科学への不信感に「そうじゃない」――SFCの「学問ノシンカ」、ORF 2011で確認せよ

慶應SFCが研究成果を発表する「ORF 2011」のテーマは「学問ノシンカ」。展示やセッションを通じ、今後の日本社会を変えていくであろう最先端の「学問」の真価に触れられる。

» 2011年11月10日 10時00分 公開
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 慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の研究成果を一般公開する「慶應義塾大学 SFC Open Research Forum 2011(ORF 2011)」が、11月22日(火)、23日(水・祝)に東京ミッドタウン ホール&カンファレンスで開かれる。

 今年のテーマは「学問ノシンカ」。東日本大震災がもたらした“時代の転換期”を人々が乗り越えていくため、今こそ学問の「真価」「進化」「新化」「親化」「深化」が求められる――というSFCの思いが込められている。福沢諭吉「学問ノススメ」になぞらえたこのテーマを、公式サイトでは書道師範の学生による毛筆で力強く表現した。

 セッションは例年より増え、40以上ある。「ソーシャルメディア×イノベーション」「全国自治体ICTサミット」といったIT分野のセッションに加え、「災後日本の針路 ― 危機を転機に変えるために ―」「TPPと日本のシンカ」など、日本が現在直面している課題と向き合うセッションを多数用意。日ごろから学問を実際のフィールドで実践し続けているSFCならではのラインアップとなっている。

 ユニークな展示も見どころだ。「自己増殖する3次元プリンタ」や、Webページの“かわいさ”を自動判別する検索エンジン「かわいい検索」など、さまざまな分野で140ほどのブースが展開される。また、Facebook/Twitterと連携する実物のボタンを各ブースに設置。来場者が気に入った展示に対して気軽にレスポンスしたり、他の来場者や出展者とのつながりを深めたりできる仕組みを用意する。

 今年のORFに込めた思いや見どころを、実行委員長の小川克彦 環境情報学部教授と、一ノ瀬友博 環境情報学部准教授、田中浩也 環境情報学部准教授、清水唯一朗 総合政策学部准教授に聞いた。

科学技術への不信感に「そうじゃない」

 「原発事故によって、人々の中に科学技術に対する不信感が生まれてしまった」――学生と共同で被災地復興プロジェクトを実施しているという一ノ瀬 准教授はこう話す。一ノ瀬 准教授は、今年のORFのテーマ決めに当たって、東京電力・福島第1原子力発電所の事故をきっかけとして科学技術にネガティブなイメージを抱いてしまった人々に対し、SFCがどのようなメッセージを発信できるかを模索してきたという。

photo 一ノ瀬友博 環境情報学部准教授

 「テーマの選考を始めた5月当時、『(科学技術は)もうだめだ』という風潮もあった。しかし、SFCとしては『そうじゃないだろう』と。科学技術が次のステップに進むためには、一般の人々の理解が不可欠。そうした意味で、『進化』や『親化』などさまざまな意味を表せる“シンカ”という言葉が1つのキーワードになると考えた」(一ノ瀬 准教授)

 また「震災後の今、“学問には本当に何ができるのか”という真価が問われている」と田中 准教授は言う。慶應の塾祖・福沢諭吉の著書「学問ノススメ」が出版された当時も、日本は明治維新という時代の大転換期を迎えていた。それから140年あまりが過ぎた今、再び訪れた時代の転換期において「学問の真の力」が試されているというわけだ。

 実際に、セッションの多くは先端科学をはじめとする各学問が、震災後の社会に対してどのように貢献するか――というテーマに迫るものとなっている。例えば「Scanning the Earth ― 科学技術の未来 ―」というセッションでは、村井純 環境情報学部長と米マサチューセッツ工科大学メディアラボの伊藤譲一所長が登壇。放射線量をはじめとする地球上の環境データをセンサーネットワーク技術によって網羅的に収集・分析し、一般の人々にも理解しやすいように可視化した上で公開していくという「Scanning the Earth Project」の展望について語り合うという。

