世界中から集まるデータ、生産計画に生かせ ヤマハ発動機の革命劇

» 2020年06月10日 10時00分 公開
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 世界で最も名の知れた二輪車メーカーの1社であるヤマハ発動機株式会社。同社が生産する二輪車は、日本国内はもとより欧州、米国、オーストラリアをはじめ世界各国・地域で広く流通している。さらにアジア新興国では現地の工場で生産されたオートバイが多くのライダーの心をつかんでいる。このように今や世界中に販売網を張り巡らせているヤマハ発動機だが、その市場の状況の把握には苦労していたという。

photo 左からヤマハ発動機の横山研一郎氏(生産本部 生産戦略統括部 デマンドチェーン革新部 情報戦略グループ 主務)、山本剛氏(生産本部 生産戦略統括部デマンドチェーン革新部 情報戦略グループ 主事)

 同社の横山研一郎氏(生産本部 生産戦略統括部 デマンドチェーン革新部 情報戦略グループ 主務)は「お客さまのニーズが多様化してきたことで、以前にも増して需給調整の難易度が増しています。お客さまが購入しようと思った時に製品をタイムリーに提供するためには市場の状況を瞬時に察知する必要があります。顧客満足度を向上させながら、在庫を適正に維持するためには生産計画、供給計画のレベルを向上させる必要があり、そのためには鮮度の高い情報を得ることが必要不可欠でした」と指摘する。

 そこで、同社はデータ分析基盤の構築に乗り出した。世界中の拠点から販売や在庫に関するデータを自動的に収集し、その内容を全社横断で参照・分析できる仕組みを整えれば、生産・供給計画のレベルを向上させられる。そんなプロジェクトの舞台裏に迫った。

データの鮮度を高める

photo ヤマハ発動機の横山研一郎氏

 顧客が欲しい商品を、欲しいと思うタイミングでタイムリーに提供するには、世界中の市場の状況に常に目を光らせ、ニーズに即した商品在庫を適切な分だけ確保しておく必要がある。この在庫の補充が遅れれば顧客の満足度は下がり、商機を逸する。かといって過剰在庫を抱えてしまうと余分なコストが掛かる。売れ行きの動向に合わせ、最新の在庫状況と照らし合わせながら適切な生産計画・供給計画を立てる。この計画の出来によって、メーカー企業の収益は大きく左右される。

 全世界の販売拠点から販売状況などのデータを受け取り、日本の本社ですぐに生産計画・供給計画に反映させる──そんなデータ活用の理想を描いていたが、さらなるレベルの向上には課題があった。横山氏は「全世界からデータを集めるとき、人手を介していたのでデータ入手に時間がかかる」と話す。データの鮮度に課題があったのだ。

 「生産計画・供給計画のレベルを向上させるためには、常に最新の売れ行き状況や在庫状況を知りたいのですが、人手を介すことにより工数と時間を要していました。そのため人手を介すことなく情報を入手することでデータの鮮度を向上させることを考えました」(横山氏)

システム開発の素人でも、約3カ月間で構築

 こうした手間を解消するため、横山氏らはデータ分析基盤の構築に乗り出した。構想自体は2018年初めには上がっており、プロジェクトリーダーを務めた山本剛氏(生産本部 生産戦略統括部デマンドチェーン革新部 情報戦略グループ 主事)は、これまでと異なるアプローチでプロジェクトを進めたと打ち明ける。

 「デマンドチェーンの変革のベースとなるデータ分析基盤をスピード重視で導入したい、また将来的な追加開発のことも鑑み、保守運用も自分たちで行いたいという思いがあり、IT部門と相談しながらも自部門主体で構築・運用を行うことにしました」(山本氏)

photo ヤマハ発動機の山本剛氏

 そこで山本氏らは思い切って、生産部門(デマンドチェーン革新部)単独でデータ分析基盤の実現を目指すことにした。とはいえ、メンバーは生産に関してはプロ中のプロではあるものの、システム開発に関しては素人も同然。当初は不安だらけのスタートだったという。

 システム開発のため、数あるクラウドサービスを比較・検討し、最終的に「Microsoft Azure」を採用。2019年8月に開発プロジェクトが始動した。日本マイクロソフトのパートナー企業である株式会社ジールが協力し、同社のサポートのもとで山本氏らが開発・構築を急ぎ、11月末には一通りの作業を終えられた。

 約3カ月間でシステムの構築作業が完了した背景には、ジールの手厚いサポートに加え、コーディングの知識が不要といったMicrosoft Azureの直感的な使いやすさもあったという。山本氏は「今振り返ってみても驚きを禁じ得ません。今やクラウド時代になり、ITの専門家以外の人々にとってもシステム開発が身近なものになったことをつくづく実感しました」と顔を綻ばせる。

「見える化」で大きな手応え 需要予測にも挑戦へ

 実現した新たな情報基盤は、情報を集計するところから運用をスタート。早くも「見える化」を進め、大きな手応えを感じているという。

 横山氏は「現地のシステムからMicrosoft Azure上のデータベースに自動的にデータを取得する仕組みになっているため、これまでと比べると格段にデータの鮮度が上がりました。このデータを活用することで需給調整のサイクルを高サイクル化することも可能ではないかと期待しています」と笑顔を見せる。

 店頭でバイクが売れたら工場や倉庫からすぐに在庫を補充する、というプロセスを加速させる活動を進めていく考えだ。「お客さまが欲しいときに買えるためには、店頭に在庫がなければなりません。情報のやりとりを速めることで、補充のタイミングを速めます」(横山氏)

 こうしたデータは、生産部門だけに閉じたものではない。他部門でも有用だ。横山氏は「各関連部門でのトレーサビリティー、履歴管理や物流コスト改善にも活用したい」と期待を込める。既に「データを見える化したい」という問い合わせが他部門から来ているという。

photo ヤマハ発動機の「YZF-R1」

 さらに、ゆくゆくは今回構築した情報基盤上のデータを使い、AIなどによる需要予測も視野に入れている。

 ヤマハ発動機は現在、世界中の生産・販売拠点を網羅した需給最適化の仕組み「グローバルPSIシステム」の構想を推し進めている。Microsoft Azure上に今回構築した情報基盤は、このグローバルPSIシステムにインプットするデータを管理するプラットフォームとも位置付けられている。

 横山氏は「よりスピードと精度を高めていきます。インプット情報を基に需要を予測し、グローバルPSIシステムに取り込んで、需要に即した生産計画・供給計画策定につなげます」と意気込む。データによって状況を見える化し、生産・在庫供給のレベル向上を推し進め、顧客の満足度向上にもつなげる──ヤマハ発動機の挑戦は続く。

(後編)「不安が自信に変わった」 クラウド初心者が挑んだ3カ月間 ヤマハ発動機のデータ分析基盤ができるまで

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 「クラウドは作ったことがなく、サーバのことも詳しくは知らない。製造のことを聞かれれば答えられますが、クラウドに関しては初心者でした。そんな私たちが世界中のオートバイのデータを1カ所に集めて分析し、最終的に世界中の拠点の担当者が参照できる仕組みを作れるかどうか、プロジェクトの発足当初は不安でした」

 ヤマハ発動機株式会社の山本剛氏はそう打ち明ける。約3カ月間という短期間で、山本氏はどのようにしてデータ分析基盤を構築したのか。舞台裏に迫る。


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