2019年の開始以来、多様な最新論文を取り上げている連載「Innovative Tech」。ここではその番外編として“ちょっと昔”に発表された世界中の個性的な研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
女性の閉経は、単なる生殖機能の終わりではなく、脳の構造や働きに影響を及ぼす。学術雑誌「Scientific Reports」で2021年に発表された研究は、161人の女性を対象とした分析を通し、閉経の時期に脳のネットワークやエネルギー代謝がどのように変化するか明らかにした。
分析の結果、更年期に入ると記憶や思考に関わる脳領域(灰白質や白質)の体積が減少し、主なエネルギー源であるブドウ糖の代謝が低下することが確認された。
しかし、閉経を迎えると脳は新たな環境に適応し、ブドウ糖の不足を補うように、別の経路でエネルギー(ATP)を作り出すようになっていた。一部の脳領域(楔前部)では体積の回復も見られ、この適応メカニズムがうまく働くことで記憶力などの認知機能は維持されることが示された。
一方で、アルツハイマー病のリスク遺伝子(APOE-4)を持つ女性では、この時期から原因物質であるアミロイドβの蓄積が同年代の男性より進むなど、将来の疾患リスクが動き出す時期であることも指摘されている。
26年にPsychological Medicine誌で発表された、英国の臨床情報収集機関「UKバイオバンク」のデータを用いた研究では、約12万5000人という女性(閉経前4万9772人、HRT未利用の閉経後5万2252人、HRT利用の閉経後2万2756人)を対象とした調査結果も明らかになった。HRTとは、更年期の症状を緩和するホルモン補充療法を指す。
調査の結果、閉経後の女性は閉経前に比べ、感情や記憶を司る内側側頭葉(海馬や嗅内皮質)や前帯状皮質の灰白質容積が減少していることが判明した。さらに、不安やうつ傾向、不眠や疲労感といったメンタルヘルスや睡眠の悪化も見られた。ただし、記憶力などの認知機能自体に大きな低下は見られなかった。
ちなみに、HRTを利用している女性の方が、利用していない閉経後の女性よりも海馬などの脳容積が小さく、不安やうつのレベルも高い傾向が示された。ただし研究チームは、これはHRTが症状を悪化させたというより、もともと不安やうつを抱える女性ほどHRTを処方されやすいためと解釈している。
妊娠前後で脳は変化するか? 38歳の妊婦を約3年間追跡 米国チームが24年に研究発表
大画面ディスプレイ1台 vs. 複数枚ディスプレイ──作業効率がいいのはどっち? 2009年発表の論文を紹介
週52時間以上の長時間労働→脳の構造が変化 MRIで100人以上の脳を調査 韓国の研究者らが発表
ダンゴムシの足と遠隔で触れ合える装置 立命館大が開発Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
Special
PR