しかしカシオの開発陣は、あえてステンレスを選択した。重さはあっても、その輝きには代えがたい高級感がある。熟考の末、ステンレス素材を極限まで中抜きしつつ、強度と重さをファインレジンでカバーする、というやり方を考え出したのだろう。
腕にはめてみると、見えるのは僕が中学の時に見たステンレス・スティールの美しさだけで、ファインレジンの存在さえ確認できないほどだ。ただ1カ所、G-SHOCKのロゴの上に、チラリと見える赤いファインレジンが顔を出す(いや2カ所かな、ベゼルの下にもあるのだが時間を確認するときには見えない)。
突然、「江戸の粋」なんて言葉を思い出した。江戸庶民は着物の裏側に凝るってね。風が吹いて着物がはためけば、裏地の凝った染物や刺繍がチラリと見える。それが粋ってもんだ。
カシオの開発陣はこんな感覚でこのB1000Dを作ったに違いない。
とにかくマクロレンズで寄ることが多いので、絞り調節とライティングには気を遣う。この写真は各部の磨きの仕上げの差を出すために面光源を調節した。120センチ幅のボックスライトをできるだけ近づけ、鏡面仕上げのサイドのラインを強調する。この角度なら前面のきれいなヘアライン加工も強調されるだろう。で、ボディは完全な生成り。って何だろう、このカメラマン泣かせの構成は。このMTG-B1000Dのすごさは細部まで完璧に設計思想が浸透していることだ。「手を抜くな」という声が聞こえるのだ。
まあ撮影はどうでもいい。僕は時計のベゼルからベルトを結ぶラインを曲面でなだらかに結ぶデザインが大嫌いなのだ。だったら最初から一体で作ればいい。時計は時計でしょう。ベルトはベルトでしょう。僕の理想をかなえてくれたのはMTG-B1000Dだったのかもしれない。時計とベルトを繋ぐジョイントに存在感のある、六角レンチの大きなネジを付けてくれた。
このワッシャーとネジはデザイン上と、耐震動性能を両立させたものだ。ここに僕がいますよ、という主張が強く感じられる素晴らしいデザインだ。
腕時計の花はベゼルだが、それをさらにきれいに見せるのは高透明度のサファイアガラス。黒のボードを写り込ませて撮影してみるとガラスの存在など無いように写る。内部の立体感のある作り込みが手に取るように分かる。
ライトを点灯して撮影を試みた。1〜2秒ぐらいの点灯時間だったので、長時間露光を覚悟したが、結果、ISO400で4分の1秒の露光ですんだ。LEDは本当に明るい。
撮影が済んで、僕はかなりの満足感を得た。G-SHOCKがなぜ35年も長く愛されたのかが身をもって感じられたからである。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia NEWS編集部/掲載内容有効期限:2018年12月28日