもただでは起き上がらない日本人のエネルギー
-
10
スーパーに並んだ「ごちゃごちゃ生成AIポップ」が物議 “看板王”こと、きぬた歯科院長「これはアリ」
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR