ちょっと昔のInnovative Tech
“白髪”はがんから体を守った印? 急な黒髪復活は要注意、頭皮活性化に警鐘──東大などがNature系列で2025年に発表
ちょっと昔のInnovative Tech:
2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
白髪とがん(メラノーマ、悪性黒色腫)の関係を解き明かした研究が、2025年10月にNature Cell Biologyで発表された。東京大学医科学研究所が主導し、理化学研究所および東京科学大学と共同で実施したもので、論文タイトルは「agonistic stem cell fates under stress govern decisions between hair greying and melanoma」。
年齢を重ねると体の機能は低下する一方で、がんの発生リスクは高まるが、その詳しい因果関係はこれまで未解明だった。研究チームは、白髪やメラノーマの発症に関わる色素幹細胞に着目し、細胞レベルでどのような変化が起きているのかを追跡した。その結果、細胞が受けるストレスの種類によって、細胞の運命が分かれることが判明した。
例えば、放射線などのダメージによって色素幹細胞のDNAが深く傷つく(DNA二本鎖の切断)と、細胞は自ら老化分化というプログラムを作動させて引退する道を選ぶ。
異常な細胞が毛包から自発的に排除されるため、色素が供給されなくなって白髪にはなるものの、がん化するリスクを持つ危険な細胞は体内に残らない。つまり、白髪が増える現象は、体をがんから守るための防衛機構としての側面を持っていたというのだ。
ところが、紫外線や化学的な発がん物質といった発がん性のストレスを受けた場合は異なる反応を示す。発がん性のストレスは、細胞の周囲の環境(微小環境)に働きかけ、異常な細胞を排除しようとする老化プログラムを抑制してしまう。その結果、DNAに深い傷を負った危険な細胞が取り除かれずに組織内に残り、そのまま自己増殖を始めてしまうことで、将来的ながん発症の起点となる細胞が生み出されることが実験で証明された。
このように、幹細胞がどのようなストレス(放射線や紫外線など)を受けたかによって細胞の運命が分かれ、それが結果として「白髪」か「がん化」かという組織全体の運命を決定していることが示唆された。
世間には様々なアンチエイジング手法が溢れているが、安易に頭皮の細胞を活性化させることは、異常な細胞の増殖を許し、がんのリスクを高める可能性も秘めている。細胞が老化・がん化していくプロセスを正確に理解することは、真に安全で有効な健康長寿戦略や、新しいがん予防・治療の開発につながる可能性がある。
Source: Mohri, Y., Nie, J., Morinaga, H. et al. Antagonistic stem cell fates under stress govern decisions between hair greying and melanoma. Nat Cell Biol 27, 1647?1659 (2025). https://doi.org/10.1038/s41556-025-01769-9
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説している。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。
この記事の著者
関連記事
こんなメディアも見られています
ITmedia NEWSに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
SpecialPR
本日の新着記事
アクセスランキング
-
1
資さんうどん、従業員の退職理由などが外部から閲覧可能に 委託先の勤怠システムに設定不備
-
2
松屋の公式アプリとWebサイトが停止 不正アクセスを検知、モバイルオーダーや弁当予約も使えず
-
3
ベネフィット・ワンの委託先に不正アクセス セゾン会員向け優待サービスで約2.9万人分の個人情報漏えい
-
4
「PayPay連携の銀行から、お金全部盗られた」被害報告……原因と対策は? PayPayに聞いた
-
5
NEC、委託先の情報漏えいで謝罪 「セキュリティ事業を手掛ける企業として反省」
-
6
JALの予約システムに不正アクセス 約9万人分の予約情報が漏えい 一部ではパスポート番号も
-
7
VTuber「兎田ぺこら」グッズにSNSで風評被害→示談成立 「保護者同伴で謝罪などがあったため」
-
8
渦中のGMO、熊谷代表の発信は“火に油”か? 「経営トップが自ら広報」の功罪
-
9
Apple、初のタッチ対応「MacBook Pro」発表 新型OLED搭載、国内価格は49万9800円から
-
10
GMO、ランサム被害にあった顧客に新しいPC提供へ 犯行グループは1人の顧客情報公開か
ITmedia NEWS SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
ITmediaNEWSをフォロー
あなたにおすすめの記事PR