“爆速で開発”沖縄銀行のデータ分析基盤 1億件のデータに挑む

» 2020年05月28日 10時00分 公開
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 企業のデジタル化が加速している。それは、金融業界も例外ではない。厳しい生存競争にさらされる地方銀行にとっても、デジタル化による付加価値創造は急務だ。

 沖縄銀行の永田真氏(執行役員 システム部長)は「お客さまが本当に望んでいるモノの提案に、膨大な顧客データを活用しきれていなかった」と残念な思いを吐露する。そこで同行は、データ分析基盤をパブリッククラウド「Microsoft Azure」上に構築した。既存のオンプレミス環境で運用・蓄積しているデータを分析するために、モダナイズされたデータ分析基盤を新たに設ける必要に迫られたのだ。

 スマートフォンアプリから得られる顧客情報、口座情報などを、データ分析基盤を使って読み解き、顧客のニーズに合った金融商品をベストなタイミングで提案する──そんな未来を、沖縄銀行は描いている。

photo 沖縄県那覇市にある沖縄銀行の本店

 今回の取り組みは2019年10月に発足し、2〜3カ月程度で構築が完了。このうち、開発をサポートした株式会社ジール、日本マイクロソフト株式会社が立ち会った4日間(ワークショップ)で、大部分の環境構築、分析シナリオの検証を終えた。高いセキュリティのレベルを確保しながら“爆速”で開発できた要因を、参加メンバーに聞いた。

(前編)“お客さま”をもっと知る データ分析で「喜ばれる」提案を実現へ 沖縄銀行情シスの挑戦

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 これまで沖縄銀行は、営業職員の経験と勘によってニーズをくみ取り、金融商品を提供してきた。しかし同行の永田真氏(執行役員 システム部長)は「喜ばれるに違いないと自信をもっておすすめした提案に関心を示してもらえず、逆に対象外だと思い込んでいたお客さまから相談をいただくような事例も見受けられた」と打ち明ける。

 ミスマッチな状況を打破するには何が足りず、何が必要なのか。そんな課題に対し、出した答えが膨大なデータの活用だった。


膨大な顧客データを抱えるデータ分析基盤

 沖縄銀行が構築したデータ分析基盤では、オンプレミス環境から顧客の各種情報(顧客情報、預金口座情報、入手金履歴、貸出口座情報など)を、Microsoft Azure上に構築したPaaS環境にロードした上で処理を実行。分析サービス「Azure Synapse Analytics」(SQL Data Warehouse)を介した後、銀行職員が「Power BI」経由で分析業務を行える仕組みを整えた。

 同行システム部の砂川綾乃氏(システム戦略開発グループ主任)は「膨大な顧客データを処理するために、容量や負荷に応じて最適なパフォーマンスをスケーラブルに提供してくれるサービスを模索した結果、Microsoft Azureに行き着いた」と話す。

 選定の理由はそれだけではない。沖縄銀行システム部の高宮修二氏(システム企画管理グループ 上席調査役)は「データレイクと分析の仕組みを構築する場合、数あるPaaS系サービスを検討したが、Azureの優れた拡張性、GUIでの容易な設定変更、高度な分析機能が魅力的だった。さらに、データ分析の可視化ツールとしてPower BIの存在も大きかった」と付け加える。運用開始後に求められるであろう、予測不可能なニーズに柔軟に対応するためにも、「Azureは現時点で最適解と判断した」(高宮氏)。

 データ分析基盤の開発をサポートしたジールの永田亮磨氏(SIサービス第三本部 ビジネスアナリティクスプラットフォーム事業部シニアコンサルタント)は、次のように補足する。「IaaSでマシンをホストする仕組みだと、将来的に発生するであろう、さまざまな角度からの分析ニーズに柔軟に対応できないと判断した。そこで、さまざまな分析ニーズ、およびデータ分析基盤に必要となる要件を考慮済みの形で提供されているAzure PaaS(Data Services)の組み合わせを提案した」と説明する。

 Azure上に構築されたデータ分析基盤の構成は、次の通りだ。まず(1)既存のオンプレミス環境からデータをAzureに送信するため、帯域保証型の専用線サービス「ExpressRoute」を設定。そして(2)データの読み込み、加工、出力をオーケストレートするためのサービス「Azure Data Factory」を経由し、ビッグデータの一次格納先に適した機能を有するデータレイク「Azure Data Lake Storage Gen2」と連携させる。

