ギターの「形」は誰のもの? ヤマハにも警告、Fenderが“ストラト著作権”で仕掛けた知財攻勢(2/2 ページ)

なぜコピーモデルが黙認されてきたのか?

 先に、「ボディーデザインをまねた多くのコピーモデルが他社から販売されている」と述べた。そうなると「なぜ、これまでコピーモデルが黙認されてきたのか」という疑問に突き当たる。

 現時点における一番シンプルな解答は「意匠権はとっくに切れている」という点だ。ストラトキャスター(1954年)に限らず、Fenderの「テレキャスター」(1950年)、Gibsonの「レスポール」(1952年)は、いずれも誕生から70年前後が経過しており、意匠権や特許の存続期間は満了している。

 ただ、コピーモデルの登場は1960年代末にさかのぼる。この時代、意匠権は切れていなかった事例もあったはず。ここに日本の楽器メーカーが関係してくる。1960年代末〜1980年代初頭、当時のFenderやGibson製ギターは高価で入手困難だったため、グレコ、ヤマハ、東海楽器、フェルナンデス、アリアといった国産メーカーがこぞってデッドコピーを販売していた。

 筆者が所有するフェルナンデスのストラト(1980年購入)やグレコの「プレシジョンベース」(1976年購入)などは、ヘッドのロゴ以外、その形状は細部に至るまでホンモノ感を放っている。

1976年製のグレコ製プレシジョンベースのコピーモデル。フレットレスや電気系の改造などDIYで手を加えてあるが、ボディー形状などは本家とまったく同じ)

 当然、FenderやGibsonが黙っているはずもなく、グレコ、フェルナンデス、東海楽器は、1970年代末から1980年代にかけて、日本国内で販売されているコピーモデルに関して本家から提訴されている。そのような法的圧力を受け、グレコは自社オリジナルモデルに注力するなど、一部自粛した動きを見せたこともあった。

法的措置が無理で公認の廉価版ブランドで対抗

 ただ、意匠権が切れている部分もあり、一部メーカーを除いて価格競争力を持つコピーモデルビジネスから完全に足を洗うには至ってこなかった。ユーザーからすると本家の半額以下、あるいは数分の一の価格であこがれのアーティストと同じ形状のモデルを所有できるのだから、コピーとは知りつつ抗し難い魅力がある。

 つまり、本家がどれだけ法的な動きに出ようが、意匠権が効力を失っていたり、コピーモデル自体が市民権を得てしまっていたりしたこともあり、「形を独占できる権利」を行使できない状態に陥っていたことになる。

 結局本家のメーカーは、「権利」ではなく、価格競争で対抗する手段を選び、Fenderは「フェンダー・ジャパン」「Squier by Fender」、Gibsonは「Epiphone」といった、公認の廉価版ブランドを展開することで対抗するようになった。

 2000年代から2010年代にかけて、FenderやGibsonは、商標権やトレードドレス登録といった形で一部メーカーに法的な措置で圧力を加えるなどしたが、長年のコピー氾濫により識別力なしと判断され、ヘッド形状以外の権利を認めてもらえなかった。

 トレードドレスとは、商品や店舗の「見た目・外観全体」を、出どころを示す標識として保護する米国の法概念のこと。「コカ・コーラ」の瓶の形状が有名だ。また、多くのコピーモデルメーカーが、ヘッド形状だけを変えているのは、ヘッド形状には商標権ありと認められたからだ。

有名アーティストから絶大な支持を得ている米Sadowskyのベース、ボディー形状はFenderの「ジャズベース」と同じだが、ヘッド形状は独自のデザインを採用

 だからこそ、冒頭で解説したボディー形状を著作権として保護するというドイツ判決は「意匠権の失効=コピーモデルはOK」という業界の前提を覆す可能性を秘めた画期的な動きとして業界に激震をもたらしたのだ。今後この判決がどのような形で業界に波及するのか現時点では未知数だ。

演奏性やバランスの面で完成されたFenderの形状

 本稿の最後に、読者の素朴な疑問に答えておこう。なかには「なぜFenderのボディー形状をまねするの?各社オリジナルで考えればいいのでは?」という疑問を持つ向きもあろう。

 高校生のときから50年以上、アマチュアながら、各種のベースやギターを弾いてきた身からすると、ストラトやプレシジョンベースの形状は演奏性やバランスの面で完成された形だといえる。Gibsonの「サンダーバードベース」や米Rickenbackerのベースをスタンディングで弾いた後に、プレシジョンベースを弾くたびに、なんてバランス良く、疲れない形状をしているのだ、と改めて認識させられる。

Gibsonの廉価版ブランド、Epiphoneのサンダーバードベース。見た目はカッコイイがヘッドヘビーでバランス最悪。短時間の演奏で疲れてしまい年配向けではない

 ストラップを装着して構えたとき、たとえ同じ重量であっても、バランス良く構えることができ、身体にフィットしていれば、演奏しやすく大きな安心感が得られる。そういった意味でストラトなどFender製品のボディー形状は70年以上も前に完成されていたということがいえる。アーティスト側も自然にそれを求めることになり、メーカーやギタービルダーたちも、Fenderのボディー形状を取り入れるのではないか。

著者プロフィール

山崎潤一郎

音楽制作業の傍らライターとしても活動。クラシックジャンルを中心に、多数のアルバム制作に携わる。Pure Sound Dogレコード主宰。ライターとしては、講談社、KADOKAWA、ソフトバンククリエイティブなどから多数の著書を上梓している。また、鍵盤楽器アプリ「Super Manetron」「Pocket Organ C3B3」「Alina String Ensemble」などの開発者。音楽趣味はプログレ。Twitter ID: @yamasakiTesla

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