生産のサイクルを見直す特別展示 自己増殖する3次元プリンタも

 人間社会における“生産”の仕組みを見直したい――そんな思いが込められた特別展示も見どころだ。紙や布を特殊技法で折り曲げ、「ランプシェードからマフラーまで、さまざまなものを作れる」(田中 准教授)という特殊素材を作成。この素材で作ったオブジェを、展示会場内に設置するという。

photo 田中浩也 環境情報学部准教授

 田中 准教授が主催している「FabLab Japan」(ファブラボジャパン)というプロジェクトでは、「大量生産・大量消費社会からの脱却」をテーマに、人々が必要なときに必要なものを自分で作り出すための素材や道具について研究している。今年のORFでは先述の特別展示のほか、自らの部品を再生産して増殖を続ける「自己増殖する3次元プリンタ」などを展示する予定だ。

 「ORFは単なる発表イベントではなく、開催日の2日間だけSFCが丸ごと六本木に移転する“引越し”だ」と田中 准教授。約140の展示ブースはそれぞれ、SFCの各研究室がそのまま凝縮されたものだという。また、今年は単なる“展示”にとどまらず、来場者も一緒に研究に参加できるような“研究会”型のブースも多数出展されるだろう――と田中 准教授は期待を寄せる。

 展示会場内には、毎年進化を続けるナビゲーションシステムも。“実世界と情報メディアの融合”をテーマに、今年はタッチパネルを搭載したデバイスとデジタルペンを会場に設置。来場者がタッチ操作で会場案内図を表示したり、各展示の概要などを表示したりできるようなシステムを用意するという。

学問の垣根を取り去る“シンカ”ボタン

 今年のORFには、さまざまな学問分野が混じり合いながら広がり、“深化”していく――というコンセプトもある。

 震災後、さまざまな分野の専門家による委員会がいくつも発足したものの、「個々の分野で何ができるかを考えるだけでは、今回のような複合的な災害には対応できない」と一ノ瀬 准教授は指摘する。「従来の学問のあり方が間違っているというわけではないが、今はこれまでの知の体系を組み替えることが求められている。そこから“新しい力”が生まれるのだ」(一ノ瀬 准教授)

photo 小川克彦 環境情報学部教授

 こうした“学問の融合”を展示会場内でも表現するため、今年は展示会場内に2カ所のオープンセッション会場を設営。また、展示ブースごとに設置されるという“シンカ”ボタンも、各展示や来場者間のつながりを深めるための仕組みとなっている。

 来場者は、受付所などで手持ちのICカード(FeliCa準拠)と自身のFacebook/Twitterアカウントをひも付けておけば、以後は各ブースに設置された“シンカ”ボタンにICカードをかざすだけで、展示の情報をソーシャルメディア上でシェアできる。こうした来場者によるレスポンスや情報拡散によって、各出展者やさまざまな専門分野を持つ来場者たちが「協力しながらつながりを広げ、学問を深めていくきっかけになれば」――と小川教授は期待する。

多様な専門家をオープンに

photo 清水唯一朗 総合政策学部准教授

 「震災によって日本社会の先行きが予想しにくくなった今、学問に対する世間からの期待が大きくなってきている」と清水 准教授。そんな中、学問が実際に社会に受け入れられて役立つためには、各分野に精通した専門家たちが分野横断的に集まり、人々に対してオープンな場で討議していくことが重要だという。

 今年のORFでは、政治や経済、科学技術、日本文化など、さまざまな専門分野を持つ20人ほどの研究者が日本の現状や将来について激論を交わす「新しい『日本研究』の理論と実践」というセッションを用意。当日は同セッションにさまざまな専門分野を持つ来場者が参加することで、そこから新たな社会の動きが生まれれば――と清水 准教授は期待する。

 その他のセッションもユニークだ。日本の新幹線をグローバル展開させるための道筋を現場の視点で討論する「高速鉄道とグローバル化」や、芸術ユニット明和電気の土佐信道さんらによる「未知の領域へ広がるデザイン」、元プロテニスプレイヤーの杉山愛さんと元シンクロ選手の田中ウルヴェ京さんらによる「女性アスリートとスポーツのシンカ」など、ビジネスや創作、スポーツなど幅広い分野の第一線に触れられるセッションを多数用意。全42セッションのうちプレミアムセッションのほとんどは、Ustreamでもライブ中継される予定だ。


 ビジネス、IT、文化、スポーツ、ものづくり、そして震災後の日本のあり方など、多様な「学問ノシンカ」に触れられるORF 2011。セッションに参加し、気になったブースで“シンカ”ボタンを押す――ここから生まれる新たな出会いや発見に、大いに期待したい。

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提供:慶應義塾大学 湘南藤沢研究支援センターSFC研究所
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ニュース編集部/掲載内容有効期限:2011年11月23日