 次に(3)データウェアハウスへのデータロードを行う前の一次加工・並列分散処理を施すために、Azure Databricks(Spark as a Service)を利用。(4)処理されたデータは、Azure Synapse Analytics(SQL Data Warehouse)にロードされ、最終的にはクエリに最適な形(Clustered Columnstore Index)で格納される。そこから(5)Power BIを使って、Azure Synapse Analyticsに格納されたデータをさまざまな分析ニーズに合わせてビジュアル化し、作成した分析レポートを基に行内関係者に情報提供を行う──という流れになる。

photo データ分析基盤の構成図

積み重ねたノウハウが生きるセキュリティ

 今回の取り組みは、銀行の案件だけにセキュリティ要件についても高いレベルが要求された。「社内LANからAzureへのアクセスは、ExpressRouteを経由したルートに限定し、データの暗号化とロールベースでのアクセス権限の設定を実施した上で、Azure AD認証とSQL Server認証で保護・管理を実施している」(砂川氏)という。

 ネットワークのセキュリティ要件定義については、ワークショップの開始前に事前打ち合わせで綿密に確認。「沖縄銀行全体のシステム・アーキテクチャの説明を受けた上で要件定義を行った。セキュリティに関するAzureのベストプラクティスがあるので、それに倣う形で定義した」(ジールの永田氏)という。

 とはいえ、ベストプラクティスがあるといっても、十人十色ならぬ十社十色。それぞれの案件で最適解を定義する必要があるはずだ。こうした点は、ジールが過去に積み重ねたさまざまな実績、ノウハウが生きていることは間違いないだろう。

 ジールの永田氏は、セキュリティ要件に関する沖縄銀行側の意思決定が、非常に迅速だったとも振り返る。ジールがクライアント企業にネットワーク要件を提示した場合、各社独自のネットワークポリシーとの間で、調整が必要になる案件も多く、最終的な判断が遅れてしまうことは珍しくないという。しかし、沖縄銀行の場合は「こちらで提示した要件を素早く確認してくれたこともあり、ワークショップで、本番と同等のアーキテクチャのもとで作業を進められた。それが迅速な開発に結び付いた」(ジールの永田氏)という。

1億件のデータ処理が15分で完了

 今回の取り組みは、事実上のスタートが2019年10月で、おおむね2〜3カ月で構築まで完了したという。驚異的なスピード開発の背景には、沖縄銀行システム部のメンバーが「Azureについてのスキルを少なからず習得していた。基礎が整っていた」(日本マイクロソフトの武田雅生氏)ことが大きいという。

 それもそのはずで、高宮氏は「クラウド導入のメリットと課題を検証する意味もあり、以前、AI機能『Azure Cognitive Services』を使い、社内向けのアプリケーションを開発した」と打ち明ける。さらに、AzureとPower BIを使い「お客さま向けのアンケートシステムの構築を行った経験もあり、このときに、AzureやPower BIに対するスキルをある程度獲得できた」(砂川氏)と話す。

 ジールの永田氏は「4日間のワークショップを実施しただけで環境構築にまで至った。沖縄銀行の方々の、自ら問題を解決しようという姿勢からくる内製力の高さには驚きを禁じ得なかった」と明かす。

photo ワークショップの様子

 こうした沖縄銀行のメンバーの努力に、技術的なサポートがうまくかみ合った。ワークショップではダミーデータではなく、口座番号などセンシティブな情報をマスクした実際の顧客データを用い、分析シナリオを構築した。

 初期分析対象の顧客データ件数は、約1億件にも上る。これらのデータを分析するためには、オンプレミス環境から新しく構築する分析基盤にロードする必要があり、「データに必要となる加工処理・ロードの時間を考えると、スケーラビリティのない環境では、少なくとも数時間程度かかるだろう」(日本マイクロソフトの武田氏)とヒアリング当初から想定していたという。

 しかし「『Azure Databricks』(Spark)を活用することで、ETL処理を並列分散で実施したのちにAzure Synapse AnalyticsにPolyBaseロードが終わるまで、時間にして15分程度で完了した」と、武田氏は満足げな笑みを浮かべる。

 1億件分のデータ加工処理が実行された際は「処理レベルに応じてSparkのCatalyst オプティマイザーが適切に働きクエリプランが選択され、Spark ClusterのVMインスタンス数が自動的に2nodeから8nodeに増え、並列分散処理が終わるとSpark Clusterが自動停止する様子を、リアルタイムで確認できた」という。

 AzureのMPP(Massively-Parallel-Processing)アーキテクチャの柔軟なスケーラビリティを活用することで、データ分析の準備にかかる時間・コストを大きく短縮できただけでなく、今後増大する顧客データに対しても十分対応できるスケーラビリティを確認でき、データ分析基盤への信頼感を得ることができたという。

