「推しのためにApple Musicで曲を聞け、収益が高いから」は事実か? レーベル運営者の実データで確認(2/2 ページ)
レコメンドアルゴリズムはブラックボックス
筆者のレーベルでは、tunecoreの他にライツスケールという国内アグリゲーターに、著作件処理が必要な二千数百曲の配信を依頼している。こちらもグローバルに向けて配信をしているものの、ドメスティックなリスナーを対象としたコンテンツが中心となる。
表をご覧いただくと一目瞭然。Spotifyとの比較では、Appleの方が平均単価が多い。なおかつストリーム数が圧倒的に多く、受け取ったロイヤリティーの総計もAppleが大きい。
なぜ、ここまでSpotifyとの差がついているのか。筆者にもはっきりした要因が分かっていないためあくまで推測だが、日本での有料ユーザー数の差が影響している可能性がある。
Spotifyに関しては、Freeプランのユーザーが多ければロイヤリティーも少なくなることは容易に想像できる。実際に筆者レーベルの実績を見返すと、0.00008/円の楽曲もあれば、1.02696/円という高い分配を誇る曲もある。単価の低い楽曲が大きな割合を占めており、それがSpotifyのロイヤリティーを低くしている可能性がある。
同時にストリーム数も低迷している。理由は不明だが、アコースティック系楽曲やクラシックが中心の筆者レーベルのカタログが、Spotifyのレコメンドアルゴリズムにマッチしないのかもしれないし、単に多くのユーザーの志向からかけはなれているのかもしれない。このあたりのロジックはブラックボックスと化しており、コンテンツ提供者には未知の領域だ。
ただ、ここまでのデータを基に考えれば、少なくとも「“推し”のアーティストを応援するならSpotifyではなく、Apple Musicを利用すべき」という主張については「一概にそうとは言えない」「加入プランによる」といった結論になる。
ちなみに、上の表のライツスケールからの分配は、著作権使用料や出版社の楽曲使用料が引かれた単価だ。筆者レーベルの場合、クラシック系が中心とはいえ近代作曲家の楽曲も多く、楽曲使用料が発生する分、単価が低くなる。
また、あくまでも業界関係者から届いたうわさだが、Spotifyはメジャーレーベルに対し有利な分配率を提示しているという話も聞く。つまり、支払総額に対し完全に案分な分配が実施されていない可能性があるということだ。それが真実だとすると、インディーへの分配率はおのずと不利になる。
環境に適応できなければ沈んだまま アーティストの振る舞い方は
ここからは筆者の考えになるが、多くのユーザーが多種多様なサブスク配信サービスを利用する現在、アーティストから「このサブスクで聞いて」とお願いするのはどうなのだろうか、と思わなくもない。少なくともインディーについてはそう考える。
個別のアーティスト目線で見たら、実績としてのストリーム単価が多いサービスに好感を抱き「応援してくれるのであれば、単価の高い◯◯配信サービスで聴いて」と、ファンに訴える気持ちは理解できる。恐らくファンであればサービスを乗り換えてくれるであろう。しかし総合的な収益という目線で見れば、1再生いくらという単純な図式でない以上、結果的に機会損失になるリスクもはらんでいる。
前述した筆者レーベルのように、クラシック系の楽曲が中心のアーティスト達は、固定的なファンを相手に、コンサート会場でのCD販売に注力している人が多い。多くのファンもサブスクで聴取可能なことは承知しつつも、応援する気持ちでCDを購入している。
実際、コンサート終了後にアーティストがロビーに出てきて、ファンとの写真撮影や握手しながらその場でCDにサインを入れている。長蛇の列ができることもあるが、皆、次につなげようと努力している。
あるワールド系ジャンルのアーティストは、私生活の中においても、ちょっとした職域・地域コミュニティーの集まりにまめに顔を出し、自身やCDの情報を提供し、新譜CDアルバム発売前に200枚近くの予約を得た者もいる。このアーティストは、高いコミュニケーション力を生かし、いわば人間力で音楽活動を充実させている。
今の時代、インディーが音楽で一定の収入を得たければ、ファンの顔が見えない「量り売り」のようなサブスクには期待し過ぎず、人間的なつながりを通じて、地道に活動を応援してもらうというのも、一つの道なのではないだろうか。
筆者のレーベルが楽曲提供を開始した配信サービスの勃興期であれば、アルバムの企画力やレコメンドなどの機能でアルバムがランキング上位に登場することもあった。しかし、メジャー、インディーを含め膨大な楽曲がサブスク上に登録されている現在、何らかのきっかけがないと見向きもされない。
そのトリガーとは、SNSでのバズもあるだろうし、前述のようなリアルでの人間のつながりもあるだろう。自戒を込めて言うのだが、変化し続ける音楽ビジネスの環境に適応できなければ、浮かび上がることはない。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
-
2
資さんうどん、従業員の退職理由などが外部から閲覧可能に 委託先の勤怠システムに設定不備
-
3
NECのルータ「Aterm」、PHP脆弱性の影響なし 設定画面URLの「.php」は無関係
-
4
GMO、不正アクセス実行犯の手がかりに懸賞金 1億5000万円規模
-
5
「楽天トラベル」に不正アクセス 顧客情報最大約260万件など流出か 予約者約3.6万件のクレカ情報も
-
6
GMO不正アクセスの犯人サイト、ドメイン停止を確認
-
7
「推しがそばにいる日常」を ソニー、5万円台の裸眼3Dディスプレイ アニメ公式コンテンツに対応
-
8
メアドを検索→AIで“その人専用フィッシングメール”を生成する手法、クリック率が約2.7倍に 7000人以上で実験
-
9
So-net、会員情報約259万件が漏えい 一部メールサービスではパスワードも流出
-
10
GMO、攻撃者の公開情報に「アクセスは絶対に控えて」 悪質な拡散者には法的措置を準備
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR