不動産とITのナゾ
AIが突き崩す「不動産価格の壁」 なぜマンションに定価がないのか(2/2 ページ)
公示地価や路線価は実勢価格にあらず
「ちょっと待て。公示地価や基準地価など、国や自治体が発表している土地の価格があるではないか」という人もいるかもしれない。しかし、これらもあくまで売買価格の目安であって、一律の価格を示すものではない。
代表的な公的地価を見ていこう。「公示地価(地価公示価格)」は、国土交通省が毎年1月1日時点の全国の標準地の価格を調べ、1平方メートル当たりの価格として3月に公表するもの。「基準地価(都道府県地価調査価格)」は、都道府県が7月1日時点の価格を調べ、9月ごろに公表する。こちらも不動産鑑定士の評価を基に、1平方メートル当たりの価格で示される。「路線価」は、相続税や贈与税などを算定するため、国税庁が毎年7月に公表する、主要な道路に面した土地の1月1日時点の1平方メートル当たりの価格だ。公示地価の8割程度が目安となり、国税庁が売買実例や不動産鑑定士の意見などを基に算出する。
つまり、国や自治体が発表する土地の価格は、算出する主体や方法が違い、価格自体もそれぞれ異なる。販売者があらかじめ決めて表示する「定価」や、実際に取引が成立したときの「実勢価格」とは全く別のものだ。だから、不動産の買い手が「路線価ではもっと安かった」と業者に訴えたとしても、業者は丁寧に説明するだけで、売買価格を変更してくれることはまずない。
1000万件のデータで「適正価格」を算出
不動産に一律の価格がないことは、「価格の柔軟性」という意味では便利だが、安定性や信頼性に欠けるというデメリットもある。こうした状況を突き崩しつつあるのがAIだ。AIは定価を決めることはできないが、過去の取引や近隣物件、部屋の広さなど多くの情報を基に、「なぜその価格になるのか」を客観的なデータで示せる「適正価格」を算出できる。最近では複数の不動産会社がAIを活用して不動産価格を算出している。
例えば、GAテクノロジーズでは、東京都、大阪府、神奈川県、千葉県、埼玉県などの主要エリアを対象に、賃貸物件の家賃や住宅価格の適正価格を推定している。同社の福中公輔氏(AI研究組織ディレクター)は「従来使われてきた不動産価格の相場は、サンプルが少なく、異常値が含まれるなど信頼性に乏しかった」と指摘。「AIで多くのデータを分析することで、従来に比べて信頼性の高い適正価格を顧客に提供できる」と胸を張る。
同社の強みは、AIに分析させる情報量の多さだ。分析データは直近3年間で1000万件分に達するという。特に同社グループの不動産管理会社から得られる物件情報は、間取りや床面積、築年数、共用部や部屋の設備、最寄り駅やターミナル駅からの距離、周辺施設・環境など多岐にわたる。こうしたさまざまなデータを活用し、周辺の建物や施設、道路などのつながりを数値化する「空間ネットワーク分析」とAIアルゴリズムを組み合わせた独自の算出モデルで、適正価格を導き出している。
AI×人間で、より適正な不動産取引を
では、AIの登場で人間の出る幕はなくなってしまうのか。不動産エージェントファームのTERASS(渋谷区)の高山吏司氏は「AIの登場で、半日がかりだった類似物件との比較が5分で済むようになった。不動産価格や賃料の査定が非常に正確かつ迅速になった」と技術進歩のメリットを指摘する。一方で「人間だからこそ提供できる価値もある」と、AIにはない人の強みも強調する。
実際、高山氏は、子供を通わせたい学校の学区に住むため、相場より大幅に高い価格で物件を購入しようとした家族を説得したことがあるという。高山氏が「良い大学が目的なら、必ずしもその学校に入る必要はありません。狭い住宅に相場から外れた高い値段を払うよりも、塾など勉強の環境が整ったエリアにある広い家に住むのも選択肢の一つです」などと説明したところ、その家族は別の地区の物件を適正な価格で購入した。顧客の動機を見極めてより良い提案をするのは、価格を提示するだけのAIにはない“人の温もり”だ。
GAテクノロジーズも、AIが算出した値に担当者らが定性的な評価を加え、最終的な適正価格を決めている。実際に物件を見て、現場の感覚を知る人間だからこそ分かる価値を、賃料などに反映させるためだ。AIの登場は、定価のない不動産価格に革命的な変化をもたらしつつある。一方で、人間のアナログな現場経験や知識の重要性を再認識させるきっかけにもなっている。都心の物件価格が急騰する中、透明性の高い取引をどう実現していくのか。人とAIの協力関係の進化が、その実現に貢献することは間違いなさそうだ。
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多くの人にとって「住まい」に当たる不動産は身近なはずなのに、なぜかよく分からないことだらけ。他の業界では常識なのに、不動産業界では非常識。そんな不動産の「ミステリー」を専門家がわかりやすく読み解き、AIをはじめITを活用した不動産の近未来を探る。
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