 ジールの永田氏は、こうした結果に「基本的なルールに従って、Azure上にデータ分析基盤を構築すれば、十分な処理能力を確保できることが分かった。同時に、Azureの基本能力の高さを確認できた」と笑う。

 沖縄銀行の高宮氏は「ワークショップを始める前は、データ分析をどのように進めていくか、どんな結果が出るか、イメージが湧きにくかった」と話す。だが、Azureの技術的なメリットを生かし、ダミーデータではなく実データをある程度の規模感で扱えたことで、「試行錯誤しながらも、アウトプットイメージを膨らますことができ、最終的に分析シナリオの構築がうまくいった」という。

 同じくシステム部の砂川氏は「同じようなことをオンプレミス環境で進めようとすると、コストもかかるし、ハードスペックも結構なものが要求される。クラウドであれば、必要なときに必要なだけ利用できる。また、Microsoft Azureは思い立った時にすぐ開発に取り組める。なぜならAzureは、さまざまな非機能要件(性能・拡張性・セキュリティ・運用など)を幅広く、かつきめ細やかに実装された上でサービス提供されているからだ。これは、他社クラウドサービスと比較してMicrosoft Azureが優れているところだ」と強調する。

「データをビジュアル化することで生まれる説得力を肌で感じた」

 本番運用では、銀行内の職員がPower BIを使い、分析業務を行うことになる。前述のように、沖縄銀行は今回のシステム導入前からPower BIを活用したアンケート可視化システムを構築していたこともあり、データ分析の結果を可視化するツールとしてPower BIの導入は必至だった。

 同行システム部の武藤亮太氏は「Power BIのメリットの1つは、データのビジュアル化がしやすいことだ。専門的な統計の知識がなくても、どういったグラフを作りたいかを選び、項目にデータを当てはめていくだけで作れる」と話す。

 武藤氏は「ワークショップでは、当初定めた分析シナリオに合わせて3つのレポートを作成できた。今ではそのレポートのブラッシュアップだけでなく、新規のレポート開発も含めて効率的に進められている。このスピード感は、Power BIの使いやすさだけでなく、Azure Synapse Analytics(SQL Data Warehouse)によって膨大なデータを高速参照できるおかげもあり、実現できた」とも語った。

 実際に、プロトタイプの分析結果をPower BIでビジュアル化し、営業部門にプレゼンしたところ、「お客さまの状況が一目瞭然だ」と驚かれたという。砂川氏は「膨大なデータを多様な観点からビジュアル化・分析することで生まれる説得力を肌で感じた」と胸を張る。

photo Power BIの分析画面。マーケティング施策がアプリの利用状況にどのような影響を与えたか、定量的な効果を測定できるようになったという
photo アプリ利用者の属性や状況から融資対象者の抽出を試みている

 本格運用を開始した暁には、武藤氏は「(ビジュアル化したデータを基に)ビジネス部門と密接なコミュニケーションを積み重ね、デジタルマーケティングの施策を練り、営業の現場に落とし込むようにしたい」と抱負を語る。

 Power BIに組み込まれた“AI機能”の活用にも前向きだ。以前、開発したアンケート可視化システムでは、Azure Cognitive Services(Text Analytics API)とPower BIを連携し、自由記述の回答から特定キーワードを抽出・集計するといった試みも行ったという。今回の取り組みではPower BI組み込みAI機能(Key Influencer機能(要因探索)、クラスタリング機能など)を試した。本格的な活用はこれからだが、「既にノウハウを習得しているため、利用する職員がどういう属性の顧客がいるかを知りたい場面で、こうした機能の本格的な活用にもチャレンジしていきたい」(砂川氏)という。

 高宮氏は「未来の銀行は、仮想空間にあったり、AIを活用していたり、いろいろな可能性があると思う。そうした姿を実現するためには、データを蓄積し、分析基盤を整えていくこと、またその為にチャレンジをし続けることが必要だ」と語る。

 加えて「変化の激しいこの時代においては、明確なゴールを策定することよりも、アジャイルに試行錯誤しながら進めていく“プロセス”そのもの、つまり、臨機応変さのほうが重要だ。さまざまな成功と失敗の積み重ねが結果的に新たなビジネスを創出し、次世代の銀行に必要とされるケイパビリティを形成した結果、銀行はお客さまに対して真の価値を提供することができる、と確信している」と力を込めた